
気象庁によると、今年6~8月の気温は平年に比べて全国的に高いと予想されている。すでに肌の紫外線対策を始めている人も多いと思うが、意外と見落とされがちなのが“目”の対策だ。目も肌と同じように日焼けするうえ、放っておくと白内障などの深刻な疾患につながることも。そうなる前のケアと予防法を専門医に聞いた。
目の日焼けが悪化するとこんな症状が
見落とされがちな目の日焼けによるリスクを紹介する。
強い紫外線による白目の炎症「急性結膜炎」
白目の表面を覆っている薄い半透明の膜(結膜)に炎症が起きた状態。ウイルス感染やアレルゲンが原因の場合もあるが、強い紫外線を浴びることでも起こる。
【症状】白目の充血、眼痛、かゆみ、異物感など。ひどくなると角膜のただれや表面剥離、強い痛みが生じる。
【治療】症状が軽い場合は自然に治癒するので安静に。改善しなければ眼科へ。
白目に茶色いシミのようなものが「結膜の色素沈着(メラノーシス)」
紫外線によって結膜にメラニン色素が増え、茶褐色〜黒褐色の色素が沈着する。肌が白い人に起こりやすい。極まれに悪性黒色腫(下段で詳述)に変化することも。
【症状】白目に茶褐色〜黒褐色の色素斑が現れる。視力には直接影響しないが見た目が気になることも。
【治療】通常は治療不要だが、シミが急激に濃くなる場合は眼科を受診する方が安心。
紫外線を浴び続けると早期発症も「白内障」
光を屈折させるレンズのような役割を持つ水晶体が濁って視界がかすんだりする。加齢が主な原因だが、慢性的に紫外線を浴びると発症リスクが高まる。
【症状】かすみ目、光をまぶしく感じる、物が二重に見える、視力の低下など。
【治療】初期では経過観察を行うが、症状が進行した場合は手術が必要となる。
進行すると翼状片になる恐れも「瞼裂斑(けんれつはん)」
紫外線を浴びたり、乾燥したりすることで、結膜に脂肪やたんぱく質が沈着。黄色く盛り上がった斑点が現れる。悪化すると翼状片(よくじょうへん)になる。
【症状】初期症状では白目に黄色っぽい膨らみができる。自覚症状はないが、まれに炎症を起こすことも。
【治療】通常は経過観察のみ。ただし炎症が起きた場合は眼科を受診すること。
白目の一部が黒目に侵入する疾患「翼状片」
黒目の中心部(角膜)に、結膜が入り込んでくる疾患。40代頃から発症しやすくなり、紫外線を浴びすぎると発症リスクが高まる。
【症状】黒目に膜がかぶってくるため、視界が遮られ、視力にも影響を及ぼす。
【治療】初期は経過観察。進行した場合は手術による除去が必要。紫外線対策と乾燥防止が予防の鍵となる。
強い紫外線が角膜に炎症を起こす「急性角膜炎」
海などの照り返しが強い場所で、強い紫外線を浴びると起きる炎症。
【症状】充血し、目が開けられないほど痛い場合も。
【治療】通常数日で自然治癒するが、改善しない場合は眼科の受診を。
日本人の発症は少ないが要注意「悪性黒色腫(希少がん)」
メラニン色素を生成するメラノサイトが悪性化したがん。白目などに黒〜茶色のシミ状の病変が現れ、徐々に大きくなる。
【症状】充血や視力低下を伴うことも。
【治療】手術か放射線治療。早期発見が重要。
専門医が伝授!今日からできる紫外線予防&ケア
ヒリヒリして痛い、充血する、視力が低下…。紫外線は浴びるほどにさまざまな症状を引き起こし、深刻化させる。手遅れになる前に私たちがやるべきこととは──。
目の細胞はむき出し!日焼けしやすい
「角膜(黒目の部分)や結膜(白目の部分)は粘膜でできており、皮膚のように角質で守られていません。つまり、“むき出しの生きた細胞”。ですから、紫外線の影響をダイレクトに受けやすいのです」
