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【お金を使い切って迎える理想の最期】精神科医・和田秀樹さん「残る物に興味がない。なくなる物にお金を使うのが粋」子供に残すべきは財産ではなく“稼ぐ力” 

高齢者専門の精神科医・和田秀樹さん
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「ぼくはもう20年以上前から、“財産は残さず使い切った方がいい”と言い続けているんです」。そう語るのは、高齢者専門の精神科医である和田秀樹さん(65才)。約35年にわたって6000人以上を診てきた経験から、財産の「使い切り」を推奨する。

「“離婚して出戻った娘が勝手に親の財産を自分名義にしたけど、ほかのきょうだいから親はそのときにはボケていて判断能力がなかったはずだから認知症の鑑定書を書いてくれ”というような依頼が、ぼくが若手医師の頃から何度もあった。骨肉の遺産争いを間近で見て、死ぬときにお金を残すとロクなことがないと思うようになりました」(和田さん・以下同)

 多くの高齢者の死と向き合ってきたことも、使い切りを支持する理由だ。

「高齢化が進んで85才以上で死ぬ人が圧倒的に多くなり、60〜70代の子供世代は親から遺産が転がり込んでも使い道がありません。

 年金をもらい、子育てと家のローンが終わった人が親の遺産を手に入れても、結局使わず貯め込むことになり、経済が回りません」

 親が財産を残して亡くなることは日本にとって弊害以外の何物でもない、と断言する和田さんは「相続税100%」を提案する。

「相続税を思いきり高くして若い人の税金や社会保険料を半分にすれば、世の中が活気づいて消費が伸びます。親世代はどうせ高い税金を取られるならとお金を使い切るだろうし、子の世代は親の金をあてにしなくなるでしょう。“財産は一代限りにして、みんなで努力しよう!”という方向に変われば、日本は必ず強い国になります」

 和田さん自身、困ったときに必要となるお金以外は使い切るよう実践している。

財産をあてにして子供たちが揉めるケースも(写真/PIXTA)
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「ぼくは施設には入らず、近い将来実用化されるはずの介護ロボットに介護してもらって最期まで自宅で過ごすつもりで、そのためのお金は残してある。でもそれ以外は全部使うつもりで、趣味のワインには毎年1000万円以上は使い、旅行にも出かけます。残る物に興味がなく、なくなる物にお金を使うのが粋だと思う。年を取ってお金が減ることを怖がる人もいるけどお金は使うためにあり、幸せや日々の快適さにつながる物やコトを買うべきです」

 人生の終盤に向けて私生活でも整理を進めて、離婚した妻には財産をきっちり半分渡したという。

「自分の責任として財産を分与しました。気の合わない奥さんに財産を半分渡すのが嫌だから離婚しないという人がいますが、その人たちは自分の幸せよりお金の方が大切なのでしょう。ぼくは気が合わないなら、財産を渡して別のパートナーと一緒になった方が幸せになれると思います。

 たとえば奥さんと死別して寂しくなり、近所の小料理店の女将と再婚しようとしたとき、財産がなければ周囲から“幸せになってね”と祝福してもらえるのに、下手に財産があると“金目当てだ!”なんて叩かれるでしょ(苦笑)。やっぱり財産は残せば残すほど自分が幸せになりにくいんですよ」

 2人の娘には小さな頃から「親の金をあてにするな」と伝えてきた和田さんは、残すべきものもあると語る。

「親が子供に残すべきなのは“稼ぐ力”です。そのために教育にお金を使ってほしいし、早いうちから財産を残さないことを伝えておけば、子供たちは自力で稼ぐ気になるはず。それ以外は死ぬまで好きなことにお金を使い続けて、楽しい思い出を残せばいいんです」

【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1985年、東京大学医学部卒業。1987年の『受験は要領』がベストセラーになって以来、大学受験のオーソリティとしても知られる。本誌・女性セブンで『ドクター和田秀樹の逆説の健康相談室』を連載中。

女性セブン2025111320日号

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