付加給付金を知っているか
体力や気力の低下と闘いながら、経済不安を解消するのはがんと生きる当事者、家族にとって大きな「壁」となるだろう。清水さんは、「積極的に公的制度を活用すべき」と断言する。
「日本の社会保障制度は、自分から声を上げないともらうことができないのがほとんどです。ぼくは自分の体の状態から『障害年金』を受給できると知って申請しましたが、これはかなり生活の助けになりました。
また、一部の健康保険組合や公務員が加入する共済組合には『付加給付』という制度があります。自己負担金額はだいたい2万~3万円で、それを上限としてそれ以上は医療費を払わなくてよくなります。
『傷病手当金』も申請した方がいい。基本的に同一傷病につき1回だけですが、その後に2年くらいフルタイムで働いた実績があれば社会的治癒というのが認められて2回目ももらえることは、ほとんど知られていません」

がん治療をはじめとした、多くの医療を支える高額療養費制度の負担増が問題視されているが、制度のひとつである「限度額適用認定証」も知っておきたい。
「高額療養費制度のオプションですが、この交付を受けていれば医療費を一定額以上は支払う必要がありません。高額療養費制度は支払い後に上限額を超えた分が戻りますが、結構時間がかかってしまうので、認定証は持っておくといい」(賢見さん)
制度の活用や申請を含め、体のことや治療のこと、経済的な見通しについて家族会議をする際に、賢見さんは「まず、ソーシャルワーカーに相談すること」をすすめる。
「明確な問題点がはっきりしていれば社労士やファイナンシャルプランナーに相談することは効果的ですが、自分や家族にとって“何が問題かはっきりしていない”状況であれば、まずは病院のがん相談支援センターにいるソーシャルワーカーの力を借りましょう。病状の不安がある中で、家族から家計の話を切り出すのは難しい。ソーシャルワーカーという第三者を挟むことで、円滑に話ができて問題点もクリアになります」

清水さんも言い添える。
「治療が続くのであれば医師や看護師も交えたチームで今後について話すのが望ましいと思います。仕事と治療の両立についても、本人にその意思があっても医師や看護師から見たら難しいケースもあるでしょうし、家族や周囲が両立を望んでも本人が難しいと感じることもあるかもしれません」
医学的見地から意見をもらえば、復職や再就職の際に家族から意向を伝えることもできる。罹患した本人ではなく、家族が会社の制度を利用したり、働き方を変える選択もある。
「たとえば妻が罹患したとして、夫が勤務先の福利厚生を利用して在宅勤務を増やしたり、有給や休職制度を活用することもできます。まずは家族内でコンセンサスをとったうえで、誰がどこに相談、交渉すべきか考えてみるといいですね」(清水さん)
家族の負担は昔に比べて増加
パートナーや両親、あるいは子供ががんになってしまったら、家族の体調への不安を抱えながら、がんとともに現実を生きていかなければならない。
「一昔前と比較して、家族に求められる役割はかなり増えていると感じます。かつては入院での治療が主だったので、家族は面会に来ることくらいでしたが、いまは外来が主流になっているので食事、抗がん剤の薬の管理や副作用のケア、場合によっては通院の送迎など日常生活のすべてを担わなければならない。生計も考える必要があります。
家族の負担が大きくなっているなか大切なのは、家族が共倒れにならないこと。支援団体や家族の会などに足を運び、相談したり、使える社会制度などの情報を集めたりすることも重要だと思います」(小川さん)
就労にあたっては、勤務先と事前にきちんと話しておいた方がいい。

「がんと診断されたり、治療が始まったら、勤務先の就業制度をきちんと調べたうえで家族と働き方を相談し、それを会社側と擦り合わせ、なるべくなら辞めない方がいい。抗がん剤を受けた直後は休ませてもらうとか、通院の日は半休をとるとか、そうした合理的配慮は長年勤めた会社に対しての方が伝えやすいと思います」(清水さん)
直属の上司や人事担当者と話すのもいいが、小川さんは「産業医も使ってほしい」とアドバイスする。
「職場によって状況は異なりますが、人事担当者では治療や体の状態について、どの程度理解しているかには疑問があります。産業医や職場の産業保健のスタッフであれば、治療面についても相談できますし、どのような配慮をしてほしいのか人事を交えて相談できる場合もある。
会社と働き方について交渉するなら、社労士さんも力になってくれます。家族だけでなく、専門家の力を借りた方がよりよい条件で職場復帰することができるかもしれません」(小川さん・以下同)
予後をよく生きるためには、かかりつけ医も必須だ。
「シニアのかただと、手術を受けたことで体力が落ちて寝たきりになってしまうリスクがあります。筋力を維持するためのリハビリ、治療による合併症、別のがんの早期発見など定期的に相談できる医師がいると、本人も家族も心強いです」
がんと生きていく時代、必要な支援を受けるために家族とともにできることはいくつもある。そのかいあって寛解を迎えたならば、“患者を卒業”することも視野に入れよう。
「日本だと、がんに罹患してから10年経っても、20年経っても『自分は患者』だという人が多いのですが、海外では終わりの時期を考えるようになってきました。ヨーロッパでは、治療後5年経てば、がんに罹患した記録を消す“忘れられる権利”とともにがん保険にも再加入できる動きがあります。壁を乗り越えた先には“出口”があるという意識を、今後患者も医師も持つことが求められます」
いざそのときのために、どう生きるかを考えよう。
※女性セブン2025年3月20日号