衣服の破れや体の傷など証拠を集めておけば協議離婚や離婚裁判で有利になる
世代間連鎖を招きかねない多産DVをどう食い止めればいいか。種部さんは「夫からの性行為の誘いをきっぱり断っても怖い思いをしない関係性が大事」と語る。
「“断ってはいけないのでは”と思い込んでいるかたもいますが、嫌なものははっきりと断っていい。それができないときには、確実な避妊をして、望まない妊娠・出産から自分を守ってほしい」(種部さん)
ただし、すんなりと夫が応じるとは限らない。続いて「話し合い」の可能性を探りたい。問題を外に広げていくことも重要だ。ベリーベスト法律事務所の弁護士・齊田貴士さんが言う。
「話し合える関係になければ、子供を連れて実家に帰る、行政や産婦人科医に相談するなどして冷却期間を設ければ、夫が自分の過ちに気づくきっかけになるかもしれません」(齊田さん)

他方でこれまで見てきた通り、多産DVを受ける妻は「悪いのは自分」と思い込んだり、妥協したりあきらめたりして現実から目を逸らしがちだ。自覚があっても世間体などを気にして本人の胸の内にとどめやすい。周囲で、子をたくさん持つ家族や友人、知人などの異変に気づいたら、注意深く接しよう。ただし、間違っても、子供が多いという理由だけで「多産DVでは」と決めつけることはあってはならない。
「DVを受けるのは自分のせいだと思っている女性が多いので、“なぜ逃げないのか”と詰問するのではなく、“あなたは一生懸命生きてきたね”とまず肯定することが重要です。そのうえで夫に従うのとは別の選択肢があることを示してあげてほしい」(種部さん)
その際、内閣府男女共同参画局のDV相談ナビ、配偶者暴力相談支援センターなどの行政機関や、弁護士、警察などが頼りになる。3月に新著『セックスコンプライアンス』を上梓した、弁護士の加藤博太郎さんが言う。
「本人が夫との性交渉などに負担を感じて心身ともに疲弊している場合、こうした行政機関や第三者に相談して対策を練ることをすすめます」
話し合いや行政、第三者の介入で問題が解決しなければ、その先にあるのは「立件」と「離婚」だ。前述の通り、刑法改正で「不同意性交等罪」が新設されて、夫婦であっても望まない性行為は刑事事件として罪に問われやすくなった。

「重要なのは証拠を残しておくことです。夫に無理に求められたら録音し、抵抗して衣服が破れたり物が壊れたりしたらそれも保管しておきましょう。また体に傷ができたら写真を撮り、病院で診断書をもらっておけば夫を罪に問いやすくなります。立件ではなく離婚を望む場合も、そうした証拠を集めておけば協議離婚や離婚裁判で有利になります」(加藤さん)
大切なのは当事者の決意や行動と、周囲のサポートだけではない。社会全体が意識をアップデートすることも欠かせない。
「近年、女性の地位や権利が改善してきているとはいえ、“家庭はこうあるべし”というアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)、旧態依然とした慣習はまだ日本に根強く残っています。そこに生き苦しさを感じる人もいると思うので、社会全体で意識改革をして、おかしいと思うことにはおかしいと声を上げられる社会にしていくことが重要だと思います」(齊田さん)
生まれてくる子供が幸せになるためにも、すべての当事者が明るい笑顔で祝福される出産が求められる。

※女性セブン2025年5月1日号