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同じ墓に入る「墓友」たちの活発な交流 “もう一つの我が家”を拠点に手芸や書道、俳句やウオーキングなどのサークル活動 育まれる“ゆるやかな共同性” 

SSSネットワークはバラの霊園「府中ふれあいパーク」(東京)の中に「女性のための共同墓」を建立(写真提供/エンディングセンター)
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認定NPO法人「エンディングセンター」は2005年、東京都町田市にある霊園「町田いずみ浄苑」に「桜葬墓地」を開設した。桜葬は樹木葬の一種で、桜の木を墓標にして、周囲の個別区画に遺骨を直接土に埋める葬法である。エンディングセンター理事長で社会学博士の井上治代さんが語る。

「桜葬墓地を契約した人たちは『墓友(はかとも)』になり、死を迎える前から交友関係を結んで仲間意識を育みます。一人ひとりまったく別の人生を歩んできた人たちが墓を介して出会い、関係性を持つのです」

まったく別の人生を歩んできた者同士が「墓」を通じて出会い、「友」になる。家族という「血縁」に縛られない「墓友」たちの活動を取材した。【全4回の第3回。第1回から読む

ランチ会、手芸、書道教室などさまざまなサークル活動

墓友たちは実際、墓に入る前にどんな交流をしているのか──桜葬の初期メンバーである山根千代さん(79才)さんがこう振り返る。

「お墓の持ち主になっただけではつながりはできません。メンバーが集まったときに、各々が自分の人生を語り、それぞれの話に耳を傾けることから始まりました。20年ほど前から参加していますが、先輩たちから知らない話を聞ける学びの場です。この『語りあいの会』は現在も続いており、私の人生に彩りを与えてくれています」

2014年、井上さんは桜葬墓地の近くに契約者が集う戸建て「もう一つの我が家」を東京都町田市の閑静な住宅地にオープンさせた。

「核家族化と高齢化が進むと、誰もが最後にはひとりになります。でも『我が家』には誰かがいて、ご飯を一緒に食べたりしながら話をして、“じゃあまたね”と帰路につく。そういう“ゆるやかな共同性”をめざして『我が家』をつくりました」(井上さん)

墓友らは「我が家」を主な拠点としてランチ会をしたり、手芸や書道教室、俳句やウオーキングの会などさまざまなサークル活動を楽しむ。

エンディングセンターでは定期的にウォーキングイベントなどの行事を行なっている(写真提供/エンディングセンター)
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実際に桜葬を選んだ榎本三枝子さん(72才)が好んで参加するのは「読書カフェ」。月に1度、朝10時半からお昼を挟んで14時半まで1冊の本を題材に語り合う。

「この前までは沢木耕太郎さんのエッセイ『旅のつばくろ』が題材でした。参加者は何を話してもよく、人生のバックグラウンドが違う人たちの話は楽しい。4時間はあっという間で、話し足りないから帰り際に“喫茶店に寄っていこうか”と誰ともなく言い、みんなで喫茶店に入って話すこともあります」(榎本さん)

コロナ禍で、直接の交流が難しくなった際は高齢会員がこぞってインターネット上の会議ツールであるZoomを覚えた。

「コロナが落ち着いた後も遠方や海外在住のかたも参加するZoom会を開いています。座骨神経痛になって立ち直れないと話す参加者に“それは寝ちゃダメよ。歩かないと”と経験者がZoom越しにアドバイスして、実際に回復したこともあります」(山根さん)

年に1度開かれる追悼式

高齢化が進むなかでは、強い絆で結ばれた墓友との別れのときも訪れる。

「あのかた、亡くなったのね」

「あなたは最近、どうなの」

霊園内のサロンで行われる、女性たちの和やかな会話も墓友の集いならではかもしれない。

SSSネットワークが開いた合同追悼会(写真提供/エンディングセンター)
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10月の秋晴れの日、東京都府中市の霊園「府中ふれあいパーク」の一角。60~70代の女性35人が集い、年に1度の「追悼会」が開かれた。

「今年は9名の会員が亡くなりました。これまでで最も多かったですね」

そう語るのは、追悼会を開催したNPO法人「SSS(スリーエス)ネットワーク」代表の松原惇子さん。2000年に「女性のための共同墓」を建立し、現在の契約者数は500名ほどだ。

「未婚や離婚、死別を問わずシングルの女性が老後を安心して生きるため、1998年にスリーエスを立ち上げました。当時の会員は50代中心でしたが、いまは70代がほとんどで出歩くのが大変になり、ここ10年で亡くなるかたがぐっと増えた印象です。それでも、お墓でつながる人たちは生きているうちに集ってこそとの信念のもと、年に1度の追悼式を欠かさず開催しています」(松原さん・以下同)

バラの霊園として知られるふれあいパークの一角に共同墓があり、納骨堂を兼ねたクリスタルの丸いテーブルをベンチが囲み、クリスタルボードに会員一人ひとりの名前が刻まれる。追悼会ではメンバーが思い思いにお参りし、故人の思い出などを語り合う。

「追悼会以外にイベントはしませんが、つながっていることが大事で、500名の名前が刻まれたボードを見ると“こんなに仲間がいる”という安心感を得られます。年に1度の追悼会をきっかけに日頃から交流したり、一緒に住み始めた人もいます」

(第4回に続く。第1回から読む

※女性セブン2024年11月21日号

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