
2万人超の臨床麻酔実績をもつ血流コントロールのプロで、『血流がすべて』(アスコム)の著者である麻酔科医の富永喜代さん。富永さんは、血流をよくすることで病院に行くほどではないけれど…という不調を改善できる可能性があると話します。そこで、血流の改善に食事からアプローチするコツについて教えてもらいました。
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血流をよくすると健康的な体を目指すことができる
血流が悪いとなぜよくないのか。富永さんによると、血液がドロドロだったり、血管が詰まりやすくなっている血流の悪い状態だと、毛細血管の先まで十分な血液が運ばれないのだそうです。そうすると、細胞に必要な栄養や酸素が届かない、また、乳酸や疲労物質などの老廃物が回収されないため、疲れが取れなかったり、炎症が起こったりするといいます。
そして血流がよくなり、代謝がアップすると免疫力もアップします。つまり、血液を全身にスムーズにめぐらせることで、病気に負けない健康的な体を目指すことができるのです。
たんぱく質は必須アミノ酸が含まれているものを意識
毎日、お腹が減って食事をするという生活は当たり前のように感じますが、食欲がなくなり、思うように食べられなくなってしまうと、健康的な生活を送れなくなってしまいます。

「あまりにも日常的すぎて深く考える機会の少ない食事ですが、実は心と体の健康に大きな影響を与えているんです」と富永さん。それは、古い細胞は体の外へ排出され、新しい細胞が生まれるという新陳代謝をくり返して体が作られているからです。
「こうした細胞の新旧交代の仕組みを支えているのが、たんぱく質。家庭科の授業の時間に習った3大栄養素、糖質、たんぱく質、脂質のうち、もっとも重要なのがたんぱく質なんです」(富永さん・以下同)
それは、人間の体の約20%がたんぱく質で占められているからです。体重60kgの人であれば、12kgに相当します。そして、体重60kgの人の場合は1日60gが新しい細胞を作るために使われているのだそうです。

「つまり、私たちは細胞を元気に保つため、毎日の食事でせっせとたんぱく質を補給しているわけですね。これが不足してくると、体力、筋力、免疫力が落ちてきて、血管も弱くなってしまうんです」
血流をよくするためには、健康な血管が重要です。食事の質を上げることで、心身ともに元気になり、血管も強くなると富永さんは話します。
そのためには、アミノ酸バランスのとれた食事を心がけるのがいいそうです。
優れた食事は一汁一菜の和食
では、具体的にアミノ酸バランスとはどういうことなのでしょうか?
「たんぱく質は20種類のアミノ酸がつながってできています。そのうち9種類は自分の体の中で十分な量を作れず、私たちは食べ物からとるしかありません」

その9種類のアミノ酸は必須アミノ酸と呼ばれるもので、たんぱく質の多いものを食べるときには、この必須アミノ酸が含まれた食材を選ぶのが効果的。一方で、たんぱく質の多いメニューはカロリーも高くなりがちなため、食べ過ぎは肥満の原因に。
「太った体は血流にとってマイナスとなる点が多く、食習慣としては必須アミノ酸をとりながら、カロリーは抑えるというのが健康的な食べ方の基本なんです」
西洋のパンと肉、中東の小麦と豆など、各地域で古くから食べられている主食と主菜の組み合わせは炭水化物とたんぱく質、必須アミノ酸がうまく含まれる組み合わせになっているといいます。

「日本ではどうかというと、昔ながらの和食を食べていればバッチリです。ごはんとみそ汁におかずを1品。米だけでは足りないたんぱく質をみそ(大豆)が補い、しかも必須アミノ酸も豊富に含まれています」
アミノ酸スコア100点満点は「鮭と牛乳」
おかず選びのポイントは、アミノ酸スコアが高いものを選ぶといいそうです。アミノ酸スコアとは「これさえ食べていれば必須アミノ酸量が十分にとれますよ」という食材の指標です。
「これが100点満点なのは、鮭と牛乳。これなら朝食にも気軽に取り入れられますよね」
また、そら豆などの豆類も必須アミノ酸が豊富なのだとか。意識して食事に取り入れるようにしましょう。

