地震や台風、豪雨、土砂災害など、日本では近年、自然災害リスクが高まっています。12月に入ってからは各地で大きな地震が相次いでいます。犬や猫を飼っているご家庭では、いざというとき、どのように行動すればいいのでしょうか。また、日頃はどんな準備や対策が大切なのでしょうか。獣医師の山本昌彦さんに、大きな災害に備えて知っておきたい4つのことを教えてもらいました。
【1】人間用のものと合わせてペット用の防災グッズもまとめておく
日本は国土が世界の0.25%の面積でありながら、マグニチュード6以上の地震の発生回数の割合は全世界の18.5%という地震大国です。また、大雨の発生件数は100年以上も前から増加基調で、土砂災害は2018年に過去最多を記録しました。
ご家庭でペットを飼っているかたにとっては、ご自身や(人間の)ご家族のことはもちろん、災害時、ペットをどう避難させてあげたらいいのか、心配ですよね。ペットの飼い主視点で、自然災害にどう備えたらいいか、獣医師の山本昌彦さんに聞きました。
「最近は災害も多いので、非常食や簡易トイレといった災害時用のグッズをリュックなどにひとまとめにして、玄関回りに収納しているご家庭も多いことでしょう。この人間用の防災グッズの近くに、ペット用の防災グッズもまとめておくと安心です。長期保存が可能なフードや食器、ペットシーツなどのトイレ用品を入れておきましょう」(山本さん・以下同)
ストレス発散用のおもちゃも
トイレ用品は避難所など他人が近くにいる場所で使う可能性もあるので、普段以上に消臭効果に留意して選ぶのがポイント。他に、タオルやブラシなど、ペットの体を清潔にしておくためのグッズや、ストレス発散用のおもちゃなども入れておくとよさそうです。
【2】同行避難のためにもキャリーケースに入る練習を
また、自宅付近の避難所を確認しておくことは、ペットのためにも大切なことです。自治体の指定避難所や、その他の避難所の位置を把握すると共に、できれば犬や猫の受け入れの可否などを確認しておきたいところです。
避難に向けて、愛犬や愛猫自身を、避難や避難先での生活に耐えられるようにしておくことも重要です。
「飼い主さんがペットと共に行動する“同行避難”の場合、いざというときに愛犬や愛猫がキャリーケースにすんなり入ってくれるように、日頃から練習しておく必要があります。災害時にキャリーになかなか入ってくれないようだと、避難を急ぐときに思わぬ時間を取られてしまいます」
実際、避難のために連れ出すときには、まずペットの動揺を鎮めてあげると、そのあとのさまざまな行動がスムーズになるといいます。
「災害を敏感に察してパニックになる子もいます。飼い主さんも気が急くところだと思いますが、まずは愛犬や愛猫を抱っこして落ち着かせてあげてください」
ムダぼえしないようにしつけておきたい
さらに、犬の場合はムダぼえをしないように日頃からしつけておきたいところです。
「避難所などに身を寄せる場合、周りの人も避難中で不安な心境でしょうから、いつも以上に犬のほえ声が神経にさわったりして、無用の軋轢を生むかもしれません。飼い主さんも肩身の狭い思いをすると思うので、ムダぼえのクセは平時にしっかり矯正しておきましょう」
【3】頭に入れておきたいペットのカルテ
ペットの健康管理と感染症予防、治療中の病気についての理解も、実は大切な災害準備になります。
「自然災害の可能性が事前にわかって、ペットホテルや動物病院、友人・知人宅に預ける場合も、避難所に連れて行く場合も、そばに同種の動物がいる環境であることが多いので、感染症予防ができていることが大切です。狂犬病ワクチンはもちろん、混合ワクチンの接種やノミ・ダニ・フィラリアの予防も日頃から怠らないようにしましょう」
また、ペットが病気療養中の場合は、どのような病気で、どのような治療を受けているのか、どんな薬を服用しているのか、飼い主さんが理解・把握して、他人に説明できる状態になっていることが大切だといいます。
モバイルアプリを活用
「平成30年7月豪雨の際、私たちも被災地の岡山へ入り、避難所でペットの診療に当たりました。このように、避難中は普段のかかりつけ医とは別の獣医師が診ることがあるので、そうしたときに飼い主さんが一通りのことを説明できると、より適切な治療が早く受けられます」
かかりつけの獣医師の話を日頃からよく聞いておく必要がありそうです。ペットの健康情報を記録しておけるモバイルアプリなどを利用するのもいいでしょう。
【4】迷子対策としてマイクロチップ装着
同行避難中にペットとはぐれてしまった、預け先からペットが逃げ出してしまった、といった場合はどうしたらいいのでしょうか。
「そうした事態に備えて、愛犬や愛猫にマイクロチップを埋め込むことをおすすめします。動物愛護法の改正で、ペットショップなど犬や猫を販売する事業者は2022年6月から、犬や猫にマイクロチップを装着することが義務付けられます(一般の飼い主は努力義務)。ですが、それより早く生まれ、すでにご家庭で飼われている子たちにも、マイクロチップは装着しておいたほうがいいと思います」
注入は短時間の処置。費用は数千円ほど
マイクロチップは直径2mm、長さ8~12mmの円筒形の小型器具で、獣医師が注射器のようなものを使って体内に注入します。麻酔などが必要ない、ごく短い時間の処置で注入が完了します。費用は一般的に数千円ほど。
マイクロチップの内部には15ケタの固有の数字が記録されています。この番号と飼い主さんの名前、住所、連絡先などを飼い主さん自身が動物ID普及推進会議のデータベースに登録しておくことができます。チップ注入と登録が完了していれば、ペットが迷子になっても保健所や動物病院でマイクロチップの番号が読み取られて飼い主が分かり、連絡がつく可能性が高くなります。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん
獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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