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《コアラ丼って何だ!?》飼育頭数日本一の動物公園が教えるコアラの生態「実はすごく飛ぶ」「1日20時間寝る」可愛さ以上の“多様さ”

気持ちよさそうに眠るノゾム 2022年2月26日生まれ オス(写真提供/新潮社)
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毎年7月の最終金曜日は「世界コアラの日」。絶滅危惧種であるコアラの保全を目的に非利益団体「オーストラリアコアラ基金」が制定したものだ(編集部注:コアラに関する記念日は諸説あり)。そんなコアラ記念日にちなみ、コアラ飼育頭数日本一を誇る鹿児島県・平川動物公園でコアラ飼育員を務める落合晋作さんにその生態の魅力や飼育の歴史について話を聞いた。

コアラ飼育40年の苦労と努力

平川動物公園でのコアラの飼育は1984年10月にスタート。東京都・多摩動物公園、愛知県・東山動植物園と並び国内初の試みだった。きっかけとなったのは、その約10年前に市民グループ「コアラを鹿児島に連れてくる会」が発起した誘致活動。当時は電子メールもなく、海外からの情報収集や飼育設備準備に苦労の連続だったそう。飼育に必須であるユーカリは、園内や周辺での試験植栽を繰り返し行うことで、十分なエサの確保を成功させた。その後も、台風や寒波への備えとして鹿児島県内にユーカリ畑を40か所ほど分散して管理するなど、万全の対策を続けている。

左:インディコ 2019年12月22日生まれ メス、右:スター 2023年11月18日生まれ オス(写真提供/新潮社)
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こうして無事コアラが来園してからも、ユーカリの木の葉しか食べない、食べたユーカリの繊維や毒素を分解するため1日20時間ほど寝て過ごす、などこれまで接した動物とは異なる生態であったため、苦労が多かったという。

「当時の担当者や獣医師は、手探りで飼育管理を行っていたといえるでしょう。今でこそ、メールや電話で、オーストラリアとは連絡ができますが、そのようなツールがない時代は、未知な生き物の飼育をする感じだったと思います」と落合さんは話す。

同園ではコアラ担当の飼育員がユーカリ畑に出向き、採取や管理を行うという。コアラが生きるために必要なエサの栽培を実際に経験することで、個体の状態と、与えるユーカリの種類をリンクさせることができるのだ。

こうした地道な努力とチャレンジの積み重ねが、コアラ飼育40年の歴史の中で通算110頭(※編集部注:2025年7月現在)と国内最多の飼育頭数を維持する柱となっている。

のんびりしたイメージとは裏腹に大ジャンプを繰り出すことも(写真提供/新潮社)
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個性溢れる“素顔”と名物「コアラ丼」

現在、同園ではオス9頭、メス11頭の計20頭が飼育されている。コアラといえば“モフモフでかわいい”という印象だが、ユーカリしか食べない、ポケット(育児のう)で子育てをするなど、独特の生態を持っているのも魅力のひとつである。落合さんは「進化の過程でかわいい体形になった反面、意外にも目つきや爪は鋭く、かわいさ以上に多様な“素顔”があります」と語る。

また同園の名物といえば「コアラ丼」と呼ばれる体重測定法。約15年前に始まったこの手法は、コアラを“丼”の器に乗せて体重を量るというユニークなもの。落合さんは、「母親から引き離すと落ち着きがなくなるので、代わりにぬいぐるみを抱かせ、赤ちゃんが収まりやすいような丼をつかったのがスタートです」と説明する。

名物コアラ丼測定(写真提供/新潮社)
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エサへのこだわりと健康管理の舞台裏

美味しそうにユーカリを食べるアーチャー 2019年4月26日生まれ オス(写真提供/新潮社)
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新芽好きのコアラにとって、ユーカリの品質管理は命綱。「プンクタータ」という品種を同園のコアラたちは好むそうで、樹液が豊富で甘みがあるのが人気の秘密だ。「毎日100kgの枝葉を与えて翌朝90kg廃棄するほど、新芽を選んで食べています」と落合さん。また体調不良時に食欲が落ちた際には、“この畑の、この品種は食べることがある”という昔からの担当者の知恵を頼りに、実際に車を走らせ採取をして与えることもあるという。

思わずツッコみたくなるような寝姿をみせることも(写真提供/新潮社)
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笑いと感動があふれる飼育日常

「ユーカリの上でずっと寝ている姿は、人間で言えばケーキの上に寝ているような状態(笑い)。寝姿が個体によってさまざまなのですが、『その姿勢は楽なのか?』と思う寝姿の子もいます」と飼育の中での思わず笑ってしまう出来事を教えてくれた落合さん。

一方、心打たれるのは命の連鎖を感じた瞬間だと話す。「生まれた時から見ていた子が母親になり、子育てしている様子は感無量です。親や祖父の気持ちと同じでしょうか。また、亡くなった父親コアラに面影がそっくりな息子コアラをみると、命のつながりを感じます。遺伝子が未来につながっていくことに、担当者として立会えたことに喜びを感じ、また責任を感じます」

左:アラタ 2023年6月14日生まれ オス、右:ヒナタ 2021年3月27日 メス(写真提供/新潮社)
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最後に、落合さんは「コアラは生態も個性も多様で、見ていて飽きない動物です。ぜひお気に入りのコアラを見つけて、長い時間観察してみてほしい。そして動物園のコアラを通じて野生のコアラがおかれている状況にも目を向けていただきたいと願っております。我々飼育員は物言わぬコアラたちの代弁者として、彼らのすばらしさや魅力を伝えていきます」と言葉を残した。

そんな平川動物公園のコアラたちの魅力が詰まった公式書籍『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』(新潮社、2024年10月刊)が現在発売中。「コアラ丼」や個性的な寝相、知らなかった生態のひみつなどを網羅した一冊は、重版が決定し再び注目を集めている。

夏休みを迎えるこれからの季節、この一冊と共に平川動物園に足を運び、不思議な生態であるコアラの魅力に酔いしれてみては。

 

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『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』(新潮社)

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