毎日のみそ汁が若々しい体を保つカギ
必須アミノ酸が豊富という話があった、みそ。富永さんは、1日の食習慣の中にみそ汁を必ず盛り込んでほしいと話します。
「みそは大豆由来の良質なたんぱく質を筆頭に、糖質や脂質の3大栄養素だけでなく、ビタミンB群やビタミンE、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル、食物繊維などを含む食材の優等生。しかも発酵しているので、たんぱく質や糖質などの栄養素が吸収しやすいアミノ酸やブドウ糖に分解されているのもありがたい点です」
具材に関しては、好みでいいとのことですが、血流という点にスポットを当てると、朝にはしじみ、夜には豆腐のみそ汁がいいのだそうです。

朝にしじみのみそ汁がいい理由
肝臓を助ける力のあるオルニチンを含み、二日酔いに効くことで有名なしじみは、ビタミンB2が豊富で造血作用も期待できるといいます。
「そして、ビタミンB2は水溶性なのでみそ汁にして摂ると吸収効率が高く、貧血を防いで血液が酸素を運ぶ運搬力も向上させてくれます」
造血作用によって血流がよくなり、動き出した筋肉へ栄養と酸素をしっかり運びこんでくれるため、朝に食べるのがとくにおすすめ。しじみは冷凍保存すれば、手軽に調理しやすいので、ぜひ朝食に取り入れてみてください。

夜に豆腐のみそ汁でストレス軽減
そして、富永さんが夜に豆腐のみそ汁を推奨する理由は、沈静化作用が期待できるセロトニンを作るのに欠かせない、トリプトファンというアミノ酸を多く含んでいるから。
「精神的な疲れを感じた日、落ち込んだ日の締めくくりに温かい豆腐のみそ汁を飲んで、ほとする。精神的なストレスは活性酸素を活性化させ、細胞の老化を早めます。『若々しさを保つ』という意味でも、疲れた夜は豆腐のみそ汁です」

毎日のみそ汁で若々しい体に!(Ph/photoAC)
高血圧でもみそ汁を飲んでOK
「高血圧の人はみそ汁を控えるようにしがち」と富永さんはいいますが、「日本高血圧学会総会においてみそ汁の摂取頻度と血圧の間に関係性は認められないこと、また1日1杯程度のみそ汁のある食生活が、『血管年齢を10歳程度改善する』傾向があることが発表されています」と続けます。
コーヒーを飲むならインスタントの方がいい理由
ビタミンCとビタミンEの抗酸化作用のメリットが得られる緑茶が水分補給にいいと話す富永さんですが、コーヒーを飲むことにもよい点はあるといいます。
「コーヒーには血栓を溶かす作用があり、国立がん研究センターの研究でも『1日1杯のコーヒーを飲むと脳梗塞の発症リスクが低くなる』ことがわかっています」
また、富永さんはドリップコーヒーには含まれておらず、インスタントコーヒーに含まれている栄養素があることから、血流をよくすることをふまえて飲むのならインスタントコーヒーがおすすめだと話します。
その栄養素とは、マグネシウムです。コーヒー豆にはマグネシウムが豊富に含まれていますが、粉末にマグネシウムが含まれるインスタントコーヒーと違い、ドリップコーヒーの場合はマグネシウムがカスとともにフィルターに残ってしまうそうです。

「マグネシウムは、血流に働く微小ミネラルで血圧を正常に保つ補助となっています。不足すると、体内の多くの酵素が働かなくなり、動脈硬化や心筋梗塞を引き起こす原因に」
ただし、カフェイン中毒にならないために、コーヒーは1日2杯までにするのがベター。眠れなくなることもあるので、夕方以降に飲むのは避けた方がいいそうです。
「朝はカフェインの効能を狙って着付けに1杯、午後のティータイムではリラックスしながらマグネシウムを補給する1杯がいいでしょう」
◆教えてくれた人:医師・富永喜代さん

とみなが・きよ。富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会認定麻酔科指導医。呼吸と循環、血液コントロールのスペシャリストとして、全身の病気と血流について豊富な知識を有する。聖隷浜松病院などで麻酔科医としてのキャリアを積み上げ、臨床麻酔実績は2万人超。2008年に愛媛県松山市で開業。YouTubeチャンネルは登録者数25万、オンラインサロンは会員数1万5000人を超え、SNS総フォロワー数は39万人。NHK『おはよう日本』、TBS『中居正広の金曜日のスマたちへ』などメディア出演も多数。著書に『血流がすべて 血流コントロールの名医が教える わずか1分でできる「すごい血流改善法」』(アスコム)など、著書累計95万部のベストセラー作家である。