靴下が破れたときなど、昭和時代のお母さんは、夜なべをしながら目立たぬように繕ってくれたものだが、令和のいまは、好きな糸を使って洋服をステキによみがえらせるダーニングを楽しむ人が増加中。その基本を覚えたらもうチクチクが止まらない。針仕事で無の境地を体感しませんか?
ダーニングとは?
ヨーロッパでは古くから行われている「ダーニング」。手芸作家のイワタマユミさんは、その魅力を「好きなように縫えばいいところ」と話す。
「衣類のほころびなどの補強だけでなく、あえて目立つように装飾する。縫い方に決まりはなく、縫い目が曲がっても、刺し順を飛ばしても、かえってそれが味になる。そんなラフなところがいいですね」(イワタさん・以下同)
使用する糸や針は、100円均一ショップなどでも手に入るので始めやすい。
「生地に合わせて糸を自由に選べるので、ふだんは考えないような色合わせをすると面白いものができますよ」
◆ストレス解消にも役立つ
さらに『脳の学校』代表で脳内科医の加藤俊徳さんは、「針仕事は集中力と注意力を鍛えるのに最適です」と言う。
「チクチク縫うことで視覚と指先の動きの連携が強められ、瞑想と同じくらい集中力が高まります。また、針を刺すことに注意が必要なので、雑念が消え、脳にストレスもたまりません」(加藤さん)
家時間が増えそうなこの冬。チクチク脳活してみましょう!
ダーニングに必要な道具
【糸切りばさみ、刺繍針は必須】
刺繍用の針で行う。その理由は裁縫用の針よりも穴が縦長で大きく、刺繍糸が通しやすいから(今回は「フランス刺繍針」を使用)。針は、号数によって太さや長さが異なり、小さい番号の方が太いため、3~6号が厚地を縫うのに適している。糸切りばさみは裁縫用でOK。糸通しはあると便利。
【好きな刺繍糸と毛糸を用意】
糸は特にダーニング用でなくてもOK。毛糸など太めの糸を使えば大きな穴や面を埋めやすく、ぷっくりした仕上がりになり、細い糸を使えば少し時間はかかるが繊細な仕上がりになる。縫うアイテムに合わせて、糸の種類や色、太さなどを自由に選ぼう。
【楕円形のものを縫い台に使用】
ダーニングで伝統的に使われている、ダ―ニングマッシュルーム(下写真中央)は手芸店などで購入できる。これは、こけしやカプセルトイのカプセルなど、丸みのあるもので代用可能。手袋の指部分など細いところを縫うときは、スプーンを生地にあてて使うと便利。ゴムは生地を固定する際に使用。
【基本】四角く縫うダーニングのやり方
ダーニングは丸、三角、四角など、隠したい場所に合わせてどんな形で縫ってもOKだが、基本は四角形。縫い方はどれも同じなので、ここで縫い方を理解し、ほかの形にも応用してみよう。
1.縫う場所を中心に台にセット
ダーニングマッシュルームなどの台の中央に、生地の縫いたい部分がくるようにしてゴムで固定する。このとき、生地がピンと張りすぎないように、少し緩めておく。
2.穴の少し外側に針を刺す
初めに縫いたい場所から少し外側の生地(A)に、生地の表側から針を刺す。糸の端は15cmくらい残し(B)、玉結びはしない。Aに刺した針を、縫いたい場所の近くから出す(C)。
3.穴の周りを並縫いする
〈並縫い…裏も表も同じように等間隔にまっすぐ縫う、裁縫の基本の縫い方〉
穴がこれ以上広がらないようにするとともに、縫う位置の目安にするため、穴の周りを並縫いしていく。角から始めて、縫いたい方向に針を入れ、穴の周りを縫う。針は抜かず、一度に2~3目すくうとまっすぐ縫いやすい。
4.四角形になるように縫う
穴の周りに四角形ができるように縫っていく。この並縫いは、あとで縫う糸で隠れてしまう部分なので、縫い目の間隔が不ぞろいでも気にする必要はない。
5.たて糸を渡す
四角形に縫えたら、最後の角から上の角へ、たてに糸を垂直に渡していく。このとき、先に縫った並縫いが隠れるように、少し外側をすくう。
6.たて糸を渡していく
たて糸を並べて穴をふさぐように上から下へ糸を渡していく。たて糸とたて糸の間隔は、糸の1本分くらい空けるようなイメージで針を刺す。
7.穴をきれいに隠す
右から左へ、ひと針ずつ生地をすくって、たて糸を渡していく。糸の太さにより縫う回数は異なる。太い糸より細い糸の方が回数が増える。
