健康・医療

《医師が解説》風邪をひいたら「熱をしっかり出して体のメンテナンスを」 名著『風邪の効用』に学ぶ、風邪を引いたときの対処法

マスクをしてソファに横になり、体温計を見ている女性
名著に、このウイルス感染症時代を強く乗り切るヒントがあるかもしれない(写真/PIXTA)
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風邪にかかると薬をのんですぐに治そうとする人は多い。しかし、「熱が上がった」「咳が出る」「のどが痛い」―そんな症状が本当は“自分の体を強くしていた”としたらどうだろうか。60年以上前に書かれた名著が、このウイルス感染症時代を強く乗り切るヒントになる。

名著『風邪の効用』から「逆説の健康術」を学ぼう

この冬、インフルエンザの感染者数が過去最多となった。ほかにも新型コロナウイルス、マイコプラズマ、RSウイルスなどの感染症が全国各地で大流行。その結果、インフルエンザ治療薬「タミフル」などの医薬品不足が深刻化し、医師に処方された薬を患者が薬局で受け取ることができない事態も起きている。

ウイルス感染症が猛威を振るう時代だが、それを乗り切るための“珠玉のヒント”が書かれた本がある。坂本龍一さん(享年71)も影響を受けたという健康指南書『風邪の効用』だ。坂本さんと同様に本書に多大な影響を受けた、ならヨーガリトリート代表でヨーガ講師の高橋流美さんは「発熱するとワクワクします」と話す。いったいどういうことなのだろうか──。

風邪自体が治療行為である

1962年に刊行された『風邪の効用』の著者は整体師の野口晴哉さん(享年64)だ。野口さんは患者を治療しているうちに体重の分配(体の重心の偏り)が大きい人ほど風邪にかかりやすく、風邪をひいた後は体重の分配が小さくなる(偏りが減る)ことに気がついた。そこから独自の観点で研究し、風邪に健康効果があると突き止めたという。その内容がまとめられたのが本書で、刊行してからこれまでに16万部を突破した。健康効果があると書かれた「風邪」は、現代の医学ではどのようなものとされているのか。血液内科医の中村幸嗣さんが解説する。

「人体の粘膜などから風邪ウイルスが体内に侵入すると、異物に即座に反応する『自然免疫』がそれらを排除しようと働きます。そして、その初動で排除しきれずウイルスが侵入してしまうと体内で増殖を始めるのですが、免疫側はウイルスを排除するために、次は抗体などの特異的な『獲得免疫』を駆使して戦おうとします。その後者の免疫反応が始まると、いわゆる熱や咳といった風邪の症状が現れるのです」(中村さん)

つまり、人体に侵入したウイルスを排除する際の免疫反応が風邪ということ。しかし、本書では《風邪自体が治療行為ではなかろうかと考えている》と述べられている(以下、《》内は同書より引用)。現代医学と矛盾するような内容だが、著者の野口さんはなぜその結論に至ったのか。高橋さんはこう解釈している。

「私たちの身の回りにはさまざまな菌が存在していますが、毎日風邪はひきませんよね。風邪をひくというのは部分的な過度な疲労がたまったときに、肉体が治癒を目的に熱を上げ、詰まりを溶かして体を整えているのです。ちなみにインフルエンザであろうとノロウイルスであろうと、整体ではすべて風邪という考え方です」(高橋さん・以下同)

風邪は体の掃除が必要というサイン

風邪をひくのは、肉体に掃除が必要なサインだと続ける。

「体には全身を巡る血管から末梢に広がる毛細血管まで大小無数の血管が通っています。疲労がたまった部分は筋肉が硬直して血管を圧迫し、循環不全によって老廃物がたまり、その結果、血液がいきわたらないので酸素や栄養が不足します。

