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【内藤剛志インタビュー】一徹な印象の根底にある“精神の骨格のようなもの”「仕事以外、趣味もない。役者で集まって居酒屋でグチをこぼすこともない」

デビュー以来、仕事が途絶えたことがない人気俳優の内藤剛志
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デビュー以来、45年余り。仕事が途絶えたことがないという、内藤剛志さん(69才)。「連ドラの鉄人」という異名を持ち、主演・助演にかかわらず、ドラマに欠かせない人気俳優として活躍する。そんな内藤さんがもっとも影響を受けた俳優とは誰なのか、そして、どんな思いを抱えて演技をしているのか──内藤さんに話を聞いた。【全4回の第3回。第1回から読む

もっとも影響を受けた俳優は藤田まことさん

内藤の名前を全国に知らしめたのは、ドラマ『家なき子』(1994年・日本テレビ系)であった。酒びたり、ギャンブルに興じ、娘(安達祐実)を虐め、暴力をふるう荒廃した父親を演じ、シリーズ第一作では、最高視聴率37.2%を記録。ひとつの社会現象にもなった。凄まじいリアルな演技。演ずる引き出しは実に幅広い。

「引き出しという意味でしたら、俳優人生の中で、僕がもっとも影響を受けたのが、ドラマ『道頓堀川』(1982年、NHK)でご一緒した、藤田まことさんなんです。デビュー2年目ぐらい。まだ自主映画や小さい公演とかやっていた頃、言ってみれば狭い世界にいたのが、すごい芝居をする人に出会ってしまった。これこそプロフェッショナルなんだと、衝撃でした」(内藤、以下「」内同)

ドラマ『家なき子』で内藤剛志の名前を全国に知らしめた
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大阪ミナミの道頓堀界隈を生きる人々を描き出した人情劇で、内藤は、物静かな喫茶店店主(藤田)に反発する、息子を演じていた。

「とにかく、多種多様な表現方法を持っていらした。飄々と見えて、人間の深いところを揺さぶってきたり、芝居の絶妙な間とか。そして演技だけではなく、仕事の進め方もです。たとえば現場で何かが起こったとき、余計な話し合いをしているよりも、前に進む、次にいくという姿勢。座長とは、このようにチームをまとめるのかを、まざまざと知ったといいますか。早い時期に、あの本物を見たことは大きかった。すべてが学び、自分の蓄えになったと思っています」

プロとしてきちんとしたギャランティをもらうこと、常に前に進んでいくこと。そうやって生きていくのがプロだと知った。

「俳優という仕事というものを自覚させてもらった、大きな転機だったと思います」

「鈍感なのか、苦労を苦労とも思わないんですよ」

27歳の頃の内藤の芝居には、尖って反骨心を感じさせるような雰囲気があったが、今も抱えているものですか、と尋ねてみる。

「ああ、それはあります。ただ反権力とかそういうことではなくて、何だろうな、日常生活の中で腹の立つことがいろいろとありますよね。たとえば煙草のポイ捨てとか、障害者用の駐車スペースに平気で止める人間とか。人を下に見るくだらない差別意識とか……解せないことが多い。でもこれは正義感というより、ごく普通の感性じゃないですか。

僕の場合は、育った家庭環境の影響もあるかもしれません。祖父が明治生まれの農家の人間だったし、父親はそういう親に育てられた厳しい人だったし、戦争にも行っている。令和元年に亡くなりましたけどね。そういった面は、僕も引き継いでいるのかもしれない」

苦労を苦労とも思わないと語る内藤剛志
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内藤から受けるどこか一徹な印象は、刑事ものが多いからというだけでなく、もともとの精神の骨格のようなものかもしれない。

「僕は仕事以外、趣味もないですし、何もしていなくて。つまらんでしょう(笑い)。たとえば役者で集まって、居酒屋でグチをこぼすとかも、若い頃からまったくしません。

そういう場で、自分が認められないとか、うまくいっている人の悪口を言ったりしている人たちがいる。嫉妬したりとか。でもそういう人間で伸びた人たちを知りませんね。人気が出て天狗になった人たちも見てきましたけど、生き残ってはいないです。だから学習したというのか、自分はそうしまいと思ってやってきました」

「鈍感なのか、苦労を苦労とも思わないんですよ」とも言う。そして、にわかにイチローの話をした。

「彼は勝った、負けたとか、騒がないでしょう。ヒット打っても笑顔を見せない。熱いものは秘めているかもしれないけど、ただ淡々と、打ち続けるという。(生き方が)似ているかもしれません」

(第4回につづく)

【プロフィール】
内藤剛志(ないとう・たかし)/1955年大阪府出身。1980年、映画『ヒポクラテスたち』で映像デビュー。以降、映画、ドラマ、バラエティーと活躍。代表的ドラマに『警視庁強行犯 樋口顕』『警視庁・捜査一課長』シリーズほか。声優としても活躍し、『千と千尋の神隠し』では、千尋の父親役を担当している。現在、主演ドラマ『旅人検視官 道場修作』の新作を撮影中。

取材・文/水田静子

※女性セブン2025年3月6日号

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