ライフ

「50代はおしゃれの第二章」と語る西ゆり子さん 71歳ドラマスタイリストが年齢による変化を乗り越えた意外なきっかけ

緑のソファに座る西さん
スタイリストの西ゆり子さんが50代を振り返る
写真7枚

『ギフト』、『のだめカンタービレ』、『持効警察』シリーズなど、およそ200のドラマや映画の衣装を担当してきたドラマスタイリストの西ゆり子さん(71歳)。著書『ドラマスタイリスト西ゆり子の 服を変えれば、人生が変わる』(主婦と生活社)で、ファッションを楽しむことが人生の充実につながると説く西さんに、まだまだ人生の折り返し地点と語る50代で実行したことや、生涯現役の精神に欠かせないファッションのパワーについて聞きました。【全5回の第3回】

→西ゆり子さんインタビュー第1回はコチラ
→西ゆり子さんインタビュー第2回はコチラ

仕事と子育てを両立するバイタリティ

子供の頃からファッションに興味をもち、24歳で念願のスタイリストになった西さんは、雑誌や広告の仕事を経てテレビの世界に入り、40代でドラマスタイリストの仕事につく。まずはなんでも「はい!」と答え、常にチャレンジする姿勢と逆境を楽しむ精神で、ドラマの現場ではハイブランド衣装の借用を実現させるなど、今もパイオニアとして走り続けている。

そんな西さんは、とても気さくで温かさを感じさせる人柄で、周囲を元気にさせるようなはつらつとした雰囲気が印象的だ。

西さんの横顔
71歳で現役スタイリストとして活躍する西さん
写真7枚

3人の息子を育てた母の顔も持つ西さん。仕事の関係で四六時中一緒にいられなくても、食卓のしつらいや毎日のお弁当づくりなど大切だと思うことを続けた結果、「皆、比較的素敵に育った」と語る。

息子たちの大学卒業と自身の還暦を機に、それぞれが自分の好きなスタイルで生きることを提案し「家族解散」を宣言。「肩書から自由になることで、年齢に反比例して心が年々若くなっていく」と笑顔で語る。50歳の頃にはがん患者に帽子を贈るチャリティーパーティーを立ち上げるなど、仕事もプライベートも充実していると教えてくれた。

役割から解放される50代はおしゃれの第二章のはじまり

西さんが本当の意味でおしゃれを楽しめるようになったのは、デザイン専門学校に入り、アルバイトを始めて、自由にできるお金ができた18歳のとき。このときを「おしゃれのスタート地点」とするなら、「おしゃれの第二章」の幕開けは、息子たちが手を離れた50代のころだったという。

「30代、40代は、目の前の仕事と子育てをこなすことで精一杯。男の子ばかり3人だから家の中はにぎやかで合宿所みたいだったの。母親という役割から解放されて、やっと自分の服を選べる楽しみが戻ってきたのが50代ね」(西さん・以下同)

ショートカットの西さん
バッサリと髪を切ってショートカットになった50代の西さん
写真7枚

年齢を重ねるにつれ、おしゃれも生き方も自由に

大胆な柄物や鮮やかな色の服を自在にまとい、心からおしゃれを楽しみ始めた西さん。一般的には50代になるとおしゃれをあきらめ始める女性も少なくなさそうだが、西さんは年齢を重ねるにつれ、おしゃれも生き方も自由になってきたと感じているという。

「人生経験を重ねた分、自分に自信が持てるようになったのでしょうね。心に余裕が生まれると、ものを否定的に見ることが少なくなり、選ぶ服のストライクゾーンがどんどん広がっていったの」

ワクワクするものを着たほうが楽しい

西さんは「“ファッションは若者のもの”だなんて思わずに、50代こそ“攻めのおしゃれ”を楽しんでほしい」と語気を強くする。

笑顔の西さん
71歳で現役スタイリストとして活躍する西さん
写真7枚

「確かに50代は、おしゃれ迷子になりやすい年代。体形が変化して似合うものが少なくなったと感じるかもしれないけれど、だからって『無難にベージュ、グレーを着ていればいいや』と適当に服を選ぶのはもったいないこと。80歳まであと30年、100歳までなら50年過ごすことを考えたら、ワクワクするものを着たほうが楽しいに決まってる!

