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薄井シンシアさん、弁護士として働く愛娘の価値観に安堵 高給取りでも至福の時間は「100円たい焼き」

薄井シンシアさん
薄井シンシアさん、娘との関係とは?
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2023年12月、米国で弁護士として働く薄井シンシアさん(64歳)の一人娘が一時帰国しました。17年間の専業主婦を経て、外資系企業で働く薄井さんは、普段、合理的でドライな印象です。でも、X(旧Twitter)に「手を伸ばせばいる。いつでもハグできる。到着した瞬間に出発までのカウントダウンが始まっている。娘との時間、生まれた時から期間限定」と投稿しました。成人した娘と過ごした薄井さんの2週間をのぞいてみました。

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クリスマスイブはとんかつとユニクロ

「娘とのクリスマスは5年ぶり。イブは日本橋高島屋で買い物し、おいしいとんかつを食べ、帰りは八重洲地下街のユニクロとスリーコインズに寄った。特別なことはやっていないが、娘と一緒にいるだけで幸せ。こんな何でもない一日、年に数回しかない。生きている間、後何回あるか。一瞬一瞬大切にしたい」(2023年12月25日 X[旧Twitter]より)

娘がいるとすべてが面白いんです。夜中まで話が尽きません。最近は娘がアニメにハマっているので、一緒にNetflixで『推しの子』を見て、「このアクアがどうしたの?」と話したりしました。私は基本的にアニメを見ないけれど、娘の興味があるものには寄り添いたい。この姿勢は昔から変わりません。もちろん睡眠も大事なので、12時近くなると、お互いに「もう寝なくちゃ」と言って、私の広いベッドに2人でもぐりこみます。

娘が帰って来たときに連れて行くのは、食べ物屋さんばかり。まず、うなぎ屋さんへ行き、次は焼き魚を食べに行く。日本にいる間は娘にお金を使わせたくないので、「ここは私のおごりだからね」となるべく私が支払います。フランス料理も1回食べに行きました。

元夫と娘の時間もフェアにつくる

娘にとっては父親との時間も大切です。私はそういうところをすごくフェアにしたいから、元夫と娘が一緒に出掛ける日も必ずつくります。それとは別に、家族3人で豆腐会席が有名な「うかい亭」にも行きました。

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食事をしながら、ウィーンに住んでいたとき、私が日本食材の調達にいかに苦労していたかを話したら、2人とも大爆笑。懐かしかったです。この会食は、娘が「家族3人のお祝い。親孝行させてね」と言って代金を支払いました。

娘からのアメリカ土産は胃腸薬ぐらいです。私は腸にガスが溜まりやすいからと、日本よりもよく効くアメリカ製の薬を買ってきてくれます。

「ああ、本当にまともに育ったな」と実感

今回も、娘と再会して、「ああ、この人は本当にまともに育ったな」と改めて感じた出来事がありました。娘にきちんとした価値観があることを再確認したら、ほかのことはどうでもよくなりませんか?

娘と表参道へ散歩に行きました。彼女は、いまだに10年前に「BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)」で買った擦り切れた革のジャケットを着ています。娘が「新しいジャケットが欲しいんだ」と歩いていたら、たまたま「Theory(セオリー)」の店があったので入りました。

革のジャケットがあったので娘が試着したら、ピッタリ。すごく似合っていました。でも娘は20数万円という値札を見て、「ちょっと値段が合わないね。高すぎる」とジャケットを棚に戻しました。

「ママが買ってあげてもいいよ」と提案

高給取りの彼女にとって、ジャケットの値段は大したものではありません。私は「高い給料をもらっているんだから、買えるじゃない」とすすめましたが、彼女はいろいろ考えた末、「そこまでの価値はない」と買うのをやめました。私が「ママが買ってあげてもいいよ」とも言ったけれど、娘は「全くいらない」の一点張り。結局、何も買わずに2人で店を出ました。

私はその時、「この子は本当に価値観がしっかりしているな」「やっぱり私の子育てはうまくいったぜ!」とうれしくなりました。私の気持ちがわかりますか? 最後は価値観が大切なのです。娘は「自分の価値は物では測れない」と割り切って、購入するのをやめたのでしょう。だから、その気持ちを尊重しました。

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娘との買い物は、いつもこんな感じなので大変。いろんな店を回るのに、結局、何も買わないからストレスがたまります。でも無駄遣いをしない姿を見るたびに、「ああ、正しい価値観で育ったな」と嬉しくなります。

娘は米国のロースクールで学び、学費は3年間で2500万円ぐらいかかりましたが、そのうち2000万円ぐらいは、自分でロースクールへ行く前に日本の外資系企業で働いて貯めました。

外資系企業は高給なので、派手な印象があるでしょう? でも娘は、就職前に住んでいたニューヨークの「ANN TAYLOR(アンテイラー)」というブランドで買ったスーツとコートを着続けました。会食に行ったとき、同僚から「この中で一番稼いでるのは彼女だけど、何でもない服を着てるよね」と言われたこともあるそうです。でも、彼女の価値はほかのところにあるから、収入が上がっても生活は変わらない。当時、ニューヨークで買った200ドルか300ドルの黒いコートを十年以上経った今も大切に着ています。

至福の時間は100円のたい焼き

今回、娘は私が10年前に購入して、ほとんど着ていなかったユニクロのダウンのコートを米国に持ち帰りました。そのコートは10年前、私が娘とお揃いで購入したもので、娘も同じものを持っています。でも彼女のコートは10年間使ってボロボロ。「ママ、これ使わないならもらっていい?」と言うので彼女にあげました。

それと、私が使わなくなった「WEDGWOOD(ウェッジウッド)」のお皿を持ち帰りました。私はサステナビリティが大切だと思っているので、「買わないで済むものは、全部家から持って行きなさい」と彼女に伝えています。娘も家の余りものを少しずつ持ち帰って、向こうで生活しているようです。

私と娘は、高額な給料をもらっているけれど、慎ましい生活をしているところが似ているのかもしれません。2人で週末に何をするかといえば、散歩に行って100円のたい焼きを買ってベンチで食べています。「この100円のたい焼きがおいしいんだよね」と幸せを見いだして満足する。そんなとき、私たちにとって、お金は「安心感と自由を買うための手段でしかない」のだと思います。

娘は21歳で一生懸命に働いているとき、「これだけ苦労して稼いだお金なんだから、くだらないものには使えないよね」と言いましたが、まったくその通りだと思います。

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

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