
劇団四季の海外新作ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が4月6日、ついに開幕する。2月27日の稽古場取材会(神奈川・横浜の四季芸術センター)では、マーティ・マクフライ役候補の立崇(りす)なおと、笠松哲朗、ドク・ブラウン役候補の野中万寿夫、阿久津陽一郎らにより3シーンが初公開。劇団四季では超レアともいえる裏話が飛び出した。【前編後編の後編。前編を読む】
ドクの部屋や発明品にも注目
「圧倒的没入感」を謳う今作品だが、その“ゆえん”となる部分がいくつか判明した。
1つ目は、科学者・ドクの発明品。マーティを1985年の世界に帰すための模型のほか、喋らずして相手の考えを読み取ろうとする装置も登場。
部屋には科学者らしく、彼が敬愛するエジソンやアインシュタインの写真が貼られている。本番ではどんな部屋に仕上がっているのか楽しみだ。

音楽は生演奏
まず驚かされたのは、ミュージカルの演奏が生オケ、つまり生演奏で上演されるということ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のおなじみのテーマ曲はもちろん、『The Power of Love』などが生のオーケストラ演奏で聞けるというのだ。
マーティ役の立崇も、喜びをこう語っている。
「ぼくが本当にこの作品に関わってうれしかったのは、“生オケ”であるということ。あの音楽を生のオーケストラで、目の前で聞けるというのが、ぼく自身、ものすごく楽しみ」
これには、取材陣からも「おおっ」と思わず声が漏れたほど。耳に残る数々の名曲を生演奏で聞けるのは、ぜいたくとしか言いようがない。
四季ではタブーだったアドリブがいっぱい
劇団四季といえば、作品主義を貫き、クオリティーを保つためにアドリブが許されないことはファンの間でも知られている。
40年以上にわたって劇団四季に在籍するドク役候補の野中も、「アドリブはNGだったという時代もあったし、ぼくらは(俳優として)そういう育ち方をしてきた」と語る。
ところが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、演出家からアドリブを求められることがたびたびあり、これには野中も「ア、アドリブですか!? そんな、いま(すぐには)言えません!」と、最初は戸惑ったという。
今回の公開稽古でも、「こんなセリフ、台本にあるの!?」と吹き出してしまうシーンが多く、とっさに思いついたジョークだった可能性も…。
見に行くたびに違うセリフが聞けるのなら、何回劇場に足を運んでも、新しい発見がありそうだ。

デロリアンの詳細は謎に包まれたまま
「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といえばデロリアン」と、阿久津が話すように、このタイムマシンがもうひとつの主役といっていいだろう。
この自動車型タイムマシンは、ドクの愛車だったスポーツカーを改造したもので、時速88マイル(141km)まで速度を上げると時空を超える。
疾走する様子は最新鋭のプロジェクションマッピングやLEDボードなどの最新技術で表現され、「超体感型ミュージカル」を体験できるという。

劇団四季のYouTubeでは、デロリアンが大型トラックから下ろされ、フォークリフトで劇場に運ばれる搬入の様子が公開されている。外装はシートに厳重に包まれており、細部はまだ明かされていない。
阿久津は「デロリアンとのやりとりも結構面白く仕上がっているので、ぜひ興味を持っていただけるとうれしいです」と語っていた。

舞台は「TO BE CONTINUED」?
映画版の“お約束”シーンが、ミュージカル版ではどのように登場するのかというのにも、期待が膨らむ。例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のラストシーンといえば「TO BE CONTINUED」と「THE END」だが、「(ミュージカルでも)面白いタイミングで出てくるのでお楽しみに」と、阿久津がネタバレギリギリのリップサービスを。
どこで登場するのか、はたまた続編はあるのか!?
デロリアンで行くなら過去と未来、どっちを選ぶ?
タイムマシンに乗れたとしたら──そんな質問の答えに、4人の性格が露見することに。
「ぼくは未来に行ってみたい」と、迷わず答えた立崇は、「過去は変えられないと思っているので、未来に行って何か確かめることをしてみたい」とのこと。
もう一人のマーティ候補・笠松は、「絶対に、高校生の自分に会って、“ギターを始めておきなさい”と言いたい」と断言。エレキギターを弾きこなし、ロックスターにあこがれる役柄だが、「マーティ役に合格して、初めてのギターに触ったので苦戦している」と苦笑。すると、間髪入れずにまわりの劇団スタッフから笑い声が。どうやら説得力ある回答だったようだ。
それにすかさず反応したのは野中。「ぼくは高校時代にギターを弾いていたのでよかった」と笑いを誘う。
また、「過去に行きたいかと問われたら、高校生のあの時、“あの一言が言えなかった”とか、そういう思いもありますが、過去に行けないことが、自分の中でロマンに変化している気がします」と、なんともロマンチックな一面をのぞかせた。
阿久津は迷うことなく「未来」を選択。ドクのキャラクターを通して考えたと言い、「“自分の信念を貫くことで人生を切り抜いていく”“諦めないことで成功が近づく”ということにこだわっている人だと感じるので、未来に行きたい」ときっぱり。
同じ役柄でも、演者の回答からのぞかせる性格はそれぞれ異なるのが、おもしろい。
彼女と映画館で見たドク世代、『金ロー』で見たマーティ世代
映画版をオンタイムで見ていたというドク役候補の2人。野中は当時20代で、「青春時代にたくさん励ましてもらった映画」と、しみじみ振り返る。
一方の阿久津は、「高校生の頃、新宿でPart2と3も当時の彼女と見に行った」と甘い思い出を口にする。
マーティ役候補は、「子どもの頃、『金曜ロードショー』で見た」と笠松。同じくテレビで見たという立崇は、「マーティといえば、マイケル・J・フォックスのイメージがものすごくある。彼にリスペクトをもちつつ、自分らしいマーティができたら」と意気込んでいた。

笑いが散りばめられた今作について、「“ザ・ミュージカル”ともいえる、超然的でシュールなところを楽しんでほしい」と笠松。野中は「われわれ俳優が、(観客を)笑わせているのではなく、笑われているんじゃないのかな。いかに悲劇の中に身を置くかで、それが笑いの種になるんじゃないかと思う」と、哲学的な視点で語る場面も。
2020年3月のイギリス・マンチェスター公演は、コロナ禍で初演からわずか5日目に休演を余儀なくされた。ロンドンで公演を再開できたのは17か月後のこと。そんな困難を経験したことで、ランドさんは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が「人々に対して癒しを提供してくれる作品だと感じた」と話す。
性別や年齢を問わず楽しめること必至のミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、JR東日本四季劇場[秋](東京・竹芝)にて4月6日より上演。全貌がいまだ明かされていないデロリアンのタイムトリップシーンも含めて、ぜひ自分の目と耳で確かめてほしい。そして、お腹がよじれるほど笑ってほしい。
撮影/五十嵐美弥 取材・文/高城直子