
4月6日、東京・竹芝のJR東日本四季劇場[秋]で、劇団四季の海外新作ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がついに開幕。初回販売分のチケットは即完売、さらに開演前に約1年半の延長公演が決定するなど、話題騒然ながらも詳細はヴェールに包まれていた本作だが、ついにその全貌が明らかに。かつてない演出の手法をふんだんに取り入れた前代未聞のミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(BTTF)をより楽しむための見どころを、どこよりも細かく、ネタバレギリギリでお伝えします!! 【前編後編の後編。前編を読む】
原作映画の監督でミュージカル版でも共同創作者に名を連ねるロバート・ゼメキス監督らクリエーター陣の口から明かされた、今作のヒットの秘密とは──? 観劇をさらに盛り上げる見どころを交えながら紹介します。
映画版を見ていなくても楽しめる
「ミュージカル化の話が出た時、映画のファンにもしっかり楽しんでもらえるものであることはもちろん、映画版を見たことがない人にも楽しんでもらえるものにしたかった」とゼメキス監督。
台本を務めたボブ・ゲイル氏も、「いちばん大事なことは、映画のコピーではない、ということ。映画をそのまま、安っぽく舞台に乗せただけということではない、本当にミュージカルシアターが一番輝くようなものにしたかった」と話す。もちろん、「映画ではできても、舞台では再現できないものもあった」とゲイル氏が続ける。
「例えばスケートボードのチェイスシーンやリビアのテロリストがドクを襲うシーン、犬、子どもなどのシーンも採用できなかった。それらの場面を取りやめて、他にどういうことができるかを考えたんです」
確かに、映画版とは異なるシーンが点在していて、原作を知っている人にとっては「そうきたか!」と、新鮮な驚きがあり、それもミュージカル版の魅力といえる。

ゼメキス監督が考える世界的ヒットの理由
原作映画の公開から40年がたち、いまなお『BTTF』が愛される理由をたずねられたゼメキス監督。この手の質問はよく受けると笑い、「思うに、この映画のストーリーがとても普遍的なテーマだからだろう」と分析する。
「自分がティーンエージャーだった時、もし自分の両親がティーンエージャーだった当時を見ることができたら面白いんじゃないかという、そういう好奇心が刺激するのでしょう」(ゼメキス監督)
確かに、イケてない父親と遭遇したり、妙に積極的な母親に迫られたりするストーリーは、考えただけで笑いが込み上げてくる。

音楽でキャラクターの性格を表現
数あるミュージカル作品のなかでも、何かと歌や踊りのシーンで感情を表現することの多い今作。その理由をゼメキス監督が説明する。
「ミュージカルで最も重要なのは音楽です。ミュージカル化が決まった当初から、音楽を使ってストーリーを進めたり、キャラクターをもっと深く掘り下げたりしようと話し合いました」
主役のマーティはもちろんだが、科学者としての葛藤や誇りを歌うドクのほか、貧しく苦労人ながら将来の成功を夢みるウエイターのゴールディ・ウィルソンらも、ダンスを交えながら高らかに熱唱することで、人格に深みが増して感じられる。
一方、いじめられっぱなしのジョージの場合、一挙手一投足が頼りない。それをダンスの名手・斎藤洋一郎が踊るからこそ、ひざがガクガクの腰砕けっぷりが絶妙で、終始笑いを誘う。

