『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)で初主演を18歳で飾り、当時『史上最年少のイケメンライダー』として注目された半田健人さん(40)。芸歴20年以上を誇る彼が、初著書『たずねる 半田健人の歌謡曲対談集』(本の雑誌社)を、4月23日に発売。
歌謡曲研究家として、半田さん自ら高度成長期の日本を元気づけた昭和歌謡界の立役者たちに、ニッチな質問を次々と投げかけ、貴重な証言をあつめた異色対談集だ。後編では、歌手デビューの話から、歌謡曲愛までを語った。

皆さんが愛してくれる『乾巧』を演じているのは『半田健人』なのに
――2006年に、渚ようこさんとデュエットした『かっこいいブーガルー』で、歌手デビュしました。
「このシングルには、歌手デビュー以上の喜びがあるんです。A面の『かっこいいブーガルー』は、クレイジーケンバンドの横山剣さんと渚さんが歌っていた曲のカバーなのですが、B面の『新宿、泪知らず』は作詞・作曲・編曲まで、すべて僕が手掛けました」
――念願の音楽活動を開始して、2014年にはアルバム『せんちめんたる』もリリースしました。でも、ファイズのファンにはほとんど届かなかった。
「ちょっと遠回りして、言いますね。中学生のときに、僕は『太陽にほえろ』を見たんです。それで、マカロニ刑事が大好きになりました。でも最初はマカロニ刑事が好きなだけで、マカロニ刑事を演じているショーケンさん(萩原健一)が好きなわけじゃなかった」
――なるほど。皆、『乾巧』が好きなだけで、乾巧を演じている『半田健人』には興味を持ってくれないじゃないか、と。
「でも、そこにジレンマを感じたわけじゃないんです。中学生のとき、僕はそういう状態でショーケンさんを知って……むしろそこから、なんですよ。最初は興味がなかったのに、ショーケンさんの他の作品や音楽に少しずつ触れていくと、最終的には、マカロニ刑事とショーケンさんがシンクロして、役柄を超えてショーケンさんのことが大好きになったんです。
自分自身にそうした経験があっただけに、当時は少し残念でしたね。皆さんが愛してくれる『乾巧』を演じているのは『半田健人』なのに、どうして、僕がすべてを懸ける音楽には、あまり興味を持ってくれないのかと」
――それはシンドイかもしれませんね。
「その『思い込み』を脱するのに10年どころか、15年ぐらいかかりました」

歌謡曲のファンだけでなく、初心者も楽しめる
――「思い込み」というのは?
「ある時にふと思ったんです。ひょっとして、乾巧のファンの皆さんが半田健人を拒絶しているのではなくて、むしろ半田健人が乾巧のファンを避けて、勝手に、妙に意識しているだけなんじゃないかって。
不思議なことに、そう思った瞬間から、自意識の強張りが消え失せて、自分の中で乾巧と半田健人がシンクロしたような気分になりました。そうしたら、僕のライブや音楽活動の舞台に、ファイズのファンの皆さんが顔を出してくれるようになったんです」
――そういう意味では、今回の本『たずねる』は間口が広いですよね。従来の歌謡曲のファンだけでなく、初心者のかたにも広く楽しんでもらえる気がします。ザ・ワイルドワンズの植田芳暁さんや伊東ゆかりさんといったシンガーや、GS(グループサウンズ)時代を築いた伝説的プロデューサーの本城和治さん。1万曲以上をアレンジしてきた馬飼野俊一さん、半田さんの父のような存在である作曲家の林哲司さん、作詞家の山上路夫さんといった一般に知られた華やかな立場の方々だけでなく、業界では誰もが一目置くレコーディング・エンジニアの前田欣一郎さんやスタジオ・ミュージシャン(ドラマー)の田中清司さんまで、ありとあらゆる関係者と膝詰めで対話をすることにより「歌謡曲」が立体的に浮かび上がってくることに感動しました。
「よくある解説本や評論本みたいなものにはしたくなかったんです。そのかわり、僕のタレントっていうポジションを活かして今まで誰も聞かなかっただろうって話をたずねて回りました。質問項目に著者のアイデンティティを感じ取って頂けたら幸いです。普段は自分がたずねられる側だから分かるんですけど、長くやってると本当に同じ質問が多くなるんです(笑)。それに答える気持ちを知っているのでね」

