ところで、運をよくするためには「運がいい」「ツイている」と声に出して言うべきだ、とよくいわれます。これには私も賛成で、自分は運がいいと思う練習をするときには、声に出して「運がいい」と言うのがおすすめです。
というのは、人間が何かを記憶するときには、大脳深部の海馬という部位が働くからです。人の記憶は、視覚、聴覚、嗅覚などの感覚器官から海馬に情報が送られ、そこで整理統合され、短期間記憶すべきもの、長期にわたって記憶すべきもの、すぐに忘れてもかまわないものなどの判別がされるのです。
この情報を送る際に、働かせる感覚器官が多ければ多いほど、記憶は強化されやすく、長期間にわたって残りやすいとされています。
よって、ただ心の中で「運がいい」と思っているより、声に出して「運がいい」と言ったほうが、長期間の記憶にかかわる脳の細胞は活発に働き、「自分は運がいい」ということが脳に定着しやすくなるのです。
同時に、「運がいい!」「ラッキー」「ツイている!」などと書いた紙を部屋の目につく場所に貼っておく、というのも視覚を働かせるので有効でしょう。さらに、これらは少なくとも3週間は意識して続けるようにしてください。人間の脳の中に新しい回路ができるようになるには、少なくとも3週間はかかるとされているからです。
◆教えてくれたのは:脳科学者・中野信子さん
東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮新書)、『サイコパス』(文春新書)、『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『毒親』(ポプラ新書)、『フェイク』(小学館新書)など。