さて、質問です。「糖類」「糖質」「炭水化物」の違いはなんでしょう? それがわからない人は、大ブームの「糖質制限ダイエット」のやり方を正確に理解できていない可能性大。今日から正しい糖質制限、始めませんか?
正しい糖質制限ダイエットとは?
「糖質制限ダイエット」は2003年頃、米国人医師のロバート・アトキンス氏によって提唱された「アトキンス・ダイエット」に源流を持つ。日本にも10年ほど前に伝わり、「ローカーボ・ダイエット」とか、「炭水化物抜きダイエット」とか、さまざまな呼ばれ方でブームになってきた。今もなお、雨後の竹の子のように“発明”されるさまざまなダイエット方法の中でも、抜群の知名度と信頼性を持っている。
ただ、広く流行しすぎたせいか、その実践方法は、文字どおりの「十人十色」だ。まず40代主婦のAさん。
「血糖値の上昇を抑える食べ方をしています。サラダなどの野菜を食べてからなら、ご飯や麺などの炭水化物を食べてもいいんですよ」
続いて、30代OLのBさん。
「とにかくご飯は一切、食べません。その代わり、野菜とフルーツ中心の食生活を送っています」
50代主婦のCさんの方法も、また違う。
「白米は消化が悪いんでしょう? だからご飯は、メインの食事前の空腹時にまとめて食べます。集中して消化して時間をおいてから、肉や魚などの主菜を食べます」
聞けば聞くほど、さまざまな“低糖質術”が飛び交う。実は、それらは正しいように見えて、厳密にいえばすべて間違ったやり方だという。
『糖質制限2.0』(KADOKAWA刊)の著者でハタイクリニック院長の西脇俊二医師が語る。
「世間には糖質制限に関して誤った知識が氾濫しています。というのも、トレーニングジムのトレーナーや管理栄養士など、専門的な知識を持たない人が自己流にアレンジして“指導”しているからです。そもそも、日本の大学の医学部では、栄養学は教えても、食事療法は学べません。医師でさえ、食事についてはあやふやな知識しか持っていないんです。“糖質制限もどき”のダイエットを行っても、効果がないどころか、健康を害してしまいかねません」
西脇先生自身、科学的に正しいシンプルな糖質制限で17㎏のダイエットに成功。しかも、現在57才にして体内年齢は30代前半というから驚きだ。では、どんな糖質制限術が「王道」なのか。
「糖は体内で『ブドウ糖』に分解され、エネルギー源として使われます。しかし、現代人は昔の人よりもはるかに糖質を摂取し、しかもエネルギー消費が少ない。そのためブドウ糖の多くは使われることなく余ってしまう。その余剰分が中性脂肪になり、3日後には皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪となって、体内に蓄積されるのです」(西脇先生・以下同)
糖さえ摂らなければ、新たな「脂肪のモト」が入らなくなるので、太ることはない。さらに糖が入ってこなくなると、体は蓄えている脂肪を燃焼し、エネルギー源として使い始める。これがシンプルなやせるメカニズムだ。
「よく糖質制限といいながらも、食べる量を極端に減らして『カロリー制限』をしている人を見かけますが、その必要はないし、ダイエットにも結びつきません。とにかく『糖質』を断てば、カロリーは気にしなくていいのです」
糖類、糖質、炭水化物の違いは?
糖質制限は、「炭水化物抜きダイエット」とも混同されがちだが、これも勘違いだ。誤解を解くためには、「糖類」と「糖質」と「炭水化物」の違いを理解する必要がある。
「『糖類』に該当するのは、最も単位の小さな単糖類とそれが2つ連結した二糖類。ブドウ糖や果物に含まれる果糖は単糖類で、麦芽糖やショ糖などが二糖類です。この糖類に、でんぷんといった多糖類や合成甘味料などを足したものを『糖質』と呼びます」
その糖質に食物繊維を加えたのが「炭水化物」だ。代表格はご存じ、ご飯やパン、麺類などの穀物だ。
「3つの違いを理解すると、一部の野菜や果物も、糖質と食物繊維を含んだ食物だとわかりますよね。炭水化物抜きダイエットの“ご飯さえ抜けばOK”というのは、中途半端な考えだということです」
ご飯やパンを抜く代わりに果物や野菜をたくさん食べる──これでは効果が出ないどころか、かえって太ることになりかねない。
「糖質を摂ると、脳内でβエンドルフィンという快感物質が分泌される。これが“甘いものを食べると幸せ!”という感覚の源で、糖質を摂らないと物足りなくなる感覚と表裏一体になっている。糖質には『依存性』があることを理解しておかなければ、ダイエットは成功しません」
低GIダイエットと糖質制限ダイエットの違いは?