食事だって、お腹いっぱいになればなんでもいいと適当に選ぶより、おいしいものをいろいろ食べたいじゃない。お行儀よくて便利な服ばかり着ないで、好きな色やデザインの服を選んでほしいですね」

あなどれないファッションや色のパワー

かくいう西さん自身、ある時期、黒やネイビーなど暗い色の服だけを着て2年間過ごしたことがあるという。

「それまであらゆる服を着たので、ファッションを達観した気分になって、スタイリストらしく見える黒やネイビーのモードな服ばかりを着ていたの。そうしたら、だんだんと生きる気力が無くなって、やる気が出なくなってしまった。『これではいけない!』と反省して、再びカラフルな服や元気が出るデザインの服を着るようにしたら、たちまちパワーがよみがえったのよ」

そして、気づいたことがあったそうだ。

「『精神はまず服から入る』、これがそのときに得た教訓です。毎日着ている服には思っている以上の力が宿っています。色は元気をくれるから、テンションが上るカラフルな服にチャレンジすると『まだいける!』というパワーがわいてきますよ」

感性磨きへの投資と運動習慣で歳を重ねることが怖くなくなる

バイタリティあふれる西さんにも、気持ちが沈んで落ち込んだ時期があったという。

西さんの横顔
西さんが元気を取り戻すきっかけになったのは車のミラー
写真7枚

鬱々とした気分から抜け出したきっかけ

「更年期の始まりと家を購入してローンを抱えたプレッシャーが重なって、女性ホルモンのバランスが乱れたのでしょうね」

その頃、西さんは大好きなドライブで、車のミラーに映る自分の顔を見るたびに「老けたなあ」と憂鬱になったという。何をしても楽しく感じられなくなり、目の前の景色がガラッと変わったように感じたそうだ。しかし、この鬱々とした気分から抜け出せたのは、意外なことがきっかけだったと語る。

「車のミラーの色を薄いブルーから薄いピンクに交換したの。そしたら、くすんでいた顔色がパッと明るく見えて、たちまち元気が戻ったの。『気の持ちよう』とは言ったもので、たったそれだけで、人間の気持ちってガラッと変わるんです。おしゃれも一緒。年齢を重ねることを『老化』ではなく『成長』と思うようにしました。成長したわけですから、新しく似合うようになる服や色が必ずある。似合わなくなったものがあることを嘆くより、新しい自分を探すことの方が断然楽しいです!

やった分だけ体や心にプラスとして積み上がっていく

それから、この時期には、美術展や歌舞伎、オペラに行くなどして、感性を豊かにしてくれるものにせっせと投資しました。美しいもの、素晴らしいものに触れて感性が磨かれれば、若さとサヨナラしても怖くないと思ったの。あと夫とテニスをしたり、スクールに通ってヒップホップを習ったりもしたわね」

着物を着た西さん
おしゃれをして美術展や歌舞伎、オペラに行っていた西さん
写真7枚

現在はストレッチと8000歩のウォーキングが日課だという西さんだが、70歳を超えた今、人生の折り返し地点から積み重ねてきた、感性磨きと運動の習慣が、薄いベールを1枚ずつ積み重ねていくようにして自分を守ってくれていると実感している。

「『今日は疲れているからいいや』って思うときもあるけれど、やった分だけ体や心にプラスとして積み上がっていくのがわかるから、やめないの。これは運動だけじゃなく、なんでもそうなのかなと最近思います」

◆スタイリスト・西ゆり子さん

西ゆり子さん
スタイリスト・西ゆり子さん
写真7枚

にし・ゆりこ。スタイリスト。テレビ番組におけるスタイリストの草分け的存在で、ドラマスタイリストとしてテレビドラマと映画およそ200作品を手がける。2019年度「日本女性放送者懇談会50周年特別賞」受賞。現在は、一般個人向けに「CoCo Styling Lesson」や、無料でスタイリングの知識を得られる「着る学校」(https://www.stylingschool.org)というコミュニティも展開。近著に『ドラマスタイリスト西ゆり子の 服を変えれば、人生が変わる』(主婦と生活社)。

撮影/五十嵐美弥 取材・文/森冬生

●71歳のドラマスタイリスト西ゆり子さんが語る自分らしく生きるコツ「固定観念にとらわれない」「執着を捨てる」

●更年期を“幸年期”にするコツ|家事もたまには手抜きを。少しいい加減ぐらいでOK

関連キーワード