腸内細菌が「多様化」するほどに健康で寿命が延びる
腸内細菌が胎児に与える影響を考えれば、妊婦が腸内環境を整える重要性は明らか。他方、腸内細菌は自身の健康にも大きく影響するため妊婦だけでなく、老若男女が「腸活」に励むことが求められる。
「従来の善玉菌、悪玉菌という分類は、分析の解像度があがった現在では必ずしも正しくなく、代わりに健康の指標として重要になるのが多様性です。最新の研究では、健康な人は腸内フローラの多様性が高く頑健性があるため、さまざまな環境変化に適応できます。 腸内フローラの多様性を高めるには、できるだけ多くの種類の食物繊維やオリゴ糖を食べることを心がけてほしい。妊婦はもちろん一般の人も、なるべく多くの腸内細菌を育てて有用成分である短鎖脂肪酸を産生させ、共存共栄することが、健康寿命を延ばすカギになります」(福田さん・以下同)
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さまざまな比較研究が進み、遺伝率が明確に求められるメンデル遺伝と異なり、腸遺伝はあくまで「母親の腸内細菌の影響を受ける」というレベルにとどまる。また、幼少期以降の食生活や環境の変化などにより腸内環境はいかようにも変化する。しかしそれでも、腸内細菌が有するポテンシャルは計り知れない。
将来的には、優良な腸内フローラを移植して老化を防いだり、病気を治療することも考えられるという。
「動物実験で年老いたマウスに若いマウスの腸内フローラを移植すると、認知機能や目の炎症などが改善されることが報告されています。
また、潰瘍性大腸炎の患者の治療や、がんの免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めるため、健康な人の腸内フローラを移植することの有用性が臨床試験で報告されています。このため近い将来、難病の患者に健康な人の腸内フローラを移植する『腸内細菌叢移植』が普及すれば、多くの患者が救われることが期待できます」
腸内環境をデザインすることで病気ゼロの実現をめざす福田さんは、「短鎖脂肪酸」にも大きな期待を寄せる。
「最新の研究では、前述した持久力アップや、免疫機能の増強、太りにくい体づくりなど多くの効果が期待できるミラクル成分です。人間が食事をしたのち、消化吸収できない成分を腸内細菌が食べて、その後に不要だからと吐き出す成分が短鎖脂肪酸ですが、それを今度は人間が吸収して、自身の健康に役立てるところがとても面白い。つまり、人間と腸内細菌は異なる生物として別々に生きているのではなく、共生関係を築き、互いに利益をもたらしながら共存共栄しているんです」
細川さんも言う。
「この先、長期にわたって追跡研究するなかで、腸遺伝についての新たな知見がもたらされるはずです。
また今後は、腸内細菌の構成比率や一つひとつの菌をさらに深く調べることでどの菌がよい働きをするかを的確に把握し、腸内環境を改善しやすくなるかもしれません。将来的には、一人ひとりの腸内フローラに応じた効果的な健康指導ができるようになり、人々の健康長寿に寄与することを期待しています」
その数の多さや個体差から、全容が明らかになっていない腸内細菌。私たちの腸に広がるお花畑には、まだまだすごい秘密が隠されているかもしれない。
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※女性セブン2025年2月6日号