僕らみたいな無名でお笑い好きしか知らない芸人は、ストレートで決勝に行く以外、退路を断たれる
──これまでのM-1戦歴のなかで一番辛かった時期はありますか?
大:敗者復活は嫌でした。国民投票のときは絶対に上がれないと思っていたんで。
拓:会場票だったらまだわからないですけど、国民投票なんで絶対に上がれないね。
大:僕らみたいな無名でお笑い好きしか知らない芸人は、ストレートで決勝に行く以外、退路を断たれるんですよ。
拓:「あ~今年も決勝行けなかったって」思うんです。「敗者復活があるから頑張って!」って言われても、いや、頑張りようがねぇだろって。
大:それと、2019年あたりかな?実力が出せなかったときですね。いいパフォーマンスができなくて。準決勝に上がるのって、すっごく大変でしんどいんですよ!
拓:半端じゃないですよ。だって、準決勝行けただけで泣くやつなんて山ほどいますからね。今年の準決勝のときなんかは、俺らの出番があと1時間後くらいのときかな。男子便所から「ヴォエェェェェ」って声が聞こえて、とんでもねぇ緊張している奴いるなって。でも本当に気持ちは分かる。あれ、誰だったんだろうな。
大:そんな準決勝、やっと掴んだ準決勝で、「うわ、ミスっちゃったよ」って終わったときはすげぇ悲しいですね。噛んじゃうとか、間がズレるとか、テンポが速すぎちゃうとか。「なんでこの緊張に勝てねぇんだよ!」ってものすごく自分が情けなくなりますよ。全員同じ条件で緊張はしているのに俺だけ緊張に負けたみたいな。
拓:周りから完ぺきだったね!って言われても自分たちの中では全然完ぺきじゃないときなんて沢山あるんです。目に見える大きなミスももちろん嫌ですけど、あそこの一つの間がズレていなかったらもっとウケていたかもとか思うんで、完璧なことなんてないんです。ネタがスベるのは全然辛くないんですよ。俺たちがおもしろくなかったと思えるから。
低い点数を付けようがない漫才をしている
──決勝当日まで残り数日ですが、実感は?
拓:全く湧きませんね。敗者復活と同じような心境です。
大:そうです。
拓:決勝のスタジオを目の前で見たり、リハでせり上がりをしたときに初めて実感が湧くんだろうなって。もしかしたら、敗者復活の映像を見ているときが一番ドキドキしているかもしれないです。ずっと敗者復活戦側にいたから。気持ちがフラッシュバックして緊張感を味わうかもしれないですね。
大:今の僕の感じだったらあんまり緊張しなさそうだなって思います。
拓:自分たちでも思うときあるし、そんなこともねぇだろって思うこともあるんですけど、たぶんM-1で漫才を現役でやっている人の中では、俺らがトップクラスに漫才上手いんですよ。今回もウケ量とか全部含めて“面白さ”だけだったら、たぶん決勝に行けていない可能性もあります。でも僕ら、ボケじゃない、「技術」とか、「間」とか、そういうところの勝負なんですよ。トム・ブラウンに“面白さ”で勝てるわけないじゃないですか!ビジュアルもパフォーマンスも派手で、こっちは双子が喋っているだけ。それでもM-1で唯一勝てるのが、「技術」とか「構成」とかを見てくれる審査員の方がいて、さらに点数が付くからなんですよ。
大:“面白さ”じゃ勝てないけど、“漫才”だったら勝てるなって思いますね。令和ロマンと僕らのどっちに技術があって上手いかって言ったら、僕らのが上手いです。ただ、あいつらはお客さんを笑かすとか、惹きつけるっていうのが、あの芸歴で異常だと思うんですけどめちゃくちゃうまいんですよ。俺らは自分たちのパフォーマンスがしっかりできれば、いい成績は残せるんじゃないかなって思いますね。
拓:その日一番大きな笑いをとれって言われたら勝てないですよ。漫才自体がそういう作りしていないんで。僕らは外さずに、心地よく、楽しかった~面白かった~って思ってもらう漫才。もちろん出番順次第ではありますけど、低い点数を付けようがない漫才をしているんで、審査員の方とか会場のお客さんが僕らの良さに気づいてくれたら、上位3組には入れるんじゃないかなって。
大:2本目ね~。勢いのあるネタやってもいいかなとか、でもやっぱ優勝狙いにいくネタやってもいいかなっていう狭間ですね、いま。
3杯目につづく
【プロフィール】
ダイタク/1984年12月28日生まれ。熊本県出身。2009年に結成した双子コンビで、東京吉本に欠かせない兄貴的存在。12月22日18時30分から生放送の『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)に、初の決勝進出を決めた。
取材・文/まつもと