過度な食事制限による人体への影響は、まず「目」に出るという。松原眼科クリニックの松原令理事長が語る。
「目の機能は、数ある栄養素の中でも、特にビタミン全般によって支えられています。これが不足すると眼精疲労になり、視力が低下する危険性があるんです。例えば、ビタミンAが不足すると角膜の潤いがなくなってしまう。行きすぎた食事制限によって、本来摂るべきビタミン類まで欠乏した結果、目の不調を訴えるケースは確かにある。“栄養の偏り”は目の天敵なんです」
食事と目の関係に詳しい丸尾眼科の丸尾敏之院長もこう指摘する。
「最も怖いのは、食事制限で視力が悪化しながら、そのままダイエットを続けた場合です。食生活を正せば目の機能も基本的に回復していくのですが、栄養不足の状態が慢性的に続くと、悪化した視力が戻らない可能性が出てくる」
無論、視覚以外にもさまざまな悪影響が出る。
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんは、とりわけ「糖質制限」の危険性についてこう語る。
「人間が摂取した炭水化物(糖質)は体内でエネルギーとして使われ、余った分が脂肪に変わって内臓や皮下に蓄積されます。糖質を減らせば脂肪が減るのは当たり前で、誰でもやせられる。その代わり、健康へ与えるリスクも非常に大きい。
2013年に国立国際医療研究センターの研究グループが『糖質制限食を5年以上続けると死亡率が高まる』と報告している。
「信頼性の高い4つの論文の約27万人分のデータを分析したところ、低糖質の食事を続けていた人たちは、高糖質の人たちに比べて死亡率が31%上がっていたのです。つまり、糖質制限を続けると健康にいいどころか、死亡率が1.3倍に増えるということです」
糖質制限食以外にも注意が必要
糖質制限で死亡率が上昇するのは、「たんぱく質・脂質・糖質(炭水化物)」という「3大栄養バランス」が崩れて体の調節機能が劣化し、さまざまな病気が増えるからと分析される。
「“糖質を食べない代わりに肉は好きなだけ食べていい”という宣伝文句を信じてご飯やパンを食べずに、肉だけ食べる人が出現した結果、心筋梗塞が増加しました。肉ばかり食べると、肉類に含まれる脂肪酸やコレステロールの過剰摂取によって血管が詰まり、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増すんです」(岡田さん)
事実、米国のハーバード大学は、「糖質制限食を続けると心筋梗塞や脳卒中の発症率が高まる」と、2012年に英医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』で発表。スウェーデンの30~45才の女性4万3396人を対象に食生活を調査し、約16年間、心筋梗塞や脳卒中などの発症を追跡したところ、「低炭水化物・高たんぱく質」のグループは、そうでないグループに比べて発症リスクが最大1.6倍高まったという。
悠翔会在宅クリニック柏の佐々木淳院長は、「糖質制限以外のダイエット」でも注意は必要だと指摘する。
「例えば無農薬野菜や玄米食を中心とするマクロビオティックではたんぱく質と脂質の摂取が不足する可能性があります。適度な運動を組み合わせないと筋力の低下が早まる恐れがあります。
体内の筋肉、内臓、血液はすべてたんぱく質と脂質でできているため、“原料”の供給が不足すると体全体が脆弱になり、貧血や骨粗鬆症、内臓機能や免疫力の低下が生じる。そこから2次的にさまざまな病気が発症するリスクがあります」(佐々木さん)