その詰まりを押し流すために重要になるのが、風邪をひいて熱を出すこと。熱が上がれば疲労部位がゆるんで血管や筋肉が柔軟になって弾力を取り戻し、老廃物が流れて循環が回復するというメカニズムで、風邪をひく前より健康になり、免疫力も高まります。風邪にともなうのどの痛みや頭痛は、循環が滞った部位が回復しようとするシグナルです」

そのことを本書では《蛇が皮をぬいだようにサッパリ》と表現している。

「風邪のつらい状態から元の健康な状態に戻るのですから、すがすがしく感じるとは思います。また、『風邪をひいても“脱皮”するのだから大丈夫』だと思うことによって普段の気の持ちようから自然免疫の働きが高まり、初動の力が強くなるのですから心構えとして悪くありません」(中村さん)

風邪をひいてしっかり治すことは、がんや脳卒中などの重篤な病のリスクも下げるという。

「脳卒中やがん、高血圧、糖尿病などの病気は、食事や働き方をはじめ生活習慣と密接に関係しています。風邪は日常生活でため込んだ疲労や老廃物を洗い流す体の働きです。風邪をひいたときはチャンスと思い、熱をしっかり出して体のメンテナンスをしましょう。そうすれば体が強くなり健康に長生きできます」(高橋さん)

実際、風邪が重病を治癒する例がある。

「がん患者が肺炎や敗血症などの重篤な感染症の後、がんなどの悪性新生物が改善したという例が少数あります。ただ、風邪のこじらせである重篤な感染症はそれ自体が命にかかわる重病で、がんを改善させることは宝くじ並みの運なので故意にかかることはおすすめしません」(中村さん)

お風呂に入り熱を上げる

では、風邪をひいたときはどうすればいいのか。

白いシャツを着たショートカットの女性がコップの水を飲んでいる
風邪をひいたら、とにかく水を飲むことが重要(写真/PIXTA)
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「大事なのは“うまく経過させる”こと。体のデトックスを妨げずに、自然治癒力に任せるのです。風邪にともなう汗や痰、嘔吐や下痢は体に不要な老廃物なので、水分を補給しつつしっかり出し切ってください。安易に解熱剤や下痢止め薬などを使うと不要なものが体内に滞留して、原因が取り除けないので治癒活動の妨げになります」(高橋さん)

実際、風邪に抗生物質は意味がないといわれている。

「服用しても症状改善を1日短くする程度の効果とされており、残念ながらそのほかの風邪に対しても薬は万能ではありません。ただし、水も飲めないほど症状がつらいときは対症療法としての薬に頼ってもいいのでは」(中村さん)

症状がつらいとき、薬以外の手はあるのか。

「食事を減らし、葛やしょうが、大根、りんごなど消化によい食材で体を温めてください」(高橋さん・以下同)

症状がひどくない場合、この季節は病院に行くより、体を冷やさないように家で休んだ方がよい。

湯船に入り、顔を天井に向け、目をつむっている女性
風邪を引いたら、湯船に入って体の熱を上げたい(写真/PIXTA)
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「風邪のときは代謝が落ちているのでとにかく体を温めます。できれば汗をかくまで湯船に入って熱を上げてください。熱というのはピークに達すればそこから下がっていくので、経過が順調になります。ただし、湯冷めには充分注意しましょう」

「気持ち」も重要だ。

「“病は気から”という通り、風邪を克服した体はイキもよくきれいになると知れば、風邪を前向きに受け止められるでしょう。そうすると風邪のつらさも和らぎ、発熱を楽しむ余裕も出てきます」

医学的にも前向きなことは悪くないという。

「風邪を恐れて家に閉じこもる生活より、外に出て適度に体を動かせばそれだけ自然免疫が活性化して風邪をひきにくく、それこそ風邪も治りやすい体になっていくでしょう。
また、普段から笑って過ごすことを増やすなども自然免疫の点からおすすめです」(中村さん)

風邪をむやみに恐れないこと、そしてすぐに薬に頼ろうとしないことが免疫力を高め、元気に楽しく過ごすコツかもしれない。

※女性セブン2025年2月13日号

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