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『サマーウォーズ』『ウォーターボーイズ』から『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』まで…“猛暑を味わう”映画音楽の粋

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(独米仏キューバ合作、1999年)は第72回米アカデミー賞(長編ドキュメンタリー映画賞)ノミネート作品。
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根強いファンが多いアニメの名作から日米それぞれの青春もの、実在するキューバ音楽のバンドを取り上げたドキュメンタリー映画まで──。今なお厳しい残暑を乗り切るために、ライターの田中稲さんが提案するのは、“熱い”映画音楽をBGMに過ごす逆転の消暑法です。

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8月夏本番、「暑い」を通り越しもはや「熱い」。お盆を過ぎれば涼しくなるかも。そんな期待を胸にウェザーニュース(https://weathernews.jp/s/topics/202306/190215/)を開くと、無情にも、端から端まで真っ赤(平年よりも高いという表示)な日本地図がドーン! 「9月も残暑が厳しい」という小見出しにヒーッ……。

クーラーをつける、冷えピタを貼るなど、フィジカル面の対処だけでは足りない。メンタル面でも対処が必要だ。やはり音楽は強い味方。大好きなアーティストの曲をガッツリ聴くのとはまた別で、この暑さをドラマチックに思わせてくれるような映画音楽をBGMに流しておきたい。聴けば大きなスクリーンの一場面が思い浮かぶような壮大さがあるし、自分が主人公のような気分にもなれる。

ということで、いそいそと「猛暑をやり過ごすための映画音楽プレイリスト」を作ることにした。王道の曲が多いので、ぜひ一緒に聴きましょう。再生ボタン、オン!

炎天下でも元気が出る『サマーウォーズ』のテーマ

いの一番に聴きたいのは、映画『サマーウォーズ』(監督:細田守、2009年)のメインテーマ『The summer wars』。主人公の高校生・健二(神木隆之介)や長野県上田市にある旧家(陣内家)の面々が、仮想空間(バーチャル)でのつながりと、田舎の親戚づきあい(リアル)のつながり、両方をおおいに活用し、混乱から世界を守る物語だ。陣内家の栄おばあちゃん(富司純子)が「あんたならできる。できるって!」と相手を電話で励ますシーンは日本アニメ史上屈指の名場面と言っていい。

「音楽の素晴らしさが映像の美しさを引き立てている」(映画『サマーウォーズ』公式サイトより)
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この映画は、音楽の素晴らしさが映像の美しさをグッと引き立てている。『The summer wars』の目の前に青空がブワッと広がるようなオープニング、心が前に進んでいくようなパーカッションは、聴いているだけで心が奮い立つ。私も炎天下の営業で、何度この曲に助けられたことだろう。「私ならいける。いけるって!」と心の中で呟き、歩き回る元気が出てくるのだ。不思議なほどに!

作曲は松本晃彦さん。映画化もされたドラマ『踊る大捜査線』のオープニングテーマ『Rhythm And Police』もこの方である。誰しもの心にデフォルトで設置されている「テンションブチ上げスイッチ」の入れ方をご存じとしか思えない。クッ、アガる!

イントロだけで冒険が始まる『スタンド・バイ・ミー』

イントロのベース音が聴こえるだけで…(BLUZ11012/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
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さて、夏といえば秘密の冒険。続いては、忘れちゃならない『スタンド・バイ・ミー』(監督:ロブ・ライナー、1986年)である。子どもから大人に変わる思春期の少年4人の死体探しの旅。♪ボンッボン・ボボボンッ……というベース音が聴こえるだけで、線路沿いに歩く仲良し4人組の背中が見えてくる。さらに、(4人組の1人を演じた)坊主頭のリバー・フェニックスの仏頂面、木の上に作った秘密の家、むせ返るような雑草の匂いまでも!

