老後に必要な貯蓄って、結局いくらなんだろう?と考えることはありませんか? 何千万円という金額がかかることを想定すると、早めの準備が必要です。天海祐希さん主演の映画『老後の資金がありません!』(10月30日公開)に本人役で出演するなど、さまざまなメディアでおなじみの経済ジャーナリスト・荻原博子さんによれば、50代こそ、老後に必要な資金を考えておくべき時期なのだそうです。豊かで充実した人生を送るための、老後資金の対策について聞きました。
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令和の50代の経済状況とは?
60代以上の世代は、年功序列や終身雇用に守られて、そこそこの出世をして定年まで勤め上げ、まとまった貯蓄のある人も多いはずです。バブルがはじけても10年くらいは給与額が下がらなかったので、高い給料を基準に退職金を受け取り、年金額も給料の額に応じてそれなりに受け取っているでしょう。
すでに年金生活に入ったシニア層の7割以上が、内閣府の調査で「心配なく暮らしている」と答える一方で、50代からは状況が様変わりしているのが現状です。
50代世帯で貯蓄ゼロも
2019年の厚生労働省の調査によれば、50代世帯の平均所得金額は756万円、平均貯金額は1075万円です(「国民生活基礎調査の概況」2019年より)。一方で、金融広報中央委員会の調査では、世帯主が50代の2人以上世帯の21.8%が貯蓄ゼロとあります。単身世帯では、37.2%の50代が貯蓄ゼロとなっています。
50代以下の会社員は給与ダウンの可能性が高い
上の世代とは打って変わって、役職定年や出向など、50代以下の会社員は給与ダウンの可能性が高く、つつがなく会社を退職して、高い退職金をもらうという理想が叶うのは難しくなっているのです。50代は、バブルの華やかな時代を知りながらも、将来ジリ貧となってしまう恐れがあるということです。映画『老後の資金がありません!』でも、主人公の後藤篤子(天海祐希)とその夫・章(松重豊)は結婚30周年目前に、そろって失職してしまい、家計をめぐり奮闘することとなります。
そこで、そんな事態を避けるべく、リスクを軽減するためにどんなことをするべきか、お話しします。
老後の資金が足りなくなる人の特徴3つ
まずは、老後の資金が足りなくなってしまう恐れがある人についてお教えします。当てはまるものがあったら、改善するように心がけましょう。
住宅ローンやキャッシングなどの借金がある
借金がある人は要注意です。借金というのは、いわゆる消費者金融や知人から現金を借りることだけを指すのではなく、住宅ローンやキャッシング、クレジットカードなどの支払いも含まれます。
「それ、借金っていうの?」と思われるかたもいるかもしれませんが、これらは言い方が変わっているだけで、住宅ローンは借金、キャッシングは寸借り、クレジットカードでの分割払いやリボ払いは月賦です。
これらを早くなくしておくと、将来的に金銭面で身動きがしやすくなります。
たとえば、住宅ローンが100万円あるとします。この100万円を投資に回したとして、必ず増えるとはかぎりませんよね。けれど、このローン分の100万円を繰り上げ返済すれば、これから払うはずだった利息分の何十万円というお金が手元に残るのです。「借金を減らして、現金を増やす」が、まずはお金と向き合う基本ですよ。
『老後の資金がありません!』で、篤子は夫の退職金をローン完済の当てにしていますが、より早く返済したほうが、かなりお得なんです。
将来必ず起こる問題について考えていない
人生において、大きな出費は突然やってきます。映画『老後の資金がありません!』のように、親が倒れたとき、亡くなったとき、子供の結婚式…冠婚葬祭に関わる費用や、介護問題や遺産相続など、これらは将来、ほぼ必ず起こる問題です。『老後の資金がありません!』では、こんな問題が同時期に起こり、貯蓄が一気にガクッと下がって、主人公はあ然としてしまいます。
これらの問題の事情を先に探って、準備しておくに越したことはありません。たとえば介護ならば、費用がどのくらいかかるのか概算してみましょう。さらに、どんなケアマネジャーを探せば両親が納得してくれるかヒアリングすることも、前もってしておくといいですよ。
また、介護に関わるお金を両親がどれだけ貯めているかも聞いておくと準備がしやすくなります。介護にかかる費用は、1人あたり平均500万円と言われているので、確保しておくと安心です。
夫婦仲が悪い
夫婦の仲が悪く、貯蓄の状況や勤めている会社の状態といったお互いの状況を共有できていないと、今後の金銭面の対策ができません。
今50代の夫婦が将来年金で受け取れる額はだいたい月20万円程度。将来はたったこれだけの金額を2人でやりくりしていくので、相談できる仲であるのとそうでないのとでは、雲泥の差です。
最悪の場合、もし熟年離婚するとなったら半分の10万円では暮らしていけない人が大半でしょうし、60歳を過ぎてから職を探すのはかなり大変です。定年退職して、夫が家にいるようになったらうまくやっていくのが大事ですよ。2人の知恵でやっていくようにしましょう。
夫婦で金銭面を協力し合うときに大切なのは、同じ目標を持ちながら、家計の節約について役割分担をすること。女性はスーパーの安い時間に買い物に行ったり、チラシを見ながら特売品を選んだりと、細かい節約が得意な傾向にあります。一方、男性は会社で事業計画を立てたり予算の内訳を考えたりなど、数字を扱うケースがよくあるため、住宅ローンや生命保険のような大きなものの節約が得意な人が多いです。
女性の細やかな視点と、男性の大きな視点が合わされば、相乗効果でコツコツ節約をして、必要のないものはバッサリ落とせる家計のスリム化ができます。まずはこういった相談ができるよう、『老後の資金がありません!』の篤子と章のように、夫婦は仲がいいのが第一ですよ。
◆教えてくれたのは:経済ジャーナリスト・荻原博子さん
おぎわら・ひろこ。1954年、長野県生まれ。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。経済の仕組みを生活に根ざして解説する、家計経済のパイオニアとして活躍している。著書に『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』(文藝春秋)、『一生お金に困らない お金ベスト100』(ダイヤモンド社)など多数。10月30日公開の天海祐希主演映画『老後の資金がありません!』に本人役で出演。https://rougo-noshikin.jp/
構成/イワイユウ