
悪天候の日にSNSをチェックすると「低気圧 頭痛」などのキーワードで、多くの投稿が確認できます。異常気象が頻発する現代においては、天気が体調にもたらす影響が大きくなり無視できなくなっています。天気による不調は男性よりも女性が圧倒的に生じやすく、その中でも20〜40代の女性の割合が多いです。なぜ、女性は天気の影響を受けやすいのかを『天気に負けないカラダ大全』(サンマーク出版)から一部抜粋・再構成して、産婦人科医の内山心美さんに解説してもらいます。【前後編の前編】
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生理前&生理中×低気圧は最悪の組み合わせ
よく低気圧による体への影響は、男性よりも女性のほうが敏感に感じ取りやすいといわれます。生理前や生理中に低気圧が接近すると、いつもより倦怠感がひどくなったり、激しい頭痛に悩まされたりする「低気圧女子」がとても多いということが、さまざまな調査からも明らかになっています。

漢方薬品メーカーである株式会社ツムラによる10〜40代でPMS(月経前症候群)の症状がある女性800人を対象に行ったアンケートの結果によれば、PMSの症状がある女性の3人に1人が、「天候変化で症状がひどくなる」と回答しました。
このアンケートには続きがあり、PMSが重い女性では、台風などの低気圧はPMSに影響があると回答した人が69.5%、天候や気圧の変化とPMSが重なると「最悪な状態」になると答えた人が77.9%もいたのです。
低気圧不調の原因の一つが自律神経です。自律神経の変化には、春夏秋冬という大きな波があります。男性の場合はこの季節の大きな波と、日々の天候変化の波に対応するのが基本です。
ところが女性は、そこにもうひとつ、月経周期による月ごとの変化が加わります。
つまり低気圧女子は、季節の大きな波、月経による中くらいの波、そして毎日の天候という小さな波。この大中小3つの波に対応しなければならないため、どうしたって低気圧の影響に敏感にならざるを得ないのです。
自律神経と女性ホルモンは切っても切れない関係
自律神経と女性ホルモン。一見、関係のなさそうな両者ですが、体の機能を維持し、調子を整えるという働きはどちらにも共通するものです。ただ、自律神経は“今”に反応して体温の調節をしたりするのに対し、ホルモンはもう少し長いスパンで体に働きかけるという特徴があります。

たとえば、毎月、生理周期が安定しているのは、女性ホルモンの働きによるもの。でも、女性ホルモンが分泌されたその日に生理が始まるわけではなく、生理周期に合わせて女性ホルモンの「エストロゲン」と「プロゲステロン」の分泌量が増減し、それによって排卵が起こり、生理がくるという一連の流れがあります。
自律神経とホルモンは、脳の中ではとても親しくご近所付き合いをしています。脳の中で、自律神経をコントロールしているのは、視床下部という部位です。この視床下部では、同時に、女性ホルモンの分泌を調節している脳下垂体もコントロールしています。
つまり、自律神経とホルモンは同じ会社の違う部署で働いているような関係。どちらかの部署に不都合が生じれば会社全体の問題となるのと同じように、自律神経と女性ホルモンのどちらかが乱れるともう一方もその影響を受けてしまうという関係性にあるのです。
低気圧女子になるのは自律神経の乱れが原因
脳からの「女性ホルモンを出して」という指令は、視床下部→脳下垂体→卵巣という流れで伝わります。ただ、さまざまな理由から女性ホルモンの分泌量が減っていると、脳からは「足りないから、もっと女性ホルモンを出して!」という指令が出されます。このとき、その指令に応えることができないと、脳は混乱してしまい、システムに狂いが生じます。その結果、自律神経が乱れるといったことが起こります。このことによる自律神経の乱れが低気圧女子の多さの原因です。
女性ホルモンの減少は、更年期と呼ばれる閉経に向かう45歳以降の10年間には誰しも避けられないものですが、閉経まではまだまだ時間のある20代や30代の女性でも、更年期に似たような症状に悩まされることがあります。
若い世代で女性ホルモンの分泌量が減る原因には、過度なストレスや過労、体に負担となるようなダイエットなどがあります。30代後半から40代前半には緩やかなエストロゲン減少によって「プレ更年期」と呼ばれる症状がでることも。倦怠感、めまい、のぼせ、動悸、頭痛、イライラ、うつっぽさ。これらは、若年性も含めた更年期障害の代表的な症状ですが、実は、自律神経失調症の症状ともほぼ重なります。
女性は生理周期によっても自律神経が変化する
低気圧女子を悩ませる低気圧と女性ホルモンの関係を見ていきましょう。
低気圧が接近してきて(気圧ダウン&気温アップ)の気象条件になると、副交感神経が優位に働き、眠気や倦怠感、片頭痛の症状が出やすくなります。

