エンタメ

朝ドラ『おむすび』橋本環奈が演じる主人公はどんな音楽を聴いている? 舞台の2004年は平成“ギャル文化”の過渡期、『さくらんぼ』『瞳をとじて』『ロコローション』『マツケンサンバII』がヒット

朝ドラ『おむすび』は2004年、福岡県糸島を舞台に始まった(Instagram番組公式アカウントより)
写真5枚

平成の“ギャル文化”を素材にした新たなNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)の放送が始まった。物語の舞台は2004年、福岡県糸島。橋本環奈が演じる主人公・米田結は、カリスマギャルとして名を馳せた姉・歩(仲里依紗)を姉に持つ高校生だ。ライターの田中稲氏が、当時のヒット曲を振り返りながら、物語の行方を占う。

* * *
「平成」とは、もう懐かしい時代なのだなあ、としみじみ思う。ついに始まった、NHK朝ドラ『おむすび』! 「おにぎり」と間違えがちだが、大丈夫。橋本環奈さん演じるヒロインのフルネーム「米田結」=お米をむすぶ、で、「おむすび」というニックネームがついており、それがとてもかわいいので、そちらで覚えておきたい。

第1話から観ているが、出てくる小物が一つ一つツボ。キラッキラのデコレーションを施したガラケー。でっかい花の髪飾り。底上げブーツ。テンガロンハット。王貞治さんが福岡ダイエーホークスの監督をしているし、「スナックひみこ」に置いてあるのは、リモコンではなく、カラオケの選曲用の分厚い「歌本」! やだチョー懐かしい! いやもう、『ブギウギ』と『虎に翼』という戦前から戦後しばらくを舞台にした2作が素晴らしかっただけに、「平成か〜」と思っていたが、じゅうぶん楽しいものである。

1995年からのヒット曲でギャル文化をおさらい

NHKによるドラマ解説を見ると、「どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”」が大きなテーマだ。ただ、結の「だいたいギャルなんてイマドキ古いし!」というセリフにある通り、舞台となっている2004年(平成16年)という時代は、世の中のギャル旋風がおさまった過渡期。

ギャル文化が爆発したのは1995年(平成7年)だった。安室ちゃんブームが起爆剤となり、男性にこびない、いや、世の中そのものにこびないファッションや自己主張をするオンナノコ、特にJK(女子高生)たちが世の中を席巻し始めていった。

安室奈美恵さんブームが起爆剤になりギャル文化が爆発
写真5枚

その時代のガールズヒット曲と、当時をすぐ思い出せるようなキャッチーな大ヒット曲をそれぞれ1曲ずつチョイスし、簡単にギャル文化の流れと変化をおさらいしてみよう。

1995年…安室奈美恵『Body Feels EXIT』、スピッツ『ロビンソン』
1996年…華原朋美『I’m proud』、久保田利伸 with ナオミ・キャンベル『LA・LA・LA LOVE SONG』
1997年…SPEED『Go! Go! Heaven』、Kinki kids『硝子の少年』
1998年…Every Little Thing『Time goes by』、GLAY『SOUL LOVE』
1999年…浜崎あゆみ『A Song for XX』、宇多田ヒカル『First Love』
2000年…椎名林檎『罪と罰』、小柳ゆき『愛情』
2001年…ZONE『secret base 〜君がくれたもの〜』、三木道山『Lifetime Respect』
2002年…BoA『VALENTI』、柴谷裕美『おさかな天国』
2003年…中島美嘉『雪の華』、SMAP『世界の一つだけの花』

2曲ずつってチョー少なすぎてウケんだけど〜! 私の好きな曲入ってなくて激オコなんだけど〜! という声が聞こえてきそうで本当に申し訳ないが、これらの曲のタイトルを見るだけでも、時代の空気感は意外と思い出せるものである。ちなみに『おむすび』では、カリスマギャルだった姉・歩(仲里依紗)の部屋には安室ちゃんの『Body Feels EXIT』のポスターが貼ってあった。

