
資産家一族が集まって莫大な遺産を奪い合う——多くの人が抱く「相続」のイメージだが、現実は違う。うちは普通の家庭だからと「遺言書」をつくらずにいる人ほど、相続争いや相続税に苦しむことになる。誰も後悔しない「最強の遺言書」をつくるための家族会議の開き方を解説する。【全3回の第2回。第1回から読む】
もめごと回避には分け方の「理由」を明確に共有すること
誰が何を、どれくらいもらえるか──「分け方」こそ、相続のいちばんの難所で、もっとももめやすい部分。家族会議の時点でもめないためには、遺言者が守るべきポイントがある。
「遺言者があらかじめ分け方を決めておき、会議ではその承諾を得るだけだと心得てください。
“どう分けたらいいと思う?”“どれくらい欲しい?”などと尋ねればお姉ちゃんが多くもらうならお父さんの介護はお願いね、おれは家はいらないから預貯金は8割ちょうだいなどと、それぞれが好き勝手なことを言い出してもめごとになります」(明石さん)
遺言者が分け方を決めて提示する以上、なぜそう分けたのかという意図や意思も共有すべきだ。司法書士で行政書士の太田昌宏さんが言う。
「多くの場合、法定相続分(法律で定められた最低限の遺産相続割合)が確保されていれば、文句が出ることは少ないと言えます。
とはいえ、相続には過去の家族関係や心理的なわだかまりも深く影響するため、たとえ金額は平等でも、心理的には不公平な場合がある。それを解消するため、分け方の『理由』を明確に共有することが、もめごとの回避につながるのです」

例えば「長女にはマイホームの購入費の頭金を出してあげたから、預貯金は次女に多く渡す」「この家は長男よりも、子供が4人いる次男に渡したい」など。そうした理由や、過去に渡したお金のことは、相続人である子供に言わせるのではなく、親の方から切り出すべきだと、相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんは言う。
「子供から言い出す流れができてしまうと私は大学に行かせてもらってないなどと、感情的な言い合いになりやすい。そうした言い合いが始まると、多くの場合、小学校時代にまでさかのぼったきょうだいげんかになるだけです。
マイホームの頭金は法律上、特別受益や贈与に当たりますが、大学に行ったかどうかは子供本人の選択も関係する場合があるため、相続と直接の関係はない。不満の言い合いにならないように注意してほしい」
そのためには、あくまでも「事実の共有」にとどめるよう、遺言者である親が舵を取ることだ。感情的な言い合いになりそうなら、より具体的な「議題」に移ってしまうのも手。
可能なら「二次相続」対策や「予備的遺言」の内容も検討を
可能なら、「二次相続」の対策についても話し合っておきたい。父(夫)が亡くなって相続となった後、母(妻)が亡くなった後に備えておくものだ。
「母と子供2人が相続人なら、基礎控除額は4800万円。母には1億6000万円までの配偶者控除があるため、母が相続すれば相続税がかからない場合が多い(図参照)。ところがその後、母が亡くなった場合、基礎控除額は4200万円に減る。さらに、残された子供たちの間で“どちらが介護したか”“持ち家か賃貸か”などの争いが起きやすくなっていることもあります」(明石さん・以下同)

そうした先を見越して「妻の死後は自宅を売って半分ずつ分けてほしい」「同居してくれている方に生命保険金で色をつける」など、相続人が納得できる公平な対策ができればベスト。だが、二次相続対策においても、あくまでも主導権を握るのは親であるべきだ。
「相続人から意見や希望が出ても、すべて言いなりになっては子供たちの思い通りの遺言書になってしまう。主体は財産の持ち主であることを忘れずに、わかった、考えておくねとだけ言って、最終的には遺言者の意思で決めましょう」
また、夫が妻と子供に遺言書をつくっていても、先に妻が亡くなってしまう場合もある。その際に財産をどう分けてほしいかなど「予備的遺言」の内容も決めておくと、最強の遺言書にまた一歩近づくだろう。こうして話し合った内容は必ず記録しておき、後日メールやLINEなどで相続人全員に共有しておくことも忘れてはいけない。

(第3回に続く)
※女性セブン2025年9月25日・10月2日号