
8年前、日本中を席巻した「作りおきダイエット」を覚えている人も多いだろう。なかでも52歳で26kgやせたときに食べていたレシピをまとめた『やせるおかず 作りおき』シリーズ(通称「やせおか」)の著者、料理研究家の柳澤英子さんは、ブームのきっかけをつくり、牽引したひとり。73kgから47kgに激変して約10年、60歳を過ぎた柳澤さんは、一度もリバウンドせず、風邪ひとつひかない暮らしぶりだという。彼女の最新レシピ本『毎日「き・ま・か」ごはん 60歳からは「やせる」より「元気」を優先!』には、その理由が明かされていると聞き、さっそく話を聞いてみた。【前後編の後編】

高タンパク低糖質・食物繊維たっぷりの食生活をかなえるために選んだ3食材
60代に突入した柳澤さんの“見た目”は、やせすぎず太りすぎず、ちょうどいい印象。そして体型よりもツヤツヤの肌とコシのある黒髪に目がいく(なんと、人生で一度も白髪染めの経験がないらしい!)。何より「明るい気持ちで毎日を過ごすことができています」という言葉に、管理栄養士の私としては、柳澤さんが「今」何を食べているのか知りたくなった。
「高齢の方は、低栄養から筋肉や骨密度を落として病気になる人が多い。私も例に漏れず、少~し食が細くなってきました。でもここ10年、風邪ひとつひいていないんです。どうしてこんなに元気なのだろう? といつも食べているものを見直したところ、食卓には『き・ま・か』が常に寄り添ってくれているのが分かりました。
『き・ま・か』とは、き=きのこ、ま=豆、か=海藻です。いつも台所にあるので親しみを込めて勝手にこう呼んでいます(笑)。わが家の食卓を振り返った時、この3つの食材の登場回数がとても多かったのです」
確かに、管理栄養士の立場からみても「き・ま・か」の栄養素の多さは魅力的である。響きの似たワードに、「ま・ご・わ・や・さ・し・い」がある。ま=豆、ご=ごま、わ=わかめ(海藻類)、や=野菜、さ=魚、し=椎茸(きのこ類)、い=芋だ。この7つも古来より日本人が食べてきた良質な食材であり、健康食を語るうえでは欠かせない。中でも3つに特化したのは何故なのだろうか。
「ヘルシー食材として日頃からよく食べていたんです。海藻やきのこは、カサ増しの材料としても最適。豆も満腹感が得られますよね。私が献立を考えるうえで意識しているのは、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な食材。加えて、高タンパクで低糖質を基本としています。また、思い立ったときにサッと購入できる身近な食材という点も大きいです」
「き・ま・か」ごはんが誇れるスゴい栄養素たち

確かに、「き・ま・か」は、ビタミンやミネラル、食物繊維が多い食材だ。まず、ビタミンで特筆すべきは、「き」と「ま」に含まれるビタミンDとK。きのこに含まれるビタミンDはカルシウムの吸収を促し、豆類に含まれるビタミンKは、カルシウムを骨とくっつきやすくする働きがある。この2つのビタミンは、どちらも骨の健康維持には欠かせない栄養素だ。特に女性は、ホルモンの影響で閉経後に骨量が減り、骨がスカスカになる骨粗鬆症という症状になりやすい。だからこそ、今ある骨量をなるべく落とさないことが重要であり、「き=きのこ」と「ま=豆類」を意識して摂ることで骨粗鬆症の予防効果が期待できる。また豆類は、良質な高タンパク質であることにも注目したい。タンパク質というと、とかく肉類に頼りがちだが、豆などの良質な植物性タンパク質にも目を向けているというわけだ。

次に「か」の海藻について。海藻は、低カロリーで低糖質な食材として有名だが、身体に必要な多くのミネラルを含んでいる。なかでも鉄は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となり、体中に酸素を運ぶ重要な役割がある。
そして、「き・ま・か」に共通の栄養素として食物繊維もあげたい。特に水溶性食物繊維は、腸の働きをよくする、「善玉菌のエサ」のような存在。腸内環境を整え、免疫力を高める有用菌を増やすと言われている。体内の余分な糖や脂質を吸着して体外に出す働きで知られるため、便通をよくする効果も期待できる。
ちなみに、ビタミンDは、きのこ類や魚類以外の食品にはほとんど含まれていないため、献立にうまく組み込んでいかないと、骨強化が難しい。
「きのこ、豆、海藻というと、和食を中心とした地味目な料理を思い浮かべる方が多いと思います。和風もいいけど、どうしても砂糖を使いたくなるので、わが家はほぼ洋風の味つけがメイン。毎日取り入れるコツは、作り慣れた定番料理に“組み込む”こと。しかもきのこや海藻はキッチンバサミで食べやすい大きさに切ればいいだけだから、包丁いらずでラクチンです(笑)」
3個パックの1個がハンパに余ることからひらめいたレシピも
「料理は、簡単なのがモットー!」だという柳澤さんに、とりわけ登場回数の多い3品を聞いてみた。
「めかぶ酢を使ったサンラータンは、おすすめです。めかぶ酢って、3個パックとかで売っていて、1個が中途半端に余ることが多いんですよ(笑)。そこでひらめいたレシピです。あえてお酢を使わず、めかぶ酢の酸味で食べるのですが、酸っぱ辛くしたスープは食欲のない日や二日酔いの朝にも最適です。
それから、きのこ数種類をレンチンして味つけしただけものも多いかな。何も作りたくない! って時が私にもあるんですよ(笑)。そんな時の救世主的レシピですね。
あとは、わかめのペペロンチーノもおすすめ。海藻類は、酢の物として登場することが多いと思いますが、油との相性が抜群にいいのです」


人生100年と考えれば、60代は半分のターンを少し通過した時点にすぎない。そこからを柳澤さんのように健康でご機嫌に過ごせれば、老後も悪くないと思えそうだ。
「手作りがよいと分かっていても、面倒な工程があると続きませんよね。また健康にいいと分かってはいても、献立を考えるのが苦痛に感じる時もあります。そういう点で最新刊では、どこを手抜きするのか、どこで“足す”のかを意識してレシピ作りをしました。気軽に作っていただけるのも特徴です。できるだけ簡単に作って美味しく食べて、健康を維持するのがいちばんですね」
取材・文/川越光笑(管理栄養士、ライター、編集者)
◆教えてくれたのは:料理研究家・柳澤英子

やなぎさわ・えいこ。雑誌の料理ページやレシピ本の編集を経て、2002年『ひとりごはん』(西東社)で著者としてデビュー。忙しい人でも苦にならずに作れる簡単レシピを提案。2011年、52歳のときに食を楽しむ独自のダイエット法を始め、1年後には26kg減の47kgに、その後大きなリバウンドもなく、太りにくい体質と健康をキープ。このダイエットレシピを書籍化した『やせるおかず 作りおき』シリーズ(2015年1月~計10冊 小学館)は、260万部超の大ベストセラーに。近著に『料理のその手間、いりません』『映える!おいしい!こんにゃく食堂』(どちらも小学館)、『柳澤式ラクやせオートミールレシピ』( 扶桑社)など。