エンタメ

『悪女(わる)』は30年経てどう変わったか 令和版の今田美桜は「褒め上手」、平成版の石田ひかりは「ラスボス」

『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』は令和になって再びドラマ化
写真5枚

社内で偶然出会った男性に一目惚れし、イニシャルを手がかりに探す新入社員のラブコメストーリーを軸に、会社で働く女性たちが直面する困難と、それを乗り越える姿を描く──平成の初期に日本テレビ系でドラマ化された作品が、令和になって再ドラマ化され話題の『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(同局系、毎週水曜午後10時~)。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんが、平成版と令和版を比べつつ、作品の魅力を語り尽くします。

* * *

「今年入社しました田中麻理鈴です。本名です。麻理鈴というのは、じいちゃんがマリリンモンローのファンでして」。

キラキラネームも自己アピールの王手に変える伝説の新入社員、田中麻理鈴が令和を元気にする! 1992年、石田ひかりさんが演じて話題になったドラマ『悪女(わる)』が30年の時を経て再びドラマ化された。今田美桜さんが2代目麻理鈴を演じる、『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』が好調だ。

ポンコツだが底なしに明るい田中麻理鈴が、愛嬌と根性、そして一目惚れしたT・Oさんに再会したい! という恋心をパワーに、出世を目指すというストーリーだ。人間ドラマを前に押し出した平成版と比べ、令和版はビジュアルを原作マンガに限りなく近づけ、ポップさ、明るさ、テンポが増し増しに。テーマも、コロナ禍での入社やダイバーシティ、副業問題など、今の時代が直面する課題が細かく練り込まれている。

田中麻理鈴という跳ねキャラを演じた石田ひかりさんと今田美桜さんは、個性を活かして、この役を伸び伸びと演じている。この「麻理鈴」という役は平成、令和それぞれの時代の変革期に登場し、伸び盛りの女優に受け継がれていきそうだ。

平成版の石田ひかりとは全く違うキャラクターに(Ph/日本テレビ提供)
写真5枚

野心満々の平成版、褒め上手な令和版

石田ひかりさんが演じた平成版の麻理鈴は野心が高めだった。一言で言うと「タフ」! 就業中に煙草をぷかぷか吸うし、「私は会社を動かす方に回りたいですね」と秘書課の課長にケロッと言うし。バブルの余韻も乗っかり、タイトル通り「悪女(わる)」の素質抜群、パンチの利いた設定だった。

石田ひかり、堺正章
石田ひかりは『悪女(わる)』出演後、朝ドラにも抜擢。その年のNHK紅白歌合戦の司会に(写真は1992年、Ph/KYODO)
写真5枚

そこに石田ひかりさん自身が持つ人生3回目くらいの落ち着いた雰囲気も相まって、キャラクターが底光りしている感じ。頑固な信念と静かに燃える野心が見え、いじめにもなんら動じないその姿はラスボス感さえ漂っていた。このドラマの印象が強烈で、私の中の石田ひかり像はいまだに「不屈の人」である。

一方、現在放送中、令和版の今田美桜さん演じる麻理鈴はラスボス感や野心も薄め、平成版より10倍くらい無邪気だ。初対面から「オイオイすごいの入ってきたな!」とツッコみたくなるほど、ポンコツさ大全開。おかっぱ頭、「ズサー!」という横滑り、職場でギャン泣き、ラフにもほどがある通勤ファッション。何もかも初めてで、見るもの触るものすべて楽しい感に溢れ、とても素直であっけらかんとしている。

そんな彼女の最大の武器は褒め力。各部署で感動し、褒める。そして褒められた人が、自分の仕事の重要性ややり方に改めて気づき、誇りを持つという展開だ。このあたりは世間全体の肯定力が下がっている令和の時代が色濃くうかがえる。

平成版が麻理鈴のサクセスストーリーとすれば、令和版は肯定の達人・麻理鈴が促す大企業の働き方進化物語。1話ごとに1部署紹介、メインゲストあり、というのも社会見学ツアー的で面白い。

平成版が放送された1992年前後は『東京ラブストーリー』や『素顔のままで』など、トレンディドラマを中心にドラマ大豊作の時期。『悪女(わる)』はビッグヒットというほどではなかった。しかし今回のリメイクで、このドラマの感動が、多くの人の中にボディブローの如くジンジン残っていたことを再確認。リメイクのニュースを見たとき、「君〜に〜ありがとう〜……」と自然と主題歌『Thank you My Girl』(Rabbit)が口から出てしまった人も多いのではなかろうか。かくいう私もその一人だ。

今田美桜のさらなる飛躍に期待(Ph/日本テレビ)
写真5枚

平成版で主演を演じた石田ひかりさんが今なお女優として瑞々しさを保っているのも素晴らしい。一言で「30年」と言っても、当時生まれた人がもう30才。令和版麻理鈴を演じる今田美桜さんは25歳なので、平成版の放送当時は、まだ生まれてもいなかったのだ。

だからこそ、第2回で石田ひかりが上司役としてゲスト出演し、「あなた私の若い頃に似てるわ」と麻理鈴に語るシーンは、なかなかの奇跡に立ち会っている気がして胸が熱くなった。

さらなる飛躍を期待させる今田美桜の進化

私が平成版でもう一人強く印象に残っているのが、総務部の佐々木チエを演じていた鶴田真由さんである。麻理鈴に嫉妬し、いじめる役どころ。鶴田さんの少女マンガのようなルックスと独特の鼻声がガチッとハマり、最高のスパイスになっていた。

今田美桜さんは、顔立ちが少し鶴田真由さんと似ている。思い返してみれば、『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(TBS系、2018年)の真矢愛莉、『3年A組─今から皆さんは、人質です─』(日本テレビ系、2019年)の諏訪唯月など、超がつくほどきつい役が多かった彼女。あの『花のち晴れ』の縦ロール愛莉様が、現在ドタバタでポンコツな麻理鈴にバシッとハマッていることに驚いてしまう。

しかし、芯が強いという点はどの役も共通だ。ケロッと正論を言って本筋を開いてくれる。今田美桜さんの陽のオーラには、そんな信頼感がある。

石田ひかりさんはこの作品に出演後、『ひらり』(NHK連続テレビ小説)、『あすなろ白書』(フジテレビ系)で大ブレイク。今田美桜さんもこのドラマで新境地を開き、素敵な花を咲かせていくだろう。

蕾から花がふわあと咲くその瞬間に立ち会うが如く、眩しい魅力開花の瞬間を見守ることができる。それが『悪女(わる)』というドラマの一番の醍醐味なのかもしれない。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
写真5枚

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

●“イイ女”感が漂う「マリア」、“不在”の色男「ジョニー」など「歌謡曲に出てくる名前」が生み出す効果

●倉沢淳美、深キョン、モー娘。、SMAPほか…世代超え輝き放つ「アイドルの自己紹介ソング」が教えてくれること

関連キーワード