
天気が悪いと体調不良が起こる低気圧不調に悩まされている人は、男性よりも女性の方が多いです。そんな「低気圧女子」を悩ます気象病の数々を月経周期と重ね合わせて見てみると、なるほど!と納得させられる出来事が私たちの体で起こっていることがわかりました。同じく女性の悩みの種であるホルモンバランスと自律神経の関係について、産婦人科医の内山心美先生に解説してもらいました。『天気に負けないカラダ大全』(サンマーク出版)から一部抜粋し、再編集しお届け。秋雨のシーズンにぜひ知っておきたい情報です。【前後編の後編】
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女性は生理周期によっても自律神経が変化する
低気圧の影響を最小限にしていくためには、自律神経のバランスを整えることが大前提ですが、その自律神経に影響を与えてしまう女性ホルモンや生理周期について、簡単におさらいをしておきましょう。

[卵胞期(排卵前)・低温期]
卵胞期のうち生理がある期間を月経期と呼ぶことも。美人ホルモンとも呼ばれている「エストロゲン」の分泌が優勢となって体温が下がり、気分は安定、肌のコンディションも上々の時期。
[排卵期]
排卵期はエストロゲンの分泌量が変化することにより、排卵日前後に排卵痛や頭痛、気分の浮き沈みなどの不調を感じる人もいます。
[黄体期(排卵後)・高温期]
排卵後から次の生理が始まるまでの時期。妊娠に備えて子宮内膜が厚みを維持するホルモン「プロゲステロン」の分泌が増えて体温は上昇、心身ともに不調に陥りがち。生理の7〜10日前からPMS(月経前症候群)の症状に悩まされる人もいます。
男性にくらべて女性の方が低気圧不調が多い理由
卵胞期に入って生理が始まると体温が下がり、副交感神経が優位になります。血行はよく、心身ともにリラックスモード。気分が安定していて、部屋の片付けや目の前の雑務もペースよくはかどります。排卵日後からは体温が上昇して高温期に入り、黄体期は交感神経が優位に働くようになります。交感神経には血管を収縮させる働きがあり、この時期は血行が悪くなりがちです。また、気分的にも不安定で、イライラしたり、出かけるのを億劫に感じたりする人もいます。
自律神経は1年の間、季節に合わせて変化していきますが、さらに女性は約1カ月単位で交感神経と副交感神経が変化していきます。もともと自律神経は変化が苦手。変化が多いことで自律神経も乱れやすいことが、低気圧男子より低気圧女子のほうが多い一因と考えられます。

女性を悩ませるPMSと低気圧と自律神経の深い関係
多くの女性が悩まされているPMSの原因はまだ確定されていませんが、2種類の女性ホルモン分泌の大きな変化が要因のひとつといわれています。
PMSや生理痛をさらに重症化させるのが、自律神経の乱れです。過度なストレスを抱えていたり、疲れが蓄積されてリラックスする時間を持てなかったりするときは、どうしても交感神経が優位な状態になってしまいます。すると、血管が収縮することで血流が悪くなって痛みをより強く感じてしまったり、全身の細胞に必要な栄養素が供給できなくなって倦怠感やイライラした精神状態に陥ってしまったりするのです。

PMSの起こる生理前は、交感神経が優位になりやすい時期ですが、そもそも自律神経の総合力が低下しがちです。生理前は溜め込む時期と表現されることが多いですが、これは黄体ホルモンの働きによるもの。排卵後からの高温期には、受精卵が着床して妊娠が成立しやすくするために黄体ホルモンが分泌されます。このとき体は水分を溜め込む方向に働き、むくみやすくなります。そこに、交感神経が優位な状態が重なると、さらに血流は悪くなって排泄も滞りがちになり、むくみなどの症状はますますひどくなっていきます。
生理が始まると副交感神経が優位になり、本来であれば心身ともにリラックスするはずなのですが、仕事やストレスなどで常に緊張状態が続いてしまうと交感神経ばかりが働いてしまい、血流が滞りがちになってしまいます。さらに、血行不良によって子宮がうっ血すると、生理中の痛みをより強く感じるようになります。これがPMSの原因のひとつと考えられますが、このとき低気圧が接近して自律神経が乱れると、痛みが増幅される場合があります。
体の水はけをよくして長雨の季節を乗り越える
雨続きのとき、低気圧の影響もあって、体はいつも以上に水分を蓄えやすくなります。普段はあまりむくみを感じないというタイプの方でも、長雨によって一時的に体質が変わり、水分を蓄えやすくなることもあります。雨が降る前日に頭痛がする、舌にギザギザの歯形がつく、脚のスネの骨の上を押して凹んだ跡が5秒たっても消えない、などがあれば、体内に必要以上に水分が溜まっている可能性が高い状態だと考えられるでしょう。