もう1つ、糖質制限ダイエットと混同されやすいのが「低GIダイエット」だ。GI(GIycemic Index)とは、食べたものが血糖値を上げる速さを数値化するもの。そばやはるさめ、レタスなど「低GI食品」は血糖値を上げるスピードが遅いため、ダイエットに適していると考えられている。
「低GIダイエットにもある程度の効果は期待できますが、そもそも糖質を摂ることを大前提としているので、“糖質依存”を断つことができず、誘惑と闘い続けた挙げ句に挫折するというパターンに陥りがち。同様の理屈として“野菜を先に、ご飯を最後に”という食べ方もありますが、それも挫折しやすい方法です」
西脇先生の「究極の糖質制限」は、ご飯やパンなどの炭水化物はもちろん、果物や糖質の多い野菜も断ち、肉や魚などのたんぱく質を中心にした食事に徹するやり方だ。
「厳しい言い方かもしれませんが、糖質制限は中途半端な気持ちや方法でやっても意味がない。まず糖質を徹底的に抑えることで、糖質依存から抜け出し、ダイエットの目標値に達したら、少しずつ制限を緩めていけばいいんです」
意外な効果も!?うつ病も高血圧も更年期障害も治る?
糖質制限を実践するには、「消化力が大切」だという。
「ここでいう消化力とは、食べたものを消化・吸収・代謝する機能のことをさします。糖質制限食はたんぱく質が中心で、胃腸にとっては“重たい”ものばかり。消化力が弱っていると体内に未消化物が残り、それらが体内に蓄積して、さまざまな病気の原因になってしまう」
糖質制限ダイエットの否定派は、まさにこの点を突いている。食生活が脂質やたんぱく質に偏ることで、腎臓などの臓器に負担がかかるという。まずはあなたの消化力を自己診断してみてほしい。
・食事の時間になっても空腹にならない
・食べたものがなかなかお腹の中でこなれない
・胃もたれしやすい
・ランチ後は眠気が強い
それらが当てはまる人は、消化力が弱り気味。究極の糖質制限に取り組む前に、まずは消化力をアップさせる必要がある。
「消化力を上げる最もよい方法は『断食』です。長くても1日、たいていの人は1食抜くだけでも効果が出ます。ランチを抜くなど、プチ断食で空腹を感じるようになったら、“空腹になるまで食べない”習慣をつけてください。人類にとって歴史の浅い『1日3食』ルールに縛られる必要はありません。ただ、食べるタイミングは毎日一定にすること。自分が空腹になる時間を観察し、ちょうどいい食事の時間を探してください」
そもそも消化力が弱い人は、日頃から糖質を摂りすぎているケースが多いという。
「糖を摂ると交感神経が刺激され、“緊張モード”に入ります。脈拍は高まり、呼吸が浅くなり、血管が収縮して血圧も上がる。一方、消化は副交感神経が優位の時の活動なので、糖を習慣的に摂っていると消化機能がきちんと働く時間がなくなる。そのため消化力が落ちていくんです」
そうして消化力を高めたうえで糖質制限を実践すると、ダイエットのみならず、さまざまな健康効果が生まれる。
「そもそも私が糖質制限に着目したのは、糖尿病患者にうつ病が多いからでした。糖を摂りすぎると、血糖値を下げるインスリンの働きが弱まり、異常を感じた体が繰り返してインスリンを分泌してしまう高インスリン血症、いわゆる糖尿病の状態に陥ります。すると自律神経が狂って交感神経が緊張した状態が続き、うつ病や自律神経失調症などの精神疾患を引き起こします。
ですから糖の摂取を断てば、糖尿病は治ります。さらに、“糖中毒”から抜け出せば、統合失調症やうつ病、発達障害も改善するのです」
高血圧の原因は「塩分の摂りすぎ」とされているが、実はこの病気も糖の摂りすぎが影響しているという。
「糖質摂取によって内臓脂肪が増えると、腎臓の塩分排泄機能が阻害されるのと同時に、糖による交感神経優位の相乗効果で高血圧になる。糖質を制限すれば、腎臓の排泄機能が回復し、高血圧が治りますし、尿酸の排出も改善するので、痛風もよくなります」
さらには、女性の「更年期障害」の改善にもつながる。
「糖を断てば副交感神経が優位になってイライラがおさまり、血液循環がスムーズになることで火照りや冷えも軽減します。さらに糖質制限食なら、ホルモンの原料であるたんぱく質や脂質を摂取できるので、ホルモンの減少自体も緩やかになります」
また、糖はコラーゲンと結びつきやすい性質があるため、糖を摂りすぎている人は、肌のコラーゲンが柔軟性を失い、くすみやたるみ、しわができやすくなる。糖質制限は「体若返り」にもつながるのだ。
※女性セブン2018年12月13日号
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