「好き」を心で呟くKANソングの主人公
KANさんのラブソングに出てくる主人公の多くは、「大好き」とずっと心で呟いている人だ。たくさんの愛の言葉がギュッと詰め込まれているのに、それを口で言わず、視線で言っている感が伝わってくる。じーっと目で語る、心で語る。
『永遠』(1991年のアルバム『ゆっくり風呂につかりたい』収録)も『エキストラ』(2020年のアルバム『23歳』収録)も、好きな気持ちが喉に詰まって、呼吸困難になりそうな姿を勝手に想像してしまう。『こっぱみじかい恋』(1992年)なんて、言いたいことがほとんど言えないうちに恋が終わっている。だから聴くたびに、「グゥッ」と声にならない声が出る!
勇気が出ずに飲み込んでしまう「好き」という言葉。「あのね」「うんとね」とモジモジするところまで絶妙に歌ってくれるので、なんだかもう、そのモジモジ含め、全てが恋の醍醐味と思えてくるのだ。
12thシングル『言えずのI LOVE YOU』(1992年)は、片思いの経験がある人ならもれなく、首がもげるほどに同意したくなるだろう一曲。これを聴きながら、若かりし頃の甘酸っぱい思い出がよみがえってくる方もいるはずだ。
私もその一人。大昔のバレンタイン、好きな人に渡すべく、手作りチョコに挑戦したことがある。しかし本に載っていたレシピは、板チョコを溶かしてミルクやら砂糖やらを増量し、形を変えて固め直すだけ。「これを手作りと言っていいのか」と疑問を持ちながらも作り(固め)、そして岩のように無様なチョコが出来上がった。好きな人にあげるなど到底無理で、全て己で食し歯が痛くなるという、ものすごく無意味な時間を過ごした。
もし私の学生の頃にKANさんの歌があったなら、『言えずのI LOVE YOU』を聴き、その不器用さも恋の醍醐味、と奮起できたはず。そして、できあがった岩のようなチョコレートを自分で食べず、リボンをかけ、ちゃんと渡せた気がしないでもない。