ヘッドホンで聴きたい安室曲ベスト1『Say the word』
安室ちゃんの楽曲は、ダンスが素晴らしいものももちろんいいが、ヘッドホンで聴いても、とても心地がいい。もっちりと甘く太い声は、母性を感じ、包み込まれるような気持ちになる。
『SWEET 19 BLUES』(1996年)、『Don’t wanna cry』(1996年)という初期作品も寂しさの中に温かさがあるし、2007年の『Baby Don’t Cry』は、歩幅を合わせて一緒に歩いてくれるやさしい足音が、声といっしょに耳にぺたぺたと心地よく聴こえてくるようで、ボーっと聴いてしまう。「泣かないで」「悲しまないで」と言いながらも、ホロッと泣く時間をくれる、それが安室ボイス!
私のベスト・ヘッドホン・安室ソングは2001年の『Say the word』。すばらしくシンプルで心強く、底力みたいなものをくれる。歌詞もおおらかで、縮こまっている背中がぐんと伸びるよう。作詞は誰だろう、と確認したら、安室奈美恵さん本人で驚いた。
安室ちゃんは、時代の閉塞感に風穴を開けるけれど、逆に、時代が空けた大きな空虚感を埋めてもくれる。
アドレナリンを出したいときも寂しいときも、常にエンタメのセンターに、ビシッと9cmのヒールでポーズを決めた彼女が立っている安心感。「間違いなく満たされたい」という欲張りな気持ちを叶えてくれる、数少ないスターだ。
ダークな安室ちゃんが楽しめる『GENIUS 2000』を探せ
いつの日か、テレビ出演が減り、ライブに重点を置いた彼女。MCの時間もほとんど取らずパフォーマンスに集中し、デビューから25年間、ずっと多くの人の憧れでい続けた。ファンの夢を守り抜き、全身全霊をかけたパフォーマンスは伝説となっている。
だから今回のサブスクからの消去も寂しくはあるが、CDを手に取る感覚、音楽を手元に置いておく大切な気持ちを思い出させてくれた。ありがとう安室ちゃん、という感謝でいっぱいである。
さて、今猛烈に聴きたいのは、気だるい『SOMETHING ‘BOUT THE KISS』(1999年)、警告のような『LOVE 2000』(2000年)。ダークな安室ちゃんにとっぷりと浸りたい気分だ。ということで、一番に押し入れから掘り起こすべきは、この2曲が収録されたアルバム『GENIUS 2000』である。ロイヤルブルーの地に黄色い蝶が飛んでいるジャケットを探せ! 私の場合は、探しているCDがすぐ出てこない環境の問題、つまり部屋の片づけにも直面している……。
聴きたいと思ったときにいつでも聴けると幸せ度が増す。最近あまりにいろんな曲が簡単に聴けて、その幸せが当たり前でないことを忘れていた。本当にごめんなさい、音楽。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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