とは、杏林大学医学部眼科学教室教授の山田昌和さんだ。紫外線によって目の細胞が傷つくと、充血したり、目の中がゴロゴロするような違和感が出たりする。症状が重い場合は角膜がはがれることもある。これが“目の日焼け”で、日中に紫外線を浴びた場合、夜には症状が出る。
「軽症では自然治癒するケースがほとんどですが、2~3日は痛みや違和感が続きます。涙が出たり、まぶしくて目を開けていられないほどになります」(山田さん・以下同)
紫外線を浴び続けると、慢性的な症状も引き起こす。
「白目に黄色っぽい膨らみができる“瞼裂斑”や、黒目に膜がかぶさる“翼状片”は、慢性的な目の日焼けによる疾患です。物が見えにくくなるため視力が低下し、見た目にも影響します。白内障の発症にも紫外線が関係していますし、悪性黒色腫という目のがんにつながる恐れもあります」

目が日焼けしやすいかどうかは個人差もあるが、色白で色素が薄い人ほど注意が必要だという。
「〈太陽光の強さと量×浴びた時間〉で症状の現れ方に差があり、地域や職業によっても症状の度合いは異なります。 沖縄で屋外での仕事に就いている人の約3割が翼状片を発症しています」
特に日中の10~14時の間は紫外線が強い。直接浴びるのはもちろん、照り返しを受けてもかなりの影響を及ぼす。
「10~20分程度の外出ではそれほど気にする必要はありませんが、30分以上屋外で過ごす場合は帽子や日傘、サングラスを組み合わせて予防することが重要。
大人になってから現れる目の病気は、子供の頃に浴びた紫外線の蓄積が原因のことも多いので、日常的な予防が大切です」
【予防1】サングラスの選び方
レンズは色が薄い方が紫外線をカットする
目を紫外線から守るために最も効果的なのがサングラスだ。しかし日本におけるサングラスの着用割合は欧米に比べて低く、5割弱というデータもある。
「日本では濃い色のレンズをかけている人が多いですが、これだと瞳孔が開いて、かえって紫外線を多く取り込んでしまいます。レンズの色は薄くUVカット率99%以上のものを選ぶのが鉄則です」
とは、アイリスター麻布クリニック院長の西之原美樹さん(以下同)。
さらに、形やフィット感も重要だと続ける。
「紫外線は上からだけでなく、アスファルトや壁からの反射で横や下からも入り込むため、理想的なサングラスの形状は顔のサイドまで覆うゴーグル型です。顔にフィットしてズレにくく、重すぎないことも重要なポイント。コンタクトレンズは、UVカット機能のあるものもありますが、黒目しか覆えないため、サングラスと併用しましょう」
【サングラスの選び方】
・UVカット率99%以上のもの
・レンズの色が薄いもの
・サイドもカバーできるゴーグル型のもの
・グラグラせず、顔の形に沿っている
・かけていて負担にならない重さのもの
・自分の生活スタイルに合っているもの

【予防2】日傘・帽子の選び方
すぐに使える携帯性も選ぶポイントに
日傘や帽子を活用するだけでも紫外線の約9割をカットできるという。
「効果をより高めたいなら、日傘は外側が白、内側が黒いものを。白は紫外線を反射し、黒は傘内に入る反射光を吸収してくれるからです。帽子はつばが7cm以上あるタイプが理想的です」(西之原さん・以下同)
どちらも必要なときにサッと使え、使わないときはコンパクトにできるものがおすすめだという。たとえば、日傘なら晴雨兼用、帽子なら丸めて携帯できるタイプが便利だ。
「曇っていても紫外線は強いので、日傘、帽子、サングラスは常に携帯、装着しましょう」
【予防3】紫外線対策に有効な栄養素
