
何十年も連れ添った夫婦でも“死ぬまで一緒にいる”ことは難しく、いつかはどちらかが先に亡くなる。もしいま夫に先立たれたら、残された妻を待っているのは、無数の「手続き」だ。たったひとりで「夫の死後の手続き」に追われるのは、どれほどつらいだろうか。少しでも負担を減らす方法を、いまから知っておかなくては──。【全3回の第1回】
老後、夫に先立たれて「おひとりさま」になる女性は少なくない。彼女たちの多くはこう語る。「夫が亡くなった後は、悲しむ暇もないほど忙しかった」と。東京都でひとり暮らしをしているAさん(72才)が振り返る。
「2年前に夫を脳卒中で亡くした後は、目が回るほどの手続きの嵐でした。年金の停止に始まり、葬祭費、高額療養費、生命保険、健康保険証や運転免許証の返納と、何か月も役所や年金事務所を行ったり来たり。それに必要な書類も方々から集めなければならなくて……最近になってようやく、夫が亡くなった実感が湧いてきているくらいです」
人が最期を迎えた後にすべきことは、葬儀だけではない。特に夫を亡くした妻は、ありとあらゆる手続きを自分ひとりで行わなければならない“現実”に直面し、呆然とする人は多い。しかも、その煩雑さが悲しみに追い打ちをかけてしまうことは、当事者になってみないとわからない。だが実は、制度やサービスをうまく使いこなせば、「最短ルート」で手続きを終えることも可能。手間を最小限に抑えた「夫を亡くした妻の手続き」について、専門家に聞いた。
「死亡届」は自分で出さなくていい
プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんは「人が亡くなった後の手続きは怒濤のようにあるので、放っておくと面倒になって何も進められなくなる」と忠告する。しかし一方で「絶対に自分で手続きしなければならないものは、実はそう多くはない」とも指摘する。
「計画的に動けば、夫が亡くなった後の手続きは“最短ルート”をたどることも不可能ではありません」(三原さん・以下同)
まず最初にすべきは「死亡届の提出」と「埋火葬許可証の申請」だ。だがこれは、必ずしも妻が行う必要はない。
「病院などで亡くなった場合、死亡診断書(兼死亡届)を受領後、記入して葬儀会社に渡せば、そのまま手続きを任せられる場合が多いです。死亡届の提出にひもづいて、住民票の世帯主の変更などが自動的に行われる自治体もあります」

相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。
「世帯主の変更は、自治体の方針にかかわらず、夫婦ふたり暮らしの場合は不要で、夫の死亡届を出せば妻が自動的に世帯主に繰り上がります。ただし、亡くなった人のほかに15才以上の世帯員が2人以上いる場合は、誰が世帯主かわかるよう、14日以内に自分で市区町村役場の国民健康保険課に届け出てください」
同時に国民健康保険などの資格喪失手続きも済ませられる。
「亡くなった夫の扶養に入っている場合、夫の死亡に伴って妻も資格喪失することになるので、こちらも14日以内に国民健康保険課に届け出て、新たに自分の資格確認書を受け取りましょう」(明石さん)
国民健康保険課では、「葬祭費」もまとめて申請できる。加入する健康保険から一般的に5万円ほど受け取ることができるが、これは申請しないともらえないので、忘れないように注意。
「夫が加入していたのが国民健康保険なら住んでいる市区町村役場に、会社員なら勤務先の健康保険組合などに申請しましょう。自治体によっては、申請から支給までに1〜2か月かかることもあるので、できるだけ早く申請するのがおすすめです」(三原さん)

(第2回に続く)
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号