
脳は年齢とともに直線的に成長し、頂点に達したら劣化していく──そう考えている人は多いかもしれないが、英ケンブリッジ大学が発表した研究結果によれば、脳の発達には4回に及ぶ大きな「曲がり角」があるという。昨年11月、学術誌『Nature Communications』に掲載された論文によると、人間の脳には生涯を通じて「幼少期」「思春期」「安定した成人期」「前期老化」「後期老化」という5つの段階があり、そこには「9才」「32才」「66才」「83才」という4つの重要なターニングポイントがあるという。第1回では9才のターニングポイント、第2回では32才のターニングポイントについて説明したが、第3回の今回は66才のターニングポイントについて解説する。【全4回の第3回。第1回から読む】
66才からは手芸やガーデニング、折り紙など指先を使う趣味を持つ
66才になると脳は安定期を脱して「前期老化」が始まる。『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』の著者で、脳科学者の西剛志さんが指摘する。
「老いの始まりを示す66才以降、白質の劣化が加速します。それまで使われていた脳全体のネットワークが分断され、脳内の独立した場所がそれぞれに機能するようになります」
この年代は脳の劣化と並行して認知症や高血圧、糖尿病などの病気を発症しやすくなる。66才は“老後に向かう曲がり角”の年齢といえるが、「もうダメだ」と嘆いて落ち込む必要はない。金町駅前脳神経内科院長で脳神経内科医の内野勝行さんが言う。
「最近の研究で、側頭葉の内側にあり記憶を司る海馬は、何才になっても回復することが示されました。確かに66才から脳の機能は全般的に落ちていきますが、問題を解決する能力や、何事にも悲観せずポジティブになる能力などは、年齢を重ねるほど身につけることができます。前期老化だからとあきらめず、脳を若く保つためできることを地道にやるのがいいでしょう」
認知症リスクが高まるこの年代、内野さんは「脳のメンテナンス」を推奨する。
「アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβを除去するには、脳のメンテナンスが欠かせません。まずは不眠やストレス、喫煙などの危険因子を避け、適度な運動を心がける。人は単純作業を繰り返すとき瞑想状態に入って脳内が整理されるので、食器洗いや洗濯などの家事に没頭するのも効果があります。興味があれば、写経などを行ってもいいでしょう」
ただしスマホに熱中すると逆に脳が疲弊するので、スマホの長時間使用は避けるべきだ。西さんは「普段行かない場所に行く」ことをすすめる。
「これまで行ったことがない場所に行くと、海馬のなかにある、場所を記憶する場所細胞が刺激されて脳全体が活性化します。場所を変えるだけで海馬が刺激されて、記憶力そのものが50%アップするという海外の研究もあります」
趣味を持つことも脳を刺激する。特にこの時期は手指を動かす趣味が効果的だ。
「認知症リスクを減らす趣味を調べた日本の研究によると、女性のトップは手先を使う手芸でした。手芸のほかにもガーデニングや折り紙といった指先を使う趣味は、脳の前頭前野を刺激して認知症を予防する効果が期待できます」(西さん)

暇ではない日々を過ごすことも心がけたい。
「自分がどんどんボケていく気がします」
こんな悩みを持つ内野さんの患者は、一日中家でテレビを見てばかりだった。
「暇な人ほどボケやすく不安になりやすいので、毎日なるべく予定を持つことが大切です。何をすればいいかわからなければ、最寄りのバス停からバスに乗って2つめの停留所で降り、目についた喫茶店に立ち寄ってお店の人と言葉を交わすのが望ましい」(内野さん・以下同)
知らない人と出会うと脳は活性化されるが、近しい人と話してもその効果は薄い。それゆえ老夫婦は「夫と妻以外」のコミュニケーションをするのが望ましい。
「定年後の夫が家にずっといる場合、妻はなるべく外出して別行動をすることをすすめます。
異性との会話は海馬を活性化するので、妻が男友達を作ることも脳の老化防止に役立つでしょう」
栄養面では特にコレステロールに注目したい。
「従来コレステロールは健康に悪いイメージがありましたが、近年はコレステロール値が低いと死亡率が高くなるとの研究があります。しかもコレステロールは特に65才以降は体内で作られる量が減るので、体外から摂取するのが望ましい。
コレステロールには、高齢者に多くみられるうつ症状を防ぐセロトニン神経を活性化する働きもあり、年齢を重ねたら卵やレバーなど、コレステロールがある程度豊富な食べ物を摂ることが求められます」(西さん・以下同)
(第4回に続く)
※女性セブン2026年3月19日号