イントロで一気にこれだけの情報量が来るものだから、どうしても声に出して「ウェンザナイッ(When the night)!」と歌いたくなってしまうのだ。そのため電車では聴けない……。

夏の冒険といえば、『菊次郎の夏』(監督:北野武、1999年)も外せない。ビートたけし演じる遊び人の中年男と、生き別れた母親を探す小学生、2人のロードムービー。頻繁に流れるメインテーマ『summer』の存在感は主役級。いっそこの曲を擬人化して「3人のロードムービー」とカウントしたくなるくらいだ。

作曲は久石譲さん。彼の音楽は本当にノスタルジィと仲良しだ。川のせせらぎとか、びっくりするほど星がたくさん瞬いている夜空とか、キラキラと輝くビー玉とか、歌詞がなくても浮かんでくる。いつも見ている風景が100倍きれいに見え、それが少し怖くもなったりした、夏休みの開放感を思い出す。

ドラマ『WATER BOYS』テーマ曲の爽快さは「ある意味発明」

夏休みは部活動に夢中だったという人も多いだろう。私が大好きだったのが、田中麗奈さんのデビュー作『がんばっていきまっしょい』(監督:磯村一路、1998年)で、愛媛県松山市を舞台に、高校ボート部の青春と挫折をテーマにした映画だ。

主題歌『オギヨディオラ』は、川のゆったりとした流れがそのまま歌になったような聴き心地である。疲れたときに聴くと、ストレスがふーっとどこかに行く。作詞作曲歌唱は、韓国出身の女性シンガーソングライター・リーチェ(本名:イ・サンウン)さん。「オギヨディオラ」は韓国の、船頭さんが船を漕ぐときのかけ声なのだそうだ。

この映画と同じプロデューサーチームで作られたのが、妻夫木聡さんを主演に迎え、男子高のシンクロナイズドスイミング部の青春を描いた「ウォーターボーイズ」(監督:矢口史靖、2001年)だ。

この作品が大ヒットし、2003年に山田孝之さん主演のドラマ版『WATER BOYS』シリーズ(2003〜2005年)も作られた。ドラマ版のメインテーマ『シンクロ BOM-BA-YE』は、水しぶきを思わせるクラップ音から始まり鐘の音が美しく鳴り響く、まさに青春スプラッシュなメロディ! この爽快さはある意味発明。聴くと、映画とドラマで感じた、夏の日差しとプールの香り、そして全力で何かに打ち込む尊さを思い出すのだ。

作曲は佐藤直紀さん。アニメ『ふたりはプリキュア』シリーズの音楽も担当してらっしゃるので、親子でお世話になったという人も多いだろう。

映画「ウォーターボーイズ」(TDV2869D/東宝)。ドラマ版『WATER BOYS』にも映画版のキャストが一部出演した
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むせ返るような熱さを堪能するなら『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

いやいや、夏は子どもや学生だけのものじゃないぜ。暑いときにこそシガーをくわえ、煙と情熱をいっしょに吸うのサ——。そんな余裕と色気をお持ちの方には、アメリカのミュージシャン、ライ・クーダーとキューバの激シブ老ミュージシャンのセッションを記録したドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(監督:ヴィム・ヴェンダース、1999年)のサントラがオススメだ(YouTubeのレーベル公式チャンネルで視聴可能)。

このサントラを聴けばアラ不思議、熱風と埃と日差しが自分の友達みたいに感じてくるから凄まじい効果である。時間がない方は、『chan chan』『candela』の2曲だけでもぜひ! この暑さをエネルギーとパッションに変えてやるぜ、という不敵な笑顔が自然と浮かぶから。もちろん気分だけなので、水分補給は必要なのだが。

夏の映画の名曲を聴き、別にやる気にまでつながらなくとも、「暑いのもまあまあ悪くない」と思えたら、それだけでしめたもの。映画音楽たちは「オッケーオッケー、この夏の主役はどう転んでもあなたなので!」とでっかいスケールで励ましてくれるはずだ。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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