
良質な睡眠の大敵・いびき。男性に多い現象というイメージがあるかもしれないが、悩まされる人の約3分の1は女性だという。睡眠の質を下げるばかりか、糖尿病などの生活習慣病や心臓病、脳梗塞といった重篤な疾患の原因となるため、決して侮ってはいけない。
40代以降の女性は要注意
「まさか、自分のいびきがこんなに迷惑をかけていたなんて…」
こうショックを受けたと話すのは、都内在住の主婦・Aさん(64才)。寝室をともにする夫から、「うるさすぎる」と指摘され、録音したことで“発覚”した。
「自分ではまったく気づいていなかったので、夫からそう言われても信じられませんでした。むしろ、こっちはずっと夫のいびきに悩まされていたんです。でも、スマホで録音した音を聞いたら夫の比じゃなくて…(苦笑)」(Aさん)
さらにAさんに衝撃を与えたのは医師のひと言だ。
「かつて夫が通っていた病院を受診したら、睡眠時無呼吸症候群だと診断され、『放っておいたら心不全や脳梗塞を起こしていたかもしれない』と言われ、ゾッとしました。気づかせてくれた夫は命の恩人。感謝しかありません」
Aさんのように自分では気づいていない、もしくは恥ずかしくて相談しにくいのかもしれないが、女性には実は“隠れいびき患者”が多い。
女性がいびきをかく原因の1つが、下あごが後ろに下がった日本人特有の顔立ちにあるという。国際ハートスリープクリニック―つくば院長の末松義弘さんが解説する。
「下あごが小さい女性は就寝時に気道がふさがりやすいぶん、大きないびきをかきやすいのです。出産後、40~50代からいびきに悩まされる女性も多くみられますが、閉経によって女性ホルモンの分泌量が低下するなど、ホルモンバランスの変化にともなう更年期障害も一因と考えられます」
Aさんのように自分自身では気づかなかったり、恥ずかしくて相談しにくい人、そして“たかがいびき”と放置してしまうケースも多いという。しかし、いびきは高血圧、心臓病、脳梗塞を発症するリスクを高めると考えられている。

いびきを放置すると、寝ている間に一時的に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」を発症しやすくなる。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長の白濱龍太郎さんがこう話す。
「睡眠時無呼吸症候群は軽症者や自覚のない予備群を含めると、日本人の5人に1人が患っているというデータもあります。発症すると、脳や血管に充分な酸素を取り入れることができなくなるため、不眠の原因になり、日常生活に支障をきたしてしまうのです」
多くの睡眠時無呼吸症候群の患者を診察してきた慶友銀座クリニック院長の大場俊彦さんは、さまざまな病気を誘発するリスクもあると警告する。
「睡眠時無呼吸症候群になると寝ている間に酸素を取り込みにくいため、血液中の酸素濃度が低下して心臓に負担をかけ、高血圧の原因になります。夜中に何回も目が覚めてトイレに行きがちになり、夜間に眠れていないぶん昼間の眠気が強くなりやすい。仕事に集中できなくなりますし、車を運転するかたは交通事故を起こすリスクが高まるので放置は禁物です」
末松さんは、睡眠時無呼吸症候群は時に命の危険につながると警鐘を鳴らす。
「糖尿病などの生活習慣病、心臓病の原因になるだけでなく、特に多いのが循環器疾患。脳梗塞などで亡くなる患者さんがたくさんいますし、2~3分呼吸が止まってしまうかたの場合、体内の酸素濃度が急激に下がるため、就寝中の突然死につながることもあります」
舌の運動でいびきを改善
睡眠時無呼吸症候群の根本的な治療のためには、専門のクリニックの受診が必要になる。一方で、日頃の心がけで改善できることも少なくない。白濱さんは、治療を受ける前に、以下に挙げる“いびき解消メソッド”を実践してほしいと提案する。
「“舌の筋トレ”を行って舌を強化することで、睡眠時に舌が喉の奥に落ち、気道を狭める現象を防止します。やり方は簡単。1日1回のペースで舌の前後運動、上下運動、回転運動を繰り返します。口を閉じて頰を膨らませ、すぼめることを繰り返す『頰の運動』も取り入れるとなおよいでしょう。仰向けで寝ると舌が喉の奥に落ち込んで気道が狭くなり無呼吸を誘発しやすいので、横向きの体位で寝ることも効果的です。抱き枕を抱えながら左右どちらかの半身を下にし、上部の足の膝を曲げて眠ることでスムーズな呼吸を促せます。
また、朝食に1杯のみそ汁をのむのもおすすめ。発酵食品に含まれるトリプトファンは、睡眠ホルモンの一種であるメラトニンを分泌させるため、睡眠の質を向上させます」
大場さんは「肥満体質や肥満傾向の人はいびきをかきやすい」としたうえで体重を落とすことの重要性を説き、睡眠前に心がけるべきことをアドバイスする。
「お酒はなるべく控えること。アルコールには催眠作用がありますが、睡眠中に血中アルコールの分解が進んで夜中に目が覚めやすくなり、不眠の原因になるためです。深刻な鼻づまりも安眠の敵。入浴時などに鼻をかみ、鼻の通りをよくしてから就寝するように心がけてください」
寝具の見直しも検討してみよう。
「横向きになるのが苦手な人におすすめなのが、整形外科枕という四角の枕。仰向けでも気道を広げる効果があります」(大場さん)
整形外科枕は整形外科医が開発したオーダーメードの枕で、インターネットや提携するクリニックなどで購入できる。大場さんは、女性のいびきの治療はアンチエイジングにも大きな効果がみられると話す。
「血流がよくなるため、顔色が赤みを帯び、肌がつやつやしてきます。血圧が下がれば寿命も延びますし、いいことずくめです」
睡眠は人間にとって健康の増進や体力の維持に不可欠なもの。
「いびきが改善されれば睡眠の質がよくなり、QOL(生活の質)が劇的に高まります」(末松さん)
たかがいびき、されどいびき。適切なケアが健康寿命のカギを握る。思い当たる人は恥ずかしがらずにいますぐ治療を始めよう。
※女性セブン2025年6月19日号