健康・医療

《進化する睡眠の常識》「眠れなくてもベッドで体を休ませる」「二度寝は足りない睡眠時間を補うもの」は間違いだった?医師が解説

睡眠中の女性
進化する睡眠の常識とは?(写真/PIXTA)
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長かった夏にもようやく終わりが見え、朝晩がめっきり涼しくなってきた。心地よい気候の中、読書や趣味の時間など秋の夜長を楽しむチャンスだが加齢とともに「夜になるのが憂鬱だ」という人も少なくない。それはひとえに、睡眠による悩みを抱えているから。人生100年時代を健康に生きぬく要ともいえる「睡眠」の最新事情を徹底研究。睡眠の常識は日進月歩で進化している。「やってはいけない!間違いだらけの睡眠の知識」を紹介する。

【1】「睡眠はたっぷりとった方がいい」→「寝すぎることで病気のリスクに」

「早寝早起きは健康の源」などと、睡眠の時間にとらわれている人は多い。しかしそれこそが早死にを招いているかもしれない。国立研究開発法人国立精神・神経医療センターの吉池卓也さんが言う。

「睡眠で得られる『睡眠休養感』は時間だけでなく質にもよります。そもそも加齢とともに睡眠時間が減るのは自然現象で、平均値をとっても45才では6時間半、65才を過ぎたら6時間以下です」

「やってはいけない!間違いだらけの睡眠の知識」とは?(イラスト/大窪史乃)
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東京都立足立病院院長の内山真さんもこう解説する。

「OECDなどの調査で日本人の平均睡眠時間は7時間22分と加盟国の中でもっとも短いと分析されていますが、6~8時間が最適な睡眠時間と考えられ6時間でも支障はありません」

逆に寝すぎが病気のリスクを高めることも。RESM新東京睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長の下浦雄大さんが指摘する。

「睡眠時間が長すぎることで血管に負担がかかり、6時間以下の睡眠より死亡率が高くなるという研究があります」

吉池さんが続ける。

「長く寝たからといって健康になれるわけではないのがシニアの特徴ともいえます。長すぎる眠りはかえって睡眠休養感を低下させ、高血圧や糖尿病、メタボなどになりやすくすることが厚生労働省の研究で明らかになっており、心筋梗塞や脳卒中といった心血管系の病気にもなりやすくなるというデータもあります」

睡眠時間は短くても長くても死亡リスクに!

死亡リスクの表
アメリカで 110万人超の男女を対象に約6年間、追跡調査を行った研究の女性のデータ。死亡リスクは睡眠時間7時間を1としたときの相対リスク。出典/Kripke DF, et al. Arch Gen Psychiatry. 2002;59:131-6.
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【2】「眠れなくてもベッドで体を休ませる」→「睡眠効率が下がり眠りの質を下げる」

そもそも「睡眠の質」とは何か。

「良質な睡眠の指標として、睡眠時間とベッドにいる時間の睡眠割合(睡眠効率)が高いことがあります。ベッドにいる時間が長いのに、あまり眠れていないのは睡眠効率も質もよくない。眠気がきたらベッドに入ってすぐに寝つけるといい」(下浦さん)

内山さんも言う。

「22~2時が睡眠のゴールデンタイムなどといわれていますが、それは間違い。自分の睡眠リズムが合わない時間に無理に寝る必要はありません」

【3】「二度寝は足りない  睡眠時間を補うもの」→「二度寝は百害あって一利なし」

「早めに目が覚めてしまい、睡眠時間が足りない気もするしまだ眠いからもう一回寝よう……」──この習慣があなたの体を蝕んでいるかもしれない。一般社団法人日本ショートスリーパー育成協会理事長の堀大輔さんは二度寝には大きな弊害があると言う。

「目覚ましや物音に反応して起きてしまい、また眠るという判断には頭を使います。これを繰り返すことで思考能力の低下が発生し、認知機能が極端に下がる。また、目覚めと同時に血糖値が上がるのですが、そこでもう一度寝てしまうと血糖値を上げるための栄養が摂れず筋肉から栄養が取られ太りやすくなる。

さらに、起床後にはストレスを抑えるステロイドホルモンが分泌されますが、二度寝してしまうと体が“出しても使われない”と判断して出さなくなり、ストレス耐性が弱くなってしまうのです。そればかりかステロイドホルモンには抗アレルギー作用があるので、これが出なくなると感染症に罹りやすくなる。二度寝の常習化はメンタル面も低下ささせますから、一度起きたらそのまま起きることがいちばんです」

【4】「睡眠の目的は体を休めること」→「寝ている間に脳を冷やし休ませる」

ぐっすり眠れることにより得られるのは「体の疲れがとれる」ことだけではない。

「よい睡眠のために重要なのが脳を冷却すること。活動している間は交感神経が高まり体も脳も熱をもちます。眠りの質を高めることで、自律神経が整い血圧を下げるなどの健康効果が期待されます」(吉池さん)

睡眠は脳の“掃除”もしてくれる。

「睡眠中に脳は老廃物を排出し、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβも洗い流すといわれている。すなわち睡眠の質が低下すると認知症のリスクが高まることが指摘されているのです」(下浦さん)

睡眠中の脳の主な働き

睡眠中の脳の主な働き
睡眠中の脳の主な働き
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【5】「寝だめは意味がなく不健康になる」→「睡眠不足の“取り戻し”に効果あり」

休みの日にまとめて眠る「寝だめ」は、体内時計を狂わせかえって健康を損なうなどのデメリットが指摘されてきた。

「働く世代は知らず知らずのうちに寝不足になっているので、休みの日に1時間ほど寝だめすることが効果的だというデータがあります。ただし2時間以上の寝だめは厳禁です」(吉池さん)

【6】「無呼吸症候群は太った男性に多い」→「50代以上の女性にリスク増」

「睡眠時無呼吸症候群の危険因子としては50才以上、男性、閉経後、肥満などが挙げられます。50才までは圧倒的に男性が多いのですが、50才以降は女性が追い上げてくる。これは閉経によるホルモンバランスの乱れや肥満傾向が見られるからと考えられます」(下浦さん)

吉池さんも続ける。

「やせ型の女性でも高齢になると静かに息が止まっているということがある。寝ているのに疲労感が残るなどの場合にはチェックを受けて」

【7】「自分に合った枕を選ぶ」→「高すぎる枕が死を招く」

睡眠時無呼吸症候群は命にかかわる病気のリスクを高め、早死にをもたらす。

枕のベストな高さは?(イラスト/PIXTA)
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「枕は睡眠時無呼吸症候群に大きな影響を与えるといわれています。どなたでも気道や神経に負荷をかけないよう枕の高さ選びは重要です。低すぎる枕だと首がのけぞり頚髄に負荷をかける。逆に高さが12cm以上あると“殿様枕症候群”と呼ばれるリスクが高まり、脳卒中の原因のひとつである突発性椎骨動脈解離の発症割合が高くなるというデータもあります」(下浦さん)

※女性セブン2024年10月24・31日号

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