
私たちの体内で新しく作られる中性脂肪は、食品に含まれる脂質ではなくグルコースから作られる。肝臓は余ったグルコースを鎖のようにつないでグリコーゲンに変える。グリコーゲンは簡単にエネルギーに変えることができる。
ところがグリコーゲンがいっぱいになってしまうと、肝臓は余ったグルコースをほかの場所に貯蔵しなければならなくなる。すると、肝臓は余ったグルコースを中性脂肪に変える。これが体脂肪だが、新しい脂肪が作られすぎるとどうなるのか。
第1回に続いて、全米シリーズ100万部、医学界の定説を覆したと評される医学博士・ジェイソン・ファン氏の著書『糖脂肪』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。【全3回の第2回】
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新しい脂肪が作られすぎると、体のほかの部分へ送ることができなくなり、肝臓に異常な量の脂肪が蓄積することになる。脂肪がたまるにつれて肝臓は明らかに腫れていき、超音波検査で脂肪肝と診断されることになる。だが、肝臓がこの新しい脂肪を蓄積する場所に適していないなら、脂肪はいったいどう処理すればいいのだろうか。
炭水化物を5日多く摂ると「高中性脂肪血症」に?
まずは、燃やしてエネルギーとすることができるだろう。だが、食事をしたあとで体内にグルコースがたっぷりあるならば、体は脂肪を燃やす必要はない。
コストコへ行って、冷蔵庫に入りきらないほどの食品を買いこんでしまったとしよう。冷蔵庫の中の食品を食べてスペースを空けることはできるだろうが、量が多すぎて食べきれない。十分なスペースが空けられなければ、残った食品はカウンターの上に出しっぱなしにするしかなく、早晩腐ってしまうだろう。だから、これはうまくない方法だ。
グリコーゲンを貯蔵できる体内の冷蔵庫(肝臓)がいっぱいになると、新しく作られた脂肪(冷蔵庫に入りきらない食品)はどこかほかの場所にしまうしかない。

体内で起こるこのメカニズムは、脂質輸送の内因性経路として知られている。実際は、中性脂肪は特殊なたんぱく質と結合して超低密度リポタンパク質となって血中に放出され、肝臓の腫れが軽減する。
食品からグルコースやフルクトースを多量に摂れば摂るほど、体内で脂肪の新生が活発になり、超低密度リポタンパク質が放出される。
中性脂肪を多く含んだ超低密度リポタンパク質が血液中を大量に流れるので、血漿中性脂肪値が高くなる。これはコレステロール値を測る通常の血液検査で検知することができる。
結局、グルコースとフルクトースを摂りすぎると、高トリグリセライド(中性脂肪)血症になるということだ。
高炭水化物の食事をすると超低密度リポタンパク質の分泌が増え、血中の中性脂肪値も30~40%増える。炭水化物が原因の高トリグリセライド血症は、多量の炭水化物を5日間食べただけで起こるという。
リーベン博士は、高インスリン血症とフルクトースが、血中の中性脂肪値が上がる主な要因だと述べた。わかりやすく記すと、インスリン値が高いこととフルクトースを食べることで、血液中の中性脂肪値が高くなるということだ。つまりは、糖の摂りすぎだ。
コレステロールは悪玉より善玉に注意
中性脂肪と特殊なたんぱく質が結合してできたのが超低密度リポタンパク質だが、その粒子が肝臓から血中に放出されて体内を循環する際、インスリンがリポタンパクリパーゼ(LPL)を活性化する。LPLは筋肉内の細い血管、脂肪細胞、心臓などにあるのだが、血中の中性脂肪を脂肪細胞に取りこんで貯蔵させる働きがある。
超低密度リポタンパク質はこのLPLの働きによって中性脂肪を放出する。そして、残った超低密度リポタンパク質は、より小さな密度の濃いものとなって肝臓に再び吸収される。
その後、肝臓はこの残った超低密度リポタンパク質を低密度リポタンパク質(LDL)として血中に再び放出する。LDLの値は血中のコレステロール値をみるとわかるが、これは昔から“悪玉コレステロール”と呼ばれている。
血中の中性脂肪の値が高いと心血管疾患が起きる可能性が高いと予測されることから、血中の中性脂肪値もLDLと並んで、医者や患者がよく気にする数値である。
高トリグリセライド(中性脂肪)血症は心疾患が起こるリスクを61%上昇させるが[19]、アメリカ人の平均的な中性脂肪値は1976年以降、上がりつづけている。推定でアメリカ人の31%に中性脂肪値の上昇がみられるとされているが、中性脂肪値を下げても心血管疾患のリスクが減少するわけではないので、高トリグリセライド血症自体が心疾患をもたらすものではないと考えられている。
LDL値はメタボリック・シンドロームの基準のひとつにはなっていない。
コレステロールで基準となっているのは、高密度リポタンパク質(HDL、いわゆる“善玉”コレステロール)の値だ。画期的だったフラミンガム研究では、HDLの値が低いことが心疾患とおおいに関連があるとされ、LDL値をみるよりも心疾患のリスクを的確に予測できるとされた。
HDL値の低さは、中性脂肪値が高いことと関連がある。HDL値が低い患者の50%は、中性脂肪値が高い。中性脂肪値が高いとコレステロールエステル転送タンパク質という酵素が活発になるが、これにはHDL値を下げる働きがあるのだ。
中性脂肪値が高いとHDL値が下がるならば、低炭水化物の食事をすれば、減量できたかどうかにかかわらず、HDL値が上がると聞いても驚きはしないだろう。中性脂肪と同様に、HDL値が低いことが心疾患を引き起こすわけではないが、心疾患を起こすリスクが高いことを示している。
メタボリック・シンドロームに典型的な脂質プロフィール──高い中性脂肪値と低いHDL値──は、過剰な超低密度リポタンパク質に起因することは明らかだが、その根本原因は高インスリン血症であり、そもそもそれを招くのは、グルコースとフルクトースの摂りすぎだ。
ここでもまた、糖の摂りすぎが問題なのである。
腹部肥満──「食欲減退ホルモン」が出すぎて効かなくなる
中性脂肪を取りこんで蓄えると、脂肪細胞は肥大する。
脂肪細胞はもともと脂肪を蓄えるためのものだから、それ自体は健康に悪影響があるわけではない。だが、進化の過程をみるとわかるように、太りすぎると危険だ。太った動物は食べられる運命にある。

