
歯磨き、デンタルフロス、歯間ブラシ、洗口液―丁寧な口腔ケアを習慣にしていても、虫歯やにおいなど衛生状態は常に気になるもの。そこで、安価で高い効果が見込めるのが「重曹うがい」だ。1日1回行うだけで口臭や虫歯を予防し、口の中はいつもスッキリ。驚きの効果を体感してみよう。
都内在住のYさん(63才)がこう話す。
「休日は友人とランチに出かけるのが好きなのですが、自分の口臭が気になって、積極的に会話ができません。先日、孫と遊んでいたときに『ばぁばの口がくさい』と言われたのがショックで、以来、ますます友人と話すのが怖くなってしまって。
歯が弱いのでガムを噛むのは避けたいし、人と会うのもおっくうになってきています」
虫歯や歯周病が全身の健康に直結し、口腔環境が寿命を左右することはいまや常識になっているが、年を重ねると口臭問題も深刻だ。歯科医院で定期的なメンテナンスや毎日の歯磨きをしっかり行っていても、Yさんのようにトラブルに悩む人は少なくない。
そこでいま注目されるのが「重曹うがい」だ。重曹は炭酸水素ナトリウムという弱アルカリ性の物質で、高い研磨効果があるため日常で掃除や鍋磨きに使用している人は多いだろう。口臭だけでなく虫歯の予防など、口腔ケア全般に発揮する驚くべき効果とメカニズムについて、八王子きずな歯科院長の杉山裕貴さんがこう解説する。
「重曹うがいの最も顕著な効用は、口臭の解消です。口臭といってもいろいろなタイプがありますが、特に多いのが食後に口の中が酸性に傾くことで発生するケースです。アルカリ性の重曹を口に含めば口腔内のpH(液体が酸性かアルカリ性を示す指標)を中和できるため、口臭を抑えることができます。
また、口腔内が酸性の状態になると、歯のエナメル質が溶けだして虫歯になるといわれます。つまり、重曹うがいでpHを中和すれば、虫歯予防に一定の効果があると考えられるのです」
ごうデンタルクリニック院長の尾上剛さんも言う。
「虫歯の原因になるのは、口腔内にいる細菌が作り出す乳酸です。食後数分で口腔内はpH4.5~5.5の酸性の環境になりますが、通常は唾液の働きで40分ほどかけて中和されていくため、細菌の増殖が抑えられます。食後に重曹うがいをすれば、酸性になった口腔内をいち早く中性に戻せるため、虫歯のリスク低減に役立つことが期待できます」
口の中の不快感も解消される
重曹うがいの効果を実感するためには、正しい分量を守り、正しい手順で行うことが大切。
「はじめに注意してほしいのは、重曹にもさまざまな種類があることです。口に入れるわけですから、食品用の重曹を使用すること。くれぐれも、清掃用として販売されている重曹は避けてください。
次に、重曹水の作り方です。理想的な濃度は水500mlに対して、重曹3g(小さじ1)を溶かすことです。あとは、口に含んだ重曹水を、10秒ほど口の中全体にいきわたるようにブクブクとゆすいで、吐き出すだけ。その後は水で口の中を軽くすすげば完了です」(尾上さん)
重曹うがいのタイミングについて杉山さんは、取り組みたい口腔ケアに合わせて検討してほしいとアドバイスする。
「虫歯予防の観点からすれば夕食後に行うのがいいと思いますが、私がおすすめするのは寝る前。歯磨きを行い、その後に重曹うがいをすれば、酸性になっていた口の中を中和させることができます。
爽快感が得られるので、一日の気持ちをリセットできることでしょう。早朝にありがちな口腔内の不快感も緩和されます」
重曹水は冷蔵庫に入れれば数日は保管できるため、一度作れば数回うがいができる。ただし、重曹うがいを行う頻度には注意してほしい。
「いくら口の中がスッキリするからといって、1日に何度も行うと、歯肉や口腔内全体が荒れてしまうことがあります。回数は1日1回で問題ありませんし、決まった時間に行うように習慣づける方が効果的です」(杉山さん・以下同)

歯磨きに使うと歯を傷つける
重曹は効果が大きいぶん、用法を守って正しく扱いたい。うがいは推奨されるが、歯磨きに使うことはデメリットが多く、控えるべきだという。
「重曹には研磨作用があるため、歯磨きをした後には表面が白くなりますし、ツルツルしているように感じられます。そのため、黄ばんでいる歯を白くしたいと重曹で歯磨きをするかたが見受けられます。
しかし、重曹を歯ブラシにつけて力強く磨いてしまうと、歯の表面が傷つくことがあります。歯を形作るエナメル質が削られると、刺激に敏感になったり、かえって歯が着色しやすくなる可能性も。歯科医が行うホワイトニングは歯の内部も白くするものですから、別物と考えてください」

すでに歯周病になっている場合は、重曹うがいは禁物だ。
「歯周病は、口腔内がアルカリ性になることで悪化します。重曹を使用すると、歯垢にすみついて歯周病の原因を作る細菌の繁殖を助けてしまい、逆効果となります。
また、口臭の予防効果はありますが、重い症状を患っている場合は、歯周病や舌苔の治療を行う方が効果的です。口腔内の悩みを抱えているかたは、まずは歯科医院に相談するのがおすすめです」
重曹に含まれる、塩分の副作用にも注意したい。
「重曹うがいは必ず分量を守ってください。濃度が高すぎると、塩分が歯肉に刺激を与える可能性があります。口に含んだときにわずかにしょっぱさを感じる程度の濃度で行うことを推奨します」
尾上さんもこう続ける。
「重曹うがいに使う水は、くれぐれも飲み込まないように気をつけてください。濃度が高いと塩分の過剰摂取につながるリスクがありますから、生活習慣病を患っているかたは注意してほしいですね。また、喉の粘膜を傷つける可能性があるため、上を向いてガラガラと勢いよくうがいするのは避けるようにしましょう」
1日1回を習慣づければ、口臭を抑え、歯が着色しにくくなる効果がみられるのだから、気になる人は実践してみる価値がある。口腔内が健康であるメリットは、自信をもって笑えるようになることだ。メンタル面でもプラスの効果がある重曹うがいを毎日の口腔ケアにに取り入れてみてはいかがだろうか。
※女性セブン2025年10月9日号