沢田研二さん、山口百恵さんは”ここに注目”
――対談している相手が全員カッコよく見えてくるのは、半田さんの情熱と好奇心が半端ではないからでしょう。勝手に「古臭い」と思い込んでいた歌謡曲の深みと面白さに衝撃を受けました。さっそく聴いてみたいとも思ったのですが、はたしてどこから手をつければよいものやら。
「歌謡曲に詳しくない人でも代表曲を知っている、大御所の皆さんの『本来の魅力』を噛みしめてみる、というのはどうですか。たとえば、沢田研二さん。テレビは『勝手にしやがれ』や『TOKIO』あたりを流すでしょう。それだけだともったいない! 僕は声を大にして言いたい。沢田さんのベストは、タイガースに在籍していた1969年にリリースされたファーストソロアルバム『JULIE』で間違いありません。
次に、山口百恵さん。百恵さんといえば、皆さん『プレイバックPart2』、『横須賀ストーリー』あたりを思い浮かべてしまうかもしれませんが、百恵さんの魅力を最初に見抜き、これまでにない歌い手として世に送り出したのは、初期を中心に9曲を手掛けた都倉俊一先生なんです。『冬の色』、『湖の決心』あたりを、ぜひ」
――本書『たずねる』には、伊東ゆかりさんとの対談も収録されています。
「伊東さんは、ですね。僕は熱烈なファンなので熱くなっちゃいますが、『小指の想い出』だけで語ってもらいたくない! あの曲は、伊東さんの本来のポップス感覚からは外れた『ド歌謡』なんです。伊東さんの都会的な感覚が光る一番良い時期の作品は、ビクターインビテーション時代なのですが、いかんせんデジタル化されておらず、今のところレコードでしか聴けないんです。誰かどうにかしてほしい。いや、僕が頑張ってどうにかするしかないのか……」
――最後に、今後の活動について聞かせて下さい。『仮面ライダー555』の各話を上映しながら、半田さんの生コメンタリーを聞くイベント『ファイズ・リマインド』は大好評ですね。
「おかげさまで、今月末(4月29日)でVol.15になります。これまでに、皆さんと15話を一緒に見ました」
――ファイズは全50話ですから、まだまだ楽しめます。
「この3月からは『だんだん好きになっていきましょう』という、これまた僕らしいマンスリーイベントも始めました」
――いったい、何をだんだん好きになるんですか?
「僕の好きなものです(笑)。テレビやラジオでは企画が通らないであろうニッチなテーマを語りつくします。第1回のテーマは、マイクロフォン。第2回は、ビザールギター。次回は、高層ビルです。チンプンカンプンですかね?」
――はい。
「でも、聞き終わるころには、あなたも〝ソレ〟をだんだん好きになっていることでしょう。楽しませるとお約束します」
プロフィール
半田健人(はんだ・けんと)
1984年6月4日、兵庫県芦屋市生まれ。俳優・歌手・音楽研究家。「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」のファイナリストに選ばれたことをきっかけに芸能界入り。2003 年「仮面ライダー 555(ファイズ)」乾巧(いぬい・たくみ)/仮面ライダーファイズ役で初主演を飾る。2014 年、自身初のオリジナル・フル・アルバム「せんちめんたる」を CD&LP 同時発売。2016年にはビクターエンタテインメントからメジャー・デビュー・シングル「十年ロマンス」をリリースするなど、俳優のみならず音楽のフィールドでも精力的に活動を行っている。出版イベント・サイン会が4月27日(日)19時から隣町珈琲(オンライン配信あり)にて、5月2日(金)18時から書泉グランデにて、5月10日(土)13時からタワーレコード渋谷店6Fにて開催予定。