
健康寿命を延ばす効果があると健康習慣の要となった「腸活」。便秘や下痢の改善のみならず、免疫力強化、老化予防、美肌効果、メンタルヘルスの向上などさまざまな効用が期待される。しかし、腸活もいまや多種多様でどれをやればいいかわからない人も。そこで医師10人がみずから実践している腸活ルーティンから「本物の腸活」を学び、健やかな腸と体を手に入れよう。
腸内環境が改善されて免疫力が高まればがん予防などにも
健康長寿の重要性が高まるとともに、腸活は私たちの生活に定着した。腸には人体の免疫細胞の約7割が集まっており、腸内環境が改善されて免疫力が高まれば、感染症対策につながるうえ、がん予防などにも効果が大きいとされる。
腸活に注目が集まることで、ヨーグルトや納豆などの整腸食品や腸を整える運動についての情報があふれるなか、“どれが正解かわからない”という人は多いだろう。そこで10人の名医に、自身が実践している腸活ルーティンを教えてもらった。「本物の腸活」をぜひ生活に取り入れたい。
海藻が“究極の善玉菌”を増やす
すべての医師が腸活のルーティンに挙げたのは、バランスのよい食事だ。マイシティクリニック総院長の平澤精一さんがこう話す。

「食事は1日3食、バランスよく、しっかり食べるようにしています。なかでも重要なのが朝食は必ず食べること。食後に腸が収縮するぜん動運動が促進され、排便がスムーズに行われるため、便秘の予防に大きな効果があります」
腸内環境を改善してくれるのが発酵食品だ。埼友クリニック外来部長の高取優二さんは、納豆、ぬか漬け、みそを食事に取り入れるようにしている。

「発酵食品は善玉菌のえさになる成分を含み、有害菌や炎症の抑制にも役立ち、腸内環境を整えます。食事中はよく噛んで食べることも大切。私の目安は一口30回です。
唾液には消化酵素が含まれているため、胃腸の負担軽減につながるのです」
『新しい腸の教科書』などの著書がある江田クリニック院長の江田証さんは、朝食でみそ汁と海藻をとり、一日をスタートさせる。

「海藻は、“究極の善玉菌”といわれる酪酸菌を増やします。酪酸菌は奄美群島の徳之島、沖縄県の南大東島など、長寿で有名な地域のかたが多く持っている、“長寿菌”としても知られます。また、私は起床後に白湯を飲んで、水分を摂取することを習慣づけています。夏場は夜間に多量の汗をかきますが、脱水になると、腸内細菌叢が乱れることがわかっています」
犀星の杜クリニック六本木院長の川本徹さんも、毎朝起きてすぐにコップ1杯の水を飲む。

「コップ1杯の冷水を飲んで目覚めるのが私のルーティン。朝にとる水分は腸管の血流を改善しますし、夜間に眠っていた自律神経を刺激するため、ぜん動運動を促す効果があります」
たまプラーザ南口胃腸内科クリニック院長の平島徹朗さんは、レジスタントスターチというでんぷんに注目する。

レジスタントスターチは加熱後に冷やすことで増加し、小腸で消化吸収されず、大腸に届いて発酵し、腸内細菌を活性化させる。
「ご飯をラップに包んで冷蔵すると、レジスタントスターチが生成されます。あとは、電子レンジで温めて食べるだけ。ご飯が小腸で吸収されると糖分に変わり、高血糖の原因になりますが、レジスタントスターチは大腸まで届くため高血糖の予防にも最適。発酵すると腸の動きを改善する短鎖脂肪酸を産生し、便通の改善につながります」
ビタミンDが腸漏れを防ぐ
あきこクリニック院長の田中亜希子さんは、妊娠と出産の前後を除けば、ほとんど便秘に悩んだことがないと話す。その秘訣は、日常的に食物繊維が豊富な野菜をとることにあった。

「大根、にんじん、セロリなど食物繊維が豊富な野菜を欠かさずとってきました。空腹のときは、腹持ちがいいさつまいもを好んで食べています。あと、私は食べ物の好き嫌いがありません。好き嫌いをせずになんでも食べることで、バランスよく食べる食習慣がついていると感じます。私の周りを見ても、好き嫌いがないかたは病気にかかりにくい傾向があります」
高取さんも口を揃える。
「海藻をはじめ、もち麦、オクラ、アボカドなどの水溶性の食物繊維を多く含む食品をとるようにしています。食物繊維は腸内細菌を活性化させる働きがあり、腸の炎症を抑制したり、免疫機能を高める効果が期待できます」
松生クリニック院長の松生恒夫さんが重視するのが、“地中海型和食R”をとることだ。発酵食品を取り入れ、野菜、穀物、魚介類を中心とした伝統的な和食に、オリーブオイルを取り入れた食事が地中海型和食Rである。

