いわゆる人気猫種ランキングで話題になるのは、スコティッシュフォールドにアメリカンショートヘア―、マンチカンなど。しかし、実は毎年1位になるのは混血猫です。犬ではトイプードル、チワワに次いで混血犬は3位ですが、猫では他のどの猫種より圧倒的に多いのです(※アニコム『家庭どうぶつ白書 2023 』参照)。これはなぜでしょうか? そして、混血猫の健康管理について意識すべきことは――? 気になることを、獣医師の内山莉音さんに聞きました。
4匹に1匹は混血猫、放し飼い時代からの流れ
日本の家庭で飼われている猫の約4分の1が混血種――。アニコム『家庭どうぶつ白書』によれば、同社のペット保険の2021年度(2022年3月期)契約を開始した猫を頭数順に並べると、混血猫が第1位で27.0%の割合となっています。2位のスコティッシュフォールド(14.8%)を大きく引き離しています。ちなみに、混血犬は犬のランキングで3位、11.4%です。
なぜ、混血猫はこんなに多く飼われているのでしょうか。内山さんは「猫はかつて放し飼いが多かったですし、今より野良猫も多かったと思うので、混血が進んだのではないでしょうか。街中のあの猫もその猫も混血という時代があったので、室内飼育が増えた今でも混血猫が多いのだと思われます」と話します。
ちなみに、猫の完全屋内飼育は東京都で7~8割となっています。2006年に60.1%、2011年に71.6%、2017年に73.7%(東京都福祉保健局調べ)。地域によって数字は異なるでしょうが、全体として、以前は放し飼いが多く、近年は室内飼いが増えているのは間違いありません。
混血猫の飼育頭数の多さはこの他に、猫人気や動物愛護の意識が高まって、保護猫を飼う人が増えたことも影響しているようです。
「私が病院で診療しているなかでも、ボランティアのかたをはじめとして、ミックスの保護猫を連れて来られるかたが増えたなと感じます。ちなみに、犬でいうマルプーやチワックスのように、人気種同士を意図して掛け合わせる動きは、猫では犬ほど盛んではない印象ですね」(内山さん・以下同)
混血猫は歯周病にかかりやすい!?
特定のミックス種が人気を集めているわけではないので、混血猫は多様なルーツを持っていることになります。となると、混血猫というくくりで、健康面や体質について傾向や法則のようなものを指摘するのは難しいのかもしれません。一般に「雑種は強い」など、混血種の犬や猫は身体が丈夫であるという言説が、昔はよく聞かれましたが、それは事実なのでしょうか。
「どうでしょう……。事実として、ほとんどの疾患で請求割合(病気にかかって病院を受診した猫の割合)が猫全体の平均以下ではありますね。一部の純血種では、骨軟骨異形成症や肥大型心筋症など特定の病気にかかりやすいことが分かっていて、その猫種に特有の遺伝的素因が発症に関わっている可能性がありますが、混血猫にはそのような疾患が指摘されていません」
ただし、混血猫のほうが猫の平均より多く病院にかかっている疾患もいくつかあります。歯周病や肝酵素の上昇、肛門腺の炎症、便秘などがそうです。
「データはそうなんですよ。ただ、やっぱり混血猫もいろいろなので、こういう数字が出たから混血猫はこの病気にかかりやすい、かかりにくいということを、帰納的に言っていいものかどうかは疑問符がつきます。統計は、愛猫の健康に注意を払うきっかけにしてもらえるといいのかなと思います」
“うちの子”のことはやっぱり健診や検査で知ろう
混血猫をひとまとめにして注意すべき疾患を挙げるのは、やはり適当ではないようです。では、例えば混血猫のなかで毛の長さや毛色、鼻の短さなど、身体的な特徴から傾向を語ることはできるでしょうか。
「鼻が短い子は、純血か混血かに関わらず、呼吸器疾患や流涙症を比較的発症しやすいでしょうね。毛が長いと、短い子よりは毛玉症になりやすいとか、耳が垂れていれば外耳炎のリスクが上がるとか、そういうこともありえる話です。ただ、毛色はちょっと関係なさそうです」
混血猫の疾患リスクは、身体的特徴から想像できるものも一部ありますが、個別に健康診断や検査を受けて把握に努めるのが一番ということのようです。
ちなみに、こういう柄の猫はこんな性格という説も見聞きしますが……。
「その辺りの話は、血液型占いや星座占いのような感覚でチェックすると楽しいかもしれませんね。どこまで蓋然性があるかは分かりません」
◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん
獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。
取材・文/赤坂麻実