女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第50回は、寧々さんが出会った「野生動物」について。
* * *
山の家では、庭や近所をキジがよく歩いている。「ケケ~ン!」と面白い鳴き声だ。キジは、警戒心が強いと聞くが、家の周りにいるキジはどうやらそうでもないみたいだ。オスとメスがいてあちこちでトコトコ歩いている。いや、歩くと言ってもかなり速い! 一度だけ飛んでいるのを見たが、すごい低空飛行で、飛んでいるというよりは、低空移動した!みたいな感じだった。いつもはタタタタタッと歩いているので珍しいなあ~と思った。春になり、庭でぼお~っとしていたら、またキジが歩いていた。ん! 増えている! ああ~子供を産んだんだ! 一緒に歩いている姿が微笑ましい。
ある夕方、ものすごい声でキジがあちらこちらから鳴き出した。なんだか切羽詰まっている感じで、地震でも来るのかな~というような感じだ。あまりにもすごいので、夫と外に出てみた。お隣さんも外にいて、「何だか、すごいですよね~」と話していると、家の横の茂みから何だかバサッバサッと羽を広げながら鳴き出した。もしかして、何かと闘っているのか? 土地が少し高くなっている方に私たちは移動して見ようと思ったのだが、茂みが高くて今一つ見えない。
夫が“けもの道”みたいなところに入っていくと、キジが何かに襲われていたっぽい。猪だったら危ないし、オロオロしていると、夫が出て来て、茂みの中に円形に空間が出来ていて、どうやらキジが卵を温めているらしいと言う。
何かわからないが、動物がサッと逃げていった。何の動物だろう。猪でもないし、鹿でもない。猫を大きくしたような感じだけど、猫でもない。犬でもない。不思議だ~そんな動物いたかなあ~? それにしても心配だ。卵を温めている場所がわかってしまったのなら、また襲われないだろうか…。
「バサッ」「バサッ」という音とともに現れたのは…
とりあえず、その晩はもう鳴き声を聞かなかったので、大丈夫だったみたいだ。それにしても、家のすぐ横で卵を温めていたとは知らなかった。確かに誰も入ってこないから安全だったんだろう。夜になり、庭でゆっくりしていると、家の後ろの方から、「バサッ」「バサッ」という音が聞こえて、びっくりして何だろうと思っていたら木に何かが止まった。 うん? 顔が平面? え。もしかしてフクロウ?と思ったら「ホオ~」「ホオ~」と2回鳴いた。びっくりだ、野生のフクロウを初めて見た。フクロウはしばらく木の枝のところで休んでいた。
ある日は夜、鹿が10頭くらい庭の左から横にゆっくり歩いていた。静かな行進みたいで、何だかすごく貫禄があった。そして、蛙の大合唱、ああ~ここは本当に癒される場所だなあ~と幸せな気持ちになる。
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。出演映画『Dr.コトー診療所現在』が公開中。