認定NPO法人「エンディングセンター」が、東京都町田市にある霊園「町田いずみ浄苑」に解説した「桜葬墓地」。桜葬は樹木葬の一種で、桜の木を墓標にして、周囲の個別区画に遺骨を直接土に埋める葬法である。エンディングセンター理事長で社会学博士の井上治代さんは、「桜葬墓地を契約した人たちは『墓友(はかとも)』になり、死を迎える前から交友関係を結んで仲間意識を育みます。一人ひとりまったく別の人生を歩んできた人たちが墓を介して出会い、関係性を持つのです」と説明する。
家族という「血縁」に縛られず、出会いという「結縁」でつながる「墓友」たちは、ある共通の思いを持っているという。【全4回の第4回。第1回から読む】
生きるうえでの悩みだけでなく、迫る死への不安に救いも
墓友に大きく共通するのは「安心感」だ。
エンディングセンターの会員に仲がいい夫婦がいた。子はなく、夫が定年退職したのちは夫婦で畑仕事をしていたが、あるとき夫が急死し、食事が喉を通らなくなった妻は心療内科に通院するようになった。心身ともに衰弱した妻が思い切って足を向けたのが、「もう一つの我が家」だった。
「そこには夫に先立たれてつらい経験をされた会員がいて、見守ったり、話を聞くうちに女性のうつ症状が改善しました。その女性のように、同じ悩みやつらさを理解しあえる墓友に窮地を救われた人はたくさんいます」(井上さん)
生きるうえでの悩みだけでなく、迫る死への不安にも墓友は救いを与える。シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさんが語る。
「代々の墓や夫と一緒の墓に入りたくないという人がいる半面、自分のお墓をどうしようかと悩んでいる人はたくさんいます。そのなかで“私は死んだらここに眠るんだ”という確証ができると死の不安が和らぎます。しかも墓友がいれば、“自分が死んでもこの人たちがしのんでくれる”という確信が持てる。自分のことを忘れない人がいて、お墓参りしてくれると信じられることは大きな安心感につながります」
実際に井上さんが会員に「墓友の効果」を尋ねたところ、「死後の不安や寂しさが薄れた」「いま生きることが楽しくなった」という回答が多かった。
墓友とはお互いを尊重しつつもゆるやかなつながり
墓友は感情的・相互依存の関係ではなく、お互いを尊重しつつもゆるやかなつながりだと実際に桜葬を選んだ榎本三枝子さん(72才)は言う。
「墓友の共通点は“自分のお墓を自分で選んだ”という点です。利害関係がなく、ベタベタと依存しあう間柄でもないけど、根っこの部分の価値観が共通するから、お互い、心が自由でいられるし、自然体で自分の意見を口にできます。介護や死生観など話しづらい話題についても屈託なく話すことができます」
井上さんはこう話す。
「同じ墓を買ったから墓友になるのではないですし、墓友は茶飲み友達でもありません。みんなが自分の考えを持つ成熟した大人だからこそ、お互いを受け入れて尊重できます。 人間、最後は誰もがひとりだからこそ、不安もあるし心配もあるもの。そんなときに墓友という結縁があればお互いに助け合うことができて、“死後も共にいられる”と心の持ちようが大きく変わるんです」
不安ばかりが増す時代、墓友は安心して生き切り、安らかな死を迎えるための最後のよりどころになるのかもしれない。
(了。第1回から読む)
※女性セブン2024年11月21日号