副交感神経優位の生理中から排卵前の卵胞期までに低気圧の接近が重なると、わずかばかり残されていたやる気まで削がれ、「もう、ゴロゴロしている以外、何にもしたくない」という状態になってしまう人もいるでしょう。
交感神経が優位な排卵後から生理前の黄体期にまで低気圧が接近してくると、副交感神経がほどよく働いて、PMSのイライラなどが緩和される人もいるかもしれません。しかし、気圧に敏感に反応するタイプの方では、気圧が下がり始めたことを体がキャッチするとそれがストレス源となり、より交感神経の働きを高めてしまうケースもあるようです。
低気圧の通過後、症状が強まる
低気圧の通過中は、気圧と気温の変化が大きく、雨によるストレスも重なって自律神経は乱れやすくなり、副交感神経優位による眠気、倦怠感、片頭痛、交感神経優位による腹痛、イライラ、便秘・下痢、肌荒れ、どちらの症状が出ても不思議ではありません。
低気圧の通過後は(気圧アップ&気温ダウン)の気象条件となり、交感神経が働きやすくなります。ただでさえ交感神経が優位になりやすい黄体期に低気圧が重なると、PMSの症状である頭痛や腹痛をひどくしたり、イライラを抑えきれなかったり、肩こりや関節痛など痛み系の症状も強まりそうです。
このようにPMSの症状の出方は天気によってさまざま。さらに、PMSの症状は200種類以上もあるといわれ、食欲が増す人もいれば食欲不振に陥る人もいて、まさしく千差万別です。そのうえ、生活環境や精神的・身体的ストレスの強弱、心配事の有無など同じひとりの女性であっても取り巻く環境は毎月異なるため、PMSや生理痛の症状の出方や重症度を事前に知ることはほぼ不可能でしょう。しかし、不快な症状をそのままにしておいてはいけません。
女性が天気と上手に付き合っていく方法とは
月経周期にまつわるトラブルは我慢するものではなく、積極的に解決していくものです。まず、もっとも手軽にできるのは、PMSおよび生理の時期と天気の関係を明らかにしていくこと。

どんな季節、天気のときに、どんな症状が出やすくなるかを把握することが大切です。症状が出たときが生理前に雨が降ったときなのか、曇りだった場合なのかを記録しましょう。
これを続けることで、「月経期にくもりの日が多いと下腹部痛がキツくなるな」とか「生理前のシトシト系の雨は気持ちが塞ぎ込むな」など、生理前や月経期にどんな天候だと体調が悪くなるのか、自分の傾向が見えてくるはず。
苦手とする天気がわかれば、天気は事前に天気予報で把握できるので、『天気に負けないカラダ大全』で紹介しているお天気別の自律神経サポート法を生活に取り入れてみましょう。
女性の体は、季節、自律神経、月経周期、3つの変化に対応しなければならないことはすでに述べた通りですが、そのどれもが細い線でつながっていたりもします。無理をせず、できることをコツコツと取り組むというのが、いつでも快適な心身で過ごすための近道でもあるのです。
◆教えてくれたのは:産婦人科医・内山心美さん

産婦人科医、『のぞみ女性クリニック』院長。1999年昭和大学医学部卒、昭和大学産婦人科学教室入局。水戸赤十字病院、昭和大学藤が丘病院、昭和大学病院、佐野厚生総合病院などを経て2014年昭和大学江東豊洲病院 助教。2018年まつしま病院 常勤。2020年昭和大学江東豊洲病院 兼任講師。2020年9月、のぞみ女性クリニック開業。