脂肪細胞は「レプチン」というホルモンを分泌して、肥大しすぎないように防御する性質がある。
レプチンは脳の視床下部に、「脂肪を減らせ」という信号を送る。すると、私たちは食べるのをやめ、それにともなってインスリン値が下がり、体重が減る。このように、肥満になると、高インスリン血症にならないように防御線がはられる。
インスリンは脂肪の蓄積を促すホルモンだが、レプチンは脂肪を減らそうとするホルモンだ。レプチンの働きが強ければ、体重は減り体脂肪率も減る。
脂肪を減らそうとするこのフィードバック効果が続けば、私たちは理想の体重を保つことができるはずだ。それなのに、なぜ私たちは太ってしまうのだろう。それは、インスリン値の高い状態が長く続くからだ。インスリン抵抗性が発現したときの典型的な状態だ。
体脂肪が多くなるとレプチンが分泌され、食べる量が抑えられる。すると、インスリン値は下がり、体重は減るはずだ。
だが、インスリン抵抗性があると、インスリン値はつねに高い状態となり、体に「脂肪を蓄えろ」という信号を送りつづけることになる。すると、レプチンのほうも、つねにたくさん分泌されるようになる。
どんなホルモンでも、それに過剰にさらされると抵抗性が生まれる。だから、つねに多量のレプチンにさらされるとレプチン抵抗性が発現してしまう。それが肥満の人に共通してみられる状態だ。
これは、さながらインスリンとレプチンの綱引きなのだが、糖を摂りすぎていると、最終的にはインスリンが勝つことになる。
肝臓が腫れて傷つく
インスリンはグルコースを血液から細胞に取りこませる。
高インスリン血症になると、肝臓にもっと多くのグルコースが詰めこまれ、その結果、肝臓で新しい脂肪が作られることになる。

高インスリン血症になると、脂肪を新生するスピードが速くなり、脂肪細胞が疲弊する。脂肪は肝臓に戻り、脂肪肝が出来上がる。一方、フルクトースはそのまま肝脂肪になる。そうしてインスリン抵抗性が発現する。
そのままの状態が続けば、脂肪がたまった肝臓は腫れて傷つく。すると、肝臓の細胞はグルコースを代謝できなくなるが、それでもまだインスリンはグルコースをなんとかして肝臓に押しこもうとする。
肝臓にできるのは、グルコースを拒むことだけだ。こうしてインスリン抵抗性が発現するわけだが、これも高インスリン血症に対する第2の防御策なのである。
肝臓は、過剰に蓄積した脂肪をなんとかしようとして、中性脂肪を運びだそうとする。すると、血中の中性脂肪値が上がり、メタボリック・シンドロームと診断される数値に達する。
すると、本来は脂肪が蓄積する場所ではない膵臓、腎臓、心臓、筋肉などの器官に異所性脂肪が蓄積される。腹部に脂肪が蓄積すると明らかにウエストサイズが大きくなってビール腹と呼ばれたりもするが、最近ではよく“小麦腹”とも呼ばれる。腹部の脂肪、あるいは内臓脂肪は、メタボリック・シンドロームの最も重要な指標だ。
外科的な方法で内臓脂肪を取り除くとインスリン抵抗性が改善するが皮下脂肪を取り除いても、代謝における効果はない。
(第3回へ続く)
◆教えてくれたのは:医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん

医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。