日本上演では『THE POWER OF LOVE』も日本語で
映画版では主題歌や挿入歌は原曲のままだが、ミュージカルではあえて日本語に訳すことにこだわったという。イギリスやアメリカでの上演を経て、今回初めて英語圏以外での上演となったが、日本でもよく知られている主題歌『THE POWER OF LOVE』も日本語に。
それについて演出家のジョン・ランド氏は「ザ・ビートルズがドイツに行って、『I Want to Hold Your Hand(抱きしめたい)』をドイツ語で歌ったのを思い出した」と話す。
「私たちがやっていることは、とってもクールだと感じています。タイトルは英語のままですが、歌詞は本当に素晴らしくて重要なもの。それで、観客に歌詞を理解してもらうために、日本語にしました」(ランド氏)
日本上演へのこだわりは、セリフにも潜む。1955年のドクの登場シーンで、2月末の公開稽古では実在するアメリカの大手ハンバーガーチェーンの名前がドクの口から飛び出したが、日本の有名自動車メーカーの名前に変更されていた。こうした遊び心がそこかしこに隠れているので、聞き逃しなく。
ミュージカル版こそ「Part4」!!
これまで幾度となく待望論が持ち上がっていた映画版のPart4。続編は、果たして作られるのか、ゲイル氏は思いがけない答えを返した。
「みんながよく『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part4』を作らないの? と聞いてくるけれど、実際にみんなが求めているのは、もう一度、(映画版の)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を初めて見たときのような感動を味わいたいということだと思います。それこそが、ミュージカルが提供するもの。世界中の多くの人々から、ミュージカルを見てとてもハッピーで、初めて映画を見たときのような気持ちを味わえたと言ってもらえる。それが私たちの望むことなんです」
確かに、たとえ原作映画を見てストーリーを知っていたとしても、まったく別の感動と驚きが味わえるミュージカル版は、いわばシリーズ最新作。Part4に値するといってよさそうだ。

映画が大ヒットしても却下され続けた舞台化
初演当日のカーテンコールでは、登壇したボブ・ゲイル氏が脚本を書き上げて映画が完成するまで5年かかったことを告白。しかもその後、2006年に舞台化を計画したものの、それも一筋縄ではいかなったと話す。
「(舞台化の)計画は多くの拒絶にあい、成功までに14年間もの時間を要しました。夢を実現するには、時に多くの拒絶に立ち向かう、内なる力が必要です。このショーを成功させるためにたくさんの人々、そして劇団四季の皆さんが苦難の道を歩んできましたが、それが今日ここで報われました。この夢を実現させた仲間たちに敬意を表します。そして観客の皆さんも、どんな夢であれ、決して諦めないでください。お互いに愛を持って、応援しあえば、夢がかなうかもしれませんから」
世界が混沌とするいまの時代に贈られた熱いメッセージに、観客から惜しみない拍手が贈られた。

本番直前のリハーサルでも、ダメ出しするところがなかったと、クリエーター陣は口をそろえる。デザインを手掛けたティム・ハトリー氏は、「これほど複雑なセットや映像、照明、音響をまとめるのは非常に大変だったと思うが、劇団四季は素晴らしい仕事をやってのけてくれた。この公演はフラッグシップ的な存在になるだろう」と、日本公演のクオリティーの高さを強調していた。
観劇の日は新オープンの「四季食堂」でBTTF限定メニューを堪能
劇場のある「アトレ竹芝」2Fには、『BTTF』の開幕と同じ4月6日に「劇団四季SHOP&DINING 四季食堂」が本格オープン。早くも行列ができるほどの人気スポットになっている。
劇団の本拠地・四季芸術センターの食堂で一番人気の「100点カレー」に着想を得た「劇団四季の100点カレー」のほか、ミュージカル『BTTF』とのコラボメニューも。メインディッシュからスイーツ、ドリンクまで、多彩なラインナップが楽しめる。
公演前から雰囲気を味わうにも、公演後の興奮冷めやらぬまま『BTTF』の余韻に浸れる場所としても楽しめそうだ。



BTTFの東京限定グッズも大人気
劇場内のショップやオフィシャルウェブショップでは東京公演グッズも販売されている。劇団四季といえば、開封するまで何が入っているかわからないシークレットチャームが人気だが、今回は東京公演限定のチャームセットも販売されている。
ほかにもマーティが着ている赤いダウンベストやパーカーもそろい、観劇の記念になりそうだ。

観劇前に見るべきポイントを押さえたら、お腹を満たしてお土産もゲット。せっかくなら『バック・トゥ・ザ・フューチャー』づくしの1日を堪能してみてはいかがだろうか。
次にデロリアンに乗るのはアナタだ!!
撮影/五十嵐美弥 取材/高城直子