バランスのいい食事と充分な睡眠が大切
目の健康を守るには、サングラスや日傘、帽子で外側からケアするとともに、目の健康に効果的な栄養素を摂るといった、体の内側からのケアも大切だ。
「紫外線対策に有効な栄養素は、緑黄色野菜などに含まれる『ルテイン』です。紫外線を吸収し、目を保護する働きがあります。ほかにも、『ビタミンA』は疲れ目に、『ビタミンB1、B12』は視神経の保護や眼精疲労に、『ビタミンB1』は視力低下を防ぐ効果があります。『アントシアニン』は血行を促進して目の疲れを回復させ、『コンドロイチン』は角膜の修復・保湿に役立ちます」

これらの栄養素は基本的に食事から摂りたいが、夏は食欲が落ちる人もいるので、足りない場合はサプリメントを活用しよう。
「目を休ませるという意味で、睡眠も不可欠です」
理想は夜10時に就寝し、8時間眠ること。就寝前にスマホを見て目を酷使するのは絶対にやめよう。
【紫外線で傷んだ目に必要な栄養素を含む食品】
●ルテイン
ほうれん草、ブロッコリー、小松菜といった緑黄色野菜など。
●ビタミンA
うなぎ、レバー、にんじんなど。
●ビタミンB12
あさりなどの貝類や魚介類、レバー、卵などの動物性食品。
●ビタミンB1
豚肉、さば、大豆、えんどう豆、グリーンピース、きな粉など。
●ビタミンC
柑橘類、レモン、キウイフルーツ、赤・黄ピーマンなど。
●アントシアニン
ブルーベリーなどのベリー類、黒豆、なす、紫いもなど。
●コンドロイチン
納豆、オクラなどのネバネバ食材、ふかひれ、魚の煮こごりなど。
【ケア】市販の目薬の選び方
重視すべきは清涼感より保湿力
紫外線によって目に痛みや充血、乾燥などの症状が出たら、うるおいを補うケアが重要だ。
「目では涙が酸素や栄養を届けています。目が乾燥すると酸素供給ができなくなるため、目薬で表面を保護する必要があります」
日焼けをしたと気がついたら、まずはうるおい成分入りの目薬をさし、光の刺激が入らないように目を閉じて休ませることが大切だという。
「その後はヒリヒリ感が落ち着くまで目元を冷やします。急性症状であれば1時間程度で痛みが引きますが、改善しない場合は眼科を受診しましょう」

日焼け直後の目は敏感になっているため、清涼成分入りの目薬は避けた方がいい。また、早く治したいからと目薬を何度もさすのもおすすめしないという。
「目薬には防腐剤が入っているものもあり、さしすぎると防腐剤アレルギーを発症したり、目の有効成分を洗い流したりするリスクがあります。用法・用量を守ったうえで、効果がないと感じたら目薬を変えるか、眼科を受診しましょう」
【紫外線で傷ついた目をケアする目薬成分】
●ヒアルロン酸ナトリウム
涙を保持して目の乾燥を防ぐ。
●コンドロイチン硫酸
保湿成分の一種。目の乾燥を防ぎ、角膜を保護する。
●ヒプロメロース
薬液に粘性を持たせることで、目のうるおいを維持する。
●ビタミンB2
角膜炎などを改善する修復作用と代謝を促進させる働きがある。
●ビタミンB6
角膜の修復と代謝を促すほか、眼精疲労の改善も期待できる。
◆教えてくれたのは:杏林大学医学部 眼科学教室教授・山田昌和さん
日本眼科学会評議員。専門分野は角膜疾患、ドライアイ、斜視弱視。杏林大学医学部付属病院眼科では主に、角膜混濁や感染性角膜炎、ドライアイなどの前眼部疾患を担当。
◆教えてくれたのは:アイリスター麻布クリニック院長・西之原美樹さん
角膜矯正のスペシャリスト。クリニックでは眼科を軸に内科、皮膚科、美容皮膚科の診療と、患者の幅広いニーズに応えている。
取材・文/番匠郁
※女性セブン2025年6月19日号