「オリーブオイルに含まれるオレイン酸は、腸を刺激して便通を改善し、善玉菌を増やします。また、ポリフェノールは腸内細菌のバランスを整えてくれるのです」
平島さんは、日本人の約98%が不足しているというビタミンDが多く含まれる食品をとっている。
「ビタミンDは、鮭、さんま、いわし、まぐろなどの魚や、きくらげ、干ししいたけなどのきのこ類に多く含まれ、腸漏れ(腸のバリア機能が損なわれ、腸にとどまるべき物質が血流に漏れ出すこと)を防ぐ効果があります。
ビタミンDの受容体は脳など全身の臓器にもあるので、認知症の予防にもなるといわれています」
睡眠の専門医で、渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック院長の楠裕司さんは、腸内環境の改善で眠りの質の向上を図ることができると説く。

「ぐっすり眠るためには、腸を元気に保つことが大事。注目したいのが、昼間の活動を助けるセロトニンと、夜に眠気をつくるメラトニンというホルモン。セロトニンの約90%は腸で生成されるため、腸内環境が悪いと効率的につくられません。また、セロトニンはメラトニンを産生する材料でもあるため、不眠に悩まされる人は腸に問題があることが多いのです」
セロトニンを増やすため、楠さんが心がけているルーティンはこうだ。
「セロトニンの材料となるトリプトファンを朝にとることです。トリプトファンは肉、魚、乳製品、大豆に多く含まれていますので、一品でも、朝の食事に取り入れています」
満腹、冷たい飲み物、添加物は腸の敵
規則正しい食生活において、暴飲暴食は慎みたいもの。川本さんは、腹八分目を心がけ、胃を満腹にしないように心がけている。
「食後に胃もたれを感じたら、その後の1食を見送り、胃を休めるようにしています。満腹になると胃酸の分泌が増え、胃酸過多の状態になる。これによって胃のぜん動運動が抑制され、腸の消化吸収力が低下して、便秘の原因となるのです」
週末に食事と食事の間をしっかり空ける“プチ断食”をしていると話すのが、スクエアクリニック院長の本間良子さんだ。

「プチ断食を行うと、十二指腸からモチリンというホルモンが分泌されます。モチリンは消化管のぜん動運動を促し、腸の内側を掃除してくれます。胃のなかに残った食べ物や腸にたまったガスを排出させ、腸内をリセットするのに有効なのです」
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんは、肉の脂身など、脂肪分の多い食品はできるだけ食べないようにしているという。

「霜降りの肉やホルモンなどは避けるようにしています。脂肪分は胃を素通りし、小腸で分解・吸収されますが、体質的に脂肪の代謝酵素が少ない人は消化不良を起こしやすく、下痢になりやすいためです。
また、冷たい飲み物を飲みすぎないようにしています。過剰な水分摂取は血液が薄まり、夏バテやこむら返りの原因になります。下痢は腸内環境を悪化させるため、私は夏でもコーヒーはホットで飲むようにしています」
高取さんは、食品添加物や人工甘味料を極力避けていると話す。
「加工食品に含まれる保存料、乳化剤、スクラロースなどの添加物は、腸内細菌の多様性を乱すリスクが報告されていますし、腸管バリア機能障害や炎症性物質の増加も懸念されています。私はスーパーでも、加工食品よりも、可能な限り自然食品を選ぶよう意識していますね」
腸活のためにヨーグルトをとることに疑問を呈するのは平島さんだ。

「乳製品に含まれるカゼインは腸内環境を荒らしてしまい、栄養分が吸収されにくくなります。カゼインは腸漏れの原因物質とも考えられ、乳製品のとりすぎは腸にいいことをやっているつもりで、実際は腸活と真逆の効果が出ているという指摘もあります」
平島さんは、どうしてもヨーグルトが食べたい場合は、カゼインが入っていない豆乳ヨーグルトをおすすめするという。
大腸がん予防効果も期待できる運動
腸活において、食事と併せて重要なのが運動のルーティンだ。本間さんは、骨盤ストレッチを週2〜3回続けていると話す。
「骨盤のまわりを柔軟に保つことで腸の血流がよくなり、ぜん動運動を助けます」
江田さんは週2~3回の筋トレと有酸素運動を欠かさないという。
「息が少し切れるくらいの中程度から高強度の運動を、1日30分以上、週3回行っています。腸や脳、血管によい影響を与える、筋肉が分泌するマイオカインというホルモンには、大腸がんを予防する効果があります」

