
暖かい季節になり、これからは薄着になる機会が多くなります。春のファッションを楽しみたいけれど、傷跡・ケロイドが気になるという人はケアの方法を見直してみましょう。傷跡・ケロイドの正しいケアや改善を助ける食事、漢方薬について皮膚科医の金城里美さんに教えてもらいました。
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薄着の季節に気になる傷跡・ケロイドの原因
傷が治る過程で、傷が赤みや凹凸(傷跡)として残ったり、肥厚性瘢痕(はんこん)やケロイドと呼ばれる赤く盛り上がって目立つ傷跡になったりすることがあります。
傷跡・ケロイドができる原因は、遺伝子因子的なもの以外に、物理的なものと体質的なものに分けられます。
物理的な原因
傷が深いほど傷跡・ケロイドができやすいです。そのため、小さくても深い傷(ピアス、ニキビ跡、手術の跡、BCGの跡)は傷跡・ケロイドになることがあります。また、傷の治りが遅く、皮膚の深い部分まで炎症が広がることも原因になりえます。さらに、関節や皮膚に緊張がある部分は傷跡に引っ張る力が加わるため、傷跡・ケロイドになりやすいです。

体質的な原因
傷跡・ケロイドは、妊娠によって悪化するといわれています。悪化の原因には、妊娠中に増加する女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)が関わっています。
高血圧の場合は動脈硬化が進み、血管抵抗が強くなります。そのため、血管内の血液の流れが速くなり、傷跡・ケロイドを悪化させることがあるといわれています。また、運動や飲酒によって血流が早くなることも同様です。傷跡に力や大きな摩擦が生じることも、傷跡・ケロイドには悪影響です。
そのほか、全身に炎症があると傷跡の炎症が悪化しやすく、傷跡・ケロイドの悪化をまねきます。
加齢で傷跡やケロイドが残りやすくなる?
皮膚は、古い皮膚が垢として剥がれ落ち、新しい皮膚に生まれ変わる「ターンオーバー」を繰り返しています。ターンオーバーが正常に繰り返されれば傷跡は早く治ります。
しかし、年を重ねると皮膚の再生能力が低下して、皮膚のターンオーバーは遅くなります。そのため、加齢によって傷跡やケロイドはどうしても残りやすくなります。また、治りが遅いと傷に二次的な感染が起こったり、皮膚の深い部分まで炎症が広がったりすることで傷跡・ケロイドがさらに治りづらくなることもあるのです。
そのため、傷ができてしまったら放置せず早めに治す努力をすることが大切です。

きれいな皮膚に戻すには?
きれいな皮膚に戻すためには、傷口の炎症を防ぐことと、ターンオーバーを正常化することが大切です。毎日の生活のなかで心がけたいことが3つあります。
傷跡の摩擦を避ける
傷跡を保護するためにテープを貼ることがありますが、何度も貼ったり剥がしたりすると、その刺激で皮膚に炎症が起こることがあります。また、テープのかぶれでも炎症になります。
傷跡にテープを貼ること自体は傷口の保護になり、外からの刺激を避けられるため効果的なので、まずは、市販の傷跡用のテープから自分に合ったかぶれにくいものを選びましょう。さらに、貼る範囲はできるだけ傷跡の範囲にとどめましょう。万が一テープによる皮膚トラブルが起きても、範囲が小さければそれだけ治りも早くなります。

また、テープはゆっくり剥がすと皮膚への刺激を少なくできます。入浴の際にテープを濡らしながら剥がすのもおすすめです。
保湿する
皮膚の乾燥は正常なターンオーバーの妨げになります。乾燥している場合はしっかりと保湿を。保湿剤を塗るときは強くこすりつけると刺激になるので、やさしくおさえるように塗りましょう。
紫外線を避ける
紫外線は皮膚のターンオーバーを妨げるほか、傷跡の色素沈着の原因にもなります。傷跡は日焼けしないように注意しましょう。傷跡を保護するテープを貼ると紫外線予防になります。保護テープを貼らない場合は日焼け止めを塗ることをおすすめします。
傷跡やケロイドは食事で内側からアプローチ!
皮膚への栄養は、毎日の食事から供給されるので、とくに皮膚のターンオーバー改善を助けてくれる食材をとり入れてみてください。
豚肉

豚肉に多く含まれるビタミンB6は、皮膚のターンオーバーを改善するとともに、皮脂の分泌を整える作用もあります。うなぎ、のり、豆類などにも多く含まれています。
アジ

春に旬を迎えるアジに含まれているビタミンEは、皮膚の血行改善作用と抗酸化作用があり、ターンオーバーに役立ちます。そのほか、サバなどの青魚やほうれん草、アボカド、さつまいも、豆類などから摂ることができます。
卵

卵の栄養素として一番多く含まれているたんぱく質は、皮膚の細胞や皮膚の弾力を保つコラーゲンの主成分でもあります。肉・魚類、豆類、乳製品などに含まれているので、食材を変えて積極的に毎日の食事に取り入れましょう。
傷跡をきれいに治すには漢方もおすすめ
傷跡への内側からのアプローチには、自然由来の生薬で構成され、一般的に副作用が少ないとされる漢方薬もおすすめです。漢方医学では全身に栄養を行き渡らせることで皮膚疾患を改善していきます。にきび、しみ、やけど、ひび、湿疹・皮膚炎などに効果がある漢方薬は皮膚科でも使われています。
原因となっている体質を改善することで症状を治していくというのが漢方の考え方です。
体質改善のために毎日運動する、食生活を変える、となるとハードルが高いと感じる人でも、毎日のむだけの漢方薬なら気軽にとり組めると思います。

傷跡に悩む人におすすめの漢方薬
・柴苓湯(さいれいとう)
炎症をおさえる作用のある「小柴胡湯(しょうさいことう)」と、余分な水分をとり除く作用のある「五苓散(ごれいさん)」を合わせた漢方薬です。肝疾患、腎疾患による尿量の減少、むくみ、口渇、吐き気などの症状に用いられますが、やけどや傷跡の治療にも用いられています。
・桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
しみ、にきび、手足の皮膚炎などに効果的な「桂枝茯苓丸」と、いぼや皮膚の荒れに効果的な「ヨクイニン」を合わせた漢方薬です。
漢方で各器官に栄養を届けると考えられている「血(けつ)」の巡りが滞ると、各器官への栄養が不足し、しみ、にきび、皮膚炎などのトラブルが生じます。桂枝茯苓丸加薏苡仁は「血」の巡りを改善させることで皮膚のトラブルを改善させる効果があります。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こる場合もあります。自分に合う漢方薬を見つけるためにも、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

また、傷跡・ケロイドの症状が気になる場合は、セルフケアに加えて、皮膚科、もしくは、形成外科の受診をおすすめします。とくに、ケロイドの場合はのみ薬、塗り薬、貼り薬に加えて手術やレーザー治療などの選択肢もあります。治療法について相談してみましょう。
◆教えてくれたのは:皮膚科医・金城里美さん

かねしろ・さとみ。皮膚科医。薬剤師 東京大学薬学部卒業後、医師を目指して、東京医科歯科大学医学部に入学。体、精神とも関わって多様に現れる皮膚の病態に興味を持ち、皮膚科医の道を選ぶ。卒業後、大学病院、総合病院、クリニックでの皮膚科勤務を経て、一般皮膚科から美容皮膚科まで皮膚科領域の診療を幅広く行う。 現在、総合病院の皮膚科常勤医として勤務。今までの経験をいかし 、「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/ )などで情報発信している。