
老後、夫に先立たれて「おひとりさま