また、日々のストレスは腸内環境を悪化させる要因。高取さんは、ストレス緩和のために瞑想と深呼吸の習慣を心がけていると話す。
「腸と脳は神経によって密接に結びついており、精神的なストレスは腸の動きやバリア機能に悪影響を与えます。したがって、腸の健康維持にはメンタルケアが欠かせません。瞑想や深呼吸は仕事中にも実践しやすいと思います」
江田さんのストレス解消法は、飼い犬と触れ合うことだ。
「オキシトシンという愛情ホルモンは、ペットとの触れ合いや対人関係などで愛情を感じることで分泌され、腸に炎症を起こすストレスホルモンの影響を和らげる効果があります。ペットを飼っている人の方が、腸内の善玉菌の割合が多いという研究もある。犬を飼うと散歩が必須になるため、必然的に運動習慣も身につきます」
ただし、腸活を過剰に意識するのはかえってストレスになることも。
「本来、腸はバランスのとれた食事と適度な運動、毎日の排便習慣によって、最良の環境が保たれるようにできています。腸活を気にするあまり、生活に支障が出てしまっては本末転倒でしょう。生活習慣の改善が腸活の基本と考えてほしいですね」(岡田さん)

「超活」ではなく「チョイ活」でOK。マイペースで楽しみつつ取り組むことが、腸活継続のコツなのだ。
医師の腸活ルーティンまとめ
平澤精一さん(マイシティクリニック総院長)
・外出の2時間前には起床し、太陽光を浴びて自律神経を整える
・食事は1日3食、夜遅すぎる夕食は避ける
・カフェインは適度に、アルコールは控えめに
・水分をとりながらウオーキングを週3回、1回20~30分行う
高取優二さん(埼友クリニック外来部長)
・起床後すぐに常温の水を1杯飲み、腸のぜん動運動を促す
・発酵食品、水溶性の食物繊維が含まれる食品を積極的にとる
・1日1回、決まった時間にトイレに座り排便習慣を固定化
・ストレス緩和のため瞑想・深呼吸を行う
江田証さん(江田クリニック院長)
・起床後に白湯を飲み、必ずトイレに行く
・歯磨きは入念に行い、口の中を常に清潔に保つ

・週2~3回の筋トレと有酸素運動
・帰宅後は飼い犬を愛でる時間をつくり、幸福感を得る
川本徹さん(犀星の杜クリニック六本木院長)
・朝、必ずコップ1杯の冷水を飲む
・野菜など食物繊維が多い食べ物を20g以上、できれば30g以上とる
・食事時間は朝7時、昼1時、夜8時を厳守
平島徹朗さん(たまプラーザ南口胃腸内科クリニック院長)
・ご飯は冷蔵庫で冷やしてレジスタントスターチを生成してから、電子レンジで温めて食べる
・ごぼうやキムチなど食物繊維が多い食品をとる
・食後に豆乳ヨーグルトを食べる。豆乳に青汁の粉末を入れて飲むことも
田中亜希子さん(あきこクリニック院長)
・なんでも好き嫌いをせずに食べる
・大根、にんじん、セロリなど食物繊維が多く含まれる野菜を毎日とる

・空腹時はさつまいもなど腹持ちのいい野菜を食べる
・トイレにはがまんせずに行く
松生恒夫さん(松生クリニック院長)
・腸活を過度に意識しない。ご飯とみそ汁を基本とした食事
・地中海型和食®を意識する
・糖分は血糖値を変化させず、腸内ビフィズス菌を増やすオリゴ糖を用いる
・食後にはペパーミントティーを飲む
楠裕司さん(渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック院長)
・安眠を意識した食生活を送る
・腸内細菌には独自のリズムがあり、食事の時間や生活のリズムに合わせて活動しているため、常に決まった時間に食事をとる
・朝に肉、魚、乳製品、大豆をとる
本間良子さん(スクエアクリニック院長)
・朝に骨盤ストレッチを含む軽い運動を週2〜3回行い、骨盤周辺を柔軟に保つ
・週末に“プチ断食”を行う
・小麦や乳製品に含まれるグルテンやカゼインは腸漏れの原因となるため控える
・夏場は手作りスポーツドリンクで、便秘の原因になる脱水を予防
岡田正彦さん(新潟大学名誉教授)
・腸活のために余計なことはしない
・サプリメントには頼らずに、生活習慣のなかで腸内細菌を増やすことを意識
・人体に必須の成分が含まれている果物や野菜は、積極的にとる
・夏場は冷たい飲み物をとりすぎない
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号