健康・医療

病気を遠ざける “ちょうどいい小太り”を維持する60代からの食事術 「好きなものを食べてカロリー摂取」「たんぱく質をしっかり」「ファストフードもOK」

イタリアのノンナ(おばあちゃん)たちは福々しい
イタリアのノンナ(おばあちゃん)たちは福々しい(写真/ゲッティ イメージズ)
写真6枚

かつては“肥満は敵”といわれたものだが、近年「中高年以降は小太りの方が健康にいい」という説が浮上している。BMI(肥満度指数)が低い方が、老後の健康を損なうリスクがあると考えられ、国内外の調査でも、BMIが低体重の域に入ると死亡リスクが急増するという統計データが出ている。では、病気を呼ぶ肥満ではなく、“ちょうどいい小太り”になるにはどうするといいのか。専門家に聞くと、食べ方にコツがあった。

高齢者はBMI23〜24.9が死亡率が最も低い

15年以上にわたり在宅医療に携わっている医師の佐々木淳さんは、現場を知るからこそ「高齢者の低体重に危惧を感じている」という。

「在宅高齢者のBMI値を調査した結果(※メディバンクス 在宅医療サーベイランス調査2019)を見ると、約60%がBMI18・5未満の低体重で、25以上のぽっちゃり型はわずか4%でした。

日本と同じ長寿国のスペインやイタリアなどの高齢者は、年齢とともにぽっちゃり体形に変化していくのに対し、日本では低体重になる割合が増えていくのです」(佐々木さん・以下同)

さらに、日本女性の場合、死亡のリスクがぐんと上がるBMI16未満の人が、28%もいるという。

「高齢者が病気で入院したときの生存率を調べたアメリカの病院のデータ(※Kagansky N, et al. :Am J Clin Nutr. 82: 784-91. 2005)では、入院時に栄養状態が良好だった患者群は、退院から3年後も約8割が存命でした。

BMI別の女性の体格例
BMI別の女性の体格例
写真6枚

一方で、栄養状態が低かった患者群は入院して3か月で2人に1人が亡くなり、退院3年後に生きられた人は5人に1人という結果が出ています。いまは元気に日常生活が送れていても、運悪く骨折や肺炎などで入院したとき、栄養が足りないと生き残れない可能性が高いのです」

「体重の重軽」が命を分けるとは…。

先に、日本で最も疾病にかかりにくいBMI値は22と紹介したが、佐々木さんによると、これは17〜59才の健診データから導き出されたもので、高齢者を除いた指数だという。対象を高齢者(65〜79才)に限定し、死亡リスクとBMIの関連性を11年間追跡した調査(※文部科学省科学研究費 大規模コホート研究(JACC Study)研究代表者 玉腰暁子(北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野)では、標準値が変化していた。

「女性の場合、BMI23〜24.9が最も死亡リスクが低いという結果が出ています。30を超えると死亡率はぐっと上がるものの、25〜28くらいであっても、さほど死亡率は上がっていないことがわかりました。

つまり、65才以上は太めの方が、長生きの可能性が高くなるといえます。

低体重の患者さんには『命の貯金だと思って、まずはBMI18.5以上を目指して体重を増やしましょう。その次は22、そこまで行けたら、あとは余力でもっと増えても大丈夫です』とお伝えしています」

“エネルギーの貯蓄”は60才から始めよう

65才からはBMI25前後が健康の目安だとするならば、いつ頃からそこを目指せばいいのだろうか。

「65才くらいまで健康で生きた人の3分の2は90才を超えて生きることができ、その中の16%は100才を超えて生きるといわれています(※厚生労働省『簡易生命表』)。65才を迎えたかたは、この先35年生きる可能性があることを現実的に捉え、早いうちから体重と筋肉を減らさないことです。

できれば、60才くらいから“エネルギーの貯蓄”を始めるべきです。60代で標準体重を少し超え、70代で元気なぽっちゃり型になっているのが理想的なイメージです。75才を超えると骨折などさまざまな理由で入院する確率が高くなります。そのときに“貯金”があれば、退院後も元気で過ごせる確率が上がります」

減量の必要があるほど肥満度の高い人でも、無理なダイエットは厳禁だ。

「体重を落とすためだけにカロリーを制限するダイエットは、若者であれば取り返しがつきますが、60才前後でやってしまうと大切な筋肉が落ちるうえ、女性ホルモンの分泌が減少することで骨粗しょう症の進行リスクが高まります。

健康的な体重と体形を目指すなら、食事量は変えず、筋トレをして筋肉をつけましょう。体重ではなく、体組成(脂肪や筋肉、骨、水分など)を変えることで、栄養と筋肉の“エネルギーの貯蓄”が叶います」

適度な皮下脂肪と、筋肉量があってこそ“理想的な小太り”になれる。上の絵はBMIごとの体格例だが、肥満1度とされているBMI25でも、体組成がよければ健康的ではつらつとして見える。

では、何をどう食べたらいいのか。賢くぽっちゃり体形になる具体的な食べ方を見ていこう。

フレイルの直前で食生活をギアチェンジ

30〜50代は、病気予防や体重管理のためにカロリーや塩分、脂質などは制限すべきだと考えられてきた。「高齢期以降は、この常識を180度転換すべきです」と佐々木さんは言う。

「高血圧や高脂血、高血糖、高コレステロールが招く病気より、栄養不足の方が問題。フレイルを感じたら、『太るためにどんどん食べる』というスタイルにギアチェンジしましょう。

私たちの人生は、大きく3つの状況に分けられます。

最初は『ロバスト』と呼ばれる健常な状態。やがて、加齢や病気の進行などで体が弱り、筋肉が落ち、やせるつもりはないのに体重が減少する『フレイル』へ。さらに進行すると『要介護』となります。しかし、フレイルの段階でギアチェンジできれば、間近に迫る寝たきり生活を回避し、ロバスト近くまで改善することが可能なのです」

ギアチェンジのサインは、「ペットボトルのふたが開けられなくなった」「15分以上歩き続けられない」「歩く速さが極端に落ちた」などさまざまあるが、「フレイル診断」でネット検索すると、「健康長寿ネット」などでセルフ診断できる。

日本では、75才を過ぎると徐々にフレイルになる人が増えるという。その頃から野菜ファーストなどのダイエットルールはやめ、好きなものを食べてカロリー摂取に励もう。もちろん、ケーキや和菓子などのスイーツもOKだ。

「60〜70代前半の元気なかたでBMIが25前後の適正値なら体重を維持し、筋肉を落とさない生活を心がけてください。

BMIが適正値以上の人はもっと活動量を増やし、適正値以下の人はもっと食べる量を増やしながら適正値に近づけましょう」