1990年代は、言わずもがなではあるがコムロブーム。1曲ずつに絞るのが頭を抱えるほど、女の子たちの歌が大豊作である。1999年から2000年代になると、歌姫ブームが到来。歌詞も哲学的になるイメージである。

『おむすび』の舞台、2004年当時のヒット曲

そしていよいよ2004年。ガールズヒット曲は、一青窈『ハナミズキ』、柴咲コウ『かたちあるもの』、平原綾香『Jupiter』、新たなギャル像を感じさせる『さくらんぼ』などの大塚愛がいるが、全体的にグッと大人感が増している。その1年を象徴するようなヒット曲としては、オレンジレンジ『ロコローション』や平井堅『瞳をとじて』。なるほど、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』大ヒットの年なのか!

『さくらんぼ』が大ヒットした大塚愛(写真は2004年、Ph/SHOGAKUKAN)
写真5枚

ヒロイン・結はどんな曲を聴いているのだろうか。キラッキラに瞳を輝かせた橋本環奈さんがキャスティングされたので、夢多き前向きヒロインと思いきや、今のところ、なかなかの夢なし陰キャである。

「あゆの妹」と言われ続けてきたことでアイデンティティの喪失感がすごい。家族の顔色を必要以上にうかがい、部活に入ることすら、勝手に諦めかけてしまう。かなりガッチリ「自分を抑える呪縛」にかかっている彼女は、どんな音楽が好きなのだろう。想像してみよう。

浜崎あゆみさんの歌詞とかハマりそうだが、結ちゃん、ギャルは嫌いだしなあ……。森山直太朗さんという線も捨てがたいが、私の推理はヒネリにヒネって、2003年『地上の星』の大ヒットで再ブームが起きていた、中島みゆきにハマっているのではないかと思う!

ハギャレンたちはどんな歌を聴いているのだろうか。当時ピークだったMDでマイベストとか作っていそうだなあ。

偶然?『マツケンサンバII』のヒットも2004年

さて、今回のドラマで、ギャルたちに負けずとも劣らずイキイキと輝いているのが祖父、永吉じいちゃん役の松平健さんだ。ドラマ「暴れん坊将軍」やヒット曲『マツケンサンバII』のイメージが強いので、現代劇は新鮮! ノーちょんまげな彼もバリバリカッコいいではないか。

そして実は『マツケンサンバII』が大ヒットしたのも2004年なのである。偶然なのか、狙いなのか定かではないが、非常に興味深い。

『マツケンサンバII』が大ヒットしたのも2004年だった
写真5枚

『マツケンサンバII』のミニアルバムリリース日が2004年7月7日。現在ドラマは4月の設定なので、ストーリーが進行し、夏になったころ、もしかしたら米田家で、永吉じいちゃんがテレビで『マツケンサンバII』を見てはしゃいだり、「スナックひみこ」で歌ったりするといった、「マツケンがマツケンブームにはしゃぐシーンを演じる」という究極のリアル&ドラマのシンクロが出てくるかもしれない。期待大だ!

マツケンシーンを心待ちにしつつ、歩の登場もいつになるかチョー気になるし、書道部のミステリアスイケメン・風見先輩(松本怜生)がどんな人なのかも興味津々。なぜか結と恋に発展する予感が全くしないが、青春の1ページを見届けたい!

なにせ、モデルのいないオリジナル作品。これからどう物語が進むのかは全くわからない。その「見えなさ」も含め、半年間の平成タイムトラベルの旅に出よう。

心に“ちょい懐”な、あの頃の歌を流しながら——。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
写真5枚

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。近著『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

●竹内まりや、一風堂、RADWIMPSほか…洋楽からJ-POPまで名曲揃いの「セプテンバー」ソング 夏から秋に変わる9月だけの「特別なやさしさ」

●恋人との別れで「消えゆく愛」を歌ったオフコース『秋の気配』に涙 恋も四季も「変わりめ」のときに切なさと輝きが生まれる

関連キーワード