8.並縫いが隠れたらたて糸は終了
目印の並縫いが隠れるまで、たて糸を渡したら、写真のように生地の表面から少し離れた場所(D)に針を出す。縫い始めと同様に糸は15cmくらい残して切る。玉結びはしないでOK。
9.よこ糸を渡す【1】
たて糸とは違う糸で、よこ糸を渡していく。縫い始めは写真のEの位置。生地の表面から針を刺す。ここも糸は15cmくらい残しておき、玉結びはしない。Eに刺した針をFの位置から出し、並んでいるたて糸を、向かって右側から上下上下と、交互にすくっていく。
10.よこ糸を渡す【2】
写真のように、たて糸とよこ糸が互い違いになるよう糸を渡す。たて糸をすくうときは、下の生地をすくわないように注意。端まで渡したら糸を引き、よこ糸が水平になるよう糸を動かす。
11.よこ糸を渡す【3】
左端まで渡したら、ひと針分外側の生地をすくって、今度は左側から右側へとよこ糸を互い違いになるように渡していく。このとき、ダーニングマッシュルームを180度回転させ、右から左へと縫えるように、向きを変えるとやりやすい。
12.よこ糸を渡す【4】
互い違いになるよう渡していくと、写真のような格子状の模様が現れる。縫い幅が同じになるときれいなので、間隔が空きすぎたら、針で糸を押して調整する。
13.格子柄が完成!
よこ糸縫いが端までできたら、生地の表面から刺した針を、少し離れた場所(G)に出す。このとき、ほかの糸の刺し始めや、刺し終わりの場所の近くに針を出せば、次ページの糸処理が楽になる。ここでも糸は15cmくらい残しておく。玉結びはしない。
糸処理のしかた
14.糸の端を裏側に出す
ダーニングマッシュルームから縫い終わった生地を外し、生地を裏返す。たて糸とよこ糸、それぞれの縫い始めと縫い終わりにある15cmくらい残しておいた糸をすべて裏側に引き出す。
15.糸の端を縫い込む
14で裏側に引き出した糸の1本に針を通し、ダーニングをしたところの裏側に、表に糸が出ないように気をつけながら並縫いで縫い込む。ほかの糸が近くにある場合は、まとめて2~3本を針穴に通し、一緒に縫い込めば手間が減る。
16.糸の端を切る
4か所すべての糸処理を終えたら、糸の端をそれぞれ少し残して切れば出来上がり。玉結びをしないで糸処理するため、結び目が肌にあたることがなく、快適に着られる。
完成!
糸の色や太さを変えてアクセントに!
洋服の生地と糸の色の組み合わせや、刺繍糸や毛糸などの糸の種類の組み合わせにより、並縫いだけでもかわいいアクセントになる。下の写真【A】は、渦巻き状に並縫いをしたもの。穴をふさぐだけではなく、好きな色で何か所か縫って、洋服に模様をつけるのもおすすめだ。
写真【A】
下の写真【B】は、四角いダーニングをした隣に、列の長さを変えて5列ほどの並縫いを合わせたもの。このように四角とラインを組み合わせてもかわいい。また、あえて縫い目の間隔をきっちりそろえない方が、おしゃれに見えるから不思議だ。
写真【B】
初心者がチャレンジしてみると…?
色の組み合わせを考えるところから楽しいのがダーニング。縫い方は同じことの繰り返しなので、初めてでも難しくはないが、一旦始めたら、脳内がすべて指先に集中するのが自分でもよくわかった。嫌なことを頭から追い払うにはもってこいの作業であることは間違いない!
本誌記者の作品はこちら。
多少形がいびつなところもご愛嬌~。
教えてくれた人:手芸作家・イワタマユミさん
羊毛フェルトや糸巻きボタン、ダーニングなどの作品を20年以上前から製作。お店やカフェ、美術館などでワークショップも行っている。https://www.chokigallery.com/home/%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%82%BF%E3%83%9E%E3%83%A6%E3%83%9F/
取材・文/苗代みほ 撮影/黒石あみ
※女性セブン2020年12月17日
https://josei7.com/
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