東洋医学での「水毒」とは?
東洋医学では体内に水分がとどまったり偏在している状態を「水毒」といい、PMSの症状が悪化する可能性が考えられます。体内の水分代謝が悪くなると、むくみ、倦怠感、拍動性頭痛、頭重感、立ちくらみ、悪心・嘔吐などさまざまな症状を引き起こします。
さらに東洋医学では「気・血・水」のバランスが大事というのが基本的な考えとしてあり、この3つのバランスをとるためには、まず、胃腸の調子を整えることが大切です。胃腸が弱っていると体の水はけが悪くなってしまい、それがさまざまな不調を招く引き金になってしまうのです。
自律神経から見ると、胃腸の調子を上げるためには副交感神経をよく働かせることが必須です。水毒が原因と考えられる、雨(低気圧)とPMSや生理が重なった不調のときは次のようなセルフケアで、体を冷やさないようにすることが肝心です。
・冷たい飲み物を控え、なるべく温かいものを飲むようにする。
・甘いもののとりすぎは体を冷やすので、適量にとどめる。
・胃の不調とストレスは密接な関係にあるので、ストレスフルな生活にならないよう心がける。
・筋力不足になると脂肪が多くなり、それが水分代謝機能を低下させるので、適度な運動を心がける。
・シャワーですませずに入浴をして全身の巡りをよくする。
また、医療では漢方薬が助けになることがあります。漢方薬は、婦人科でも処方してもらえるところがあるので、かかりつけ医があると安心です。漢方専門医に相談するか、漢方薬局や市販薬購入などの方法もあります。
■気・血・水のすべてをバランスよく改善する漢方
・加味逍遙散(月経痛、イライラ、肩こり、めまいなどに効果)
・当帰芍薬散(むくみ、貧血症状、頭痛、PMSなどに効果)
■気の異常を緩和する漢方
・抑肝散(イライラや不安、動悸などに効果)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(イライラや不安、不眠などに効果)
・加味帰脾湯(気分の落ち込み、不眠などに効果)
■気・血の異常を緩和する漢方
・桃核承気湯(イライラ、のぼせ、月経痛)
■低気圧に伴う水毒を改善する漢方
・五苓散
・桂枝茯苓丸
・半夏白朮天麻湯
・当帰芍薬散
不調を極限まで溜め込まないようにする
「月経関連片頭痛」と言って、女性の場合は生理周期に合わせて片頭痛が起こる方も少なくありません。生理によって引き起こされる片頭痛には、女性ホルモンのエストロゲンが関係しています。エストロゲンの分泌量は月経周期に合わせて増減していますが、分泌量が急減するタイミングで片頭痛が起こりやすいといわれています。

エストロゲンは、生理が始まると徐々に分泌量が増え始め、排卵前にピークを迎えます。そして、排卵が起こると急激に下がります。片頭痛が起こる一つ目のタイミングがこのときです。そして、排卵後にエストロゲンの分泌量は少しずつ増えていき、生理前後に再び下がります。これが、片頭痛が起きやすい2つ目のタイミングです。思い当たる人も多いのではないでしょうか。
妊娠・出産を経た女性の中には、「妊娠中は片頭痛がなくて快適だった」という方も多いのですが、これは、妊娠中はエストロゲンの分泌量が高い状態で保たれており、急減するタイミングがこないためだと考えられます。こういった不調に対して医学的にはホルモンの変動を減少させる低容量ピルや対症療法的な漢方薬の服用が効果的ですが、まずは、食事の質を見直して、適度に運動をして、質のよい睡眠をとることが重要です。
食事・運動・睡眠を整えることが健康への近道
一日のリズムを整えていくことは自律神経のバランスをよく保つことにつながり、それがホルモンバランスを整えることにもつながっていくのです。食事・運動・睡眠。もう聞き飽きてしまったかもしれませんが、どの分野の専門家でも、この3つが大切だと口を揃えていうはずです。結局は基本を整えることが健康への近道であることに変わりはないのです。
PMSや生理痛、月経関連片頭痛などホルモンが関連する痛みや不調は、20代以降の女性に多く見られます。もちろん、10代でも悩んでいる方はおられますが、10代のときはなんともなかったのに社会人になってから生理痛がつらくなったという方の割合はかなり高いと感じています。女性のライフステージと合わせて考えてみると、社会人になって生じる人間関係や仕事上のストレスもあるでしょうし、社会人になって運動量が減ったことも大きく関係していると思います。
20代から30代になると、仕事だけではなく、結婚する人や出産する人も出てきます。するとますます自分の体をいたわる時間がなくなって、極限まで不調を我慢してしまい、どうにもならなくなってから病院に駆け込む、という方がたくさんいます。
学生時代のように、自分が主役の時間を持つようにすることも、生理に関連した不調の改善には役立つと思います。「忙しいから」と言い訳をせず、えいやっと立ち上がり、頭で考える前に行動してみましょう。元気、やる気、活気。すべては気の流れがよくないと発揮できないものばかり。自分の気が滞らないように、好きなことで発散する時間を積極的に持つようにしてみてください。
◆教えてくれたのは:産婦人科医・内山心美さん

産婦人科医、『のぞみ女性クリニック』院長。1999年昭和大学医学部卒、昭和大学産婦人科学教室入局。水戸赤十字病院、昭和大学藤が丘病院、昭和大学病院、佐野厚生総合病院などを経て2014年昭和大学江東豊洲病院 助教。2018年まつしま病院 常勤。2020年昭和大学江東豊洲病院 兼任講師。2020年9月、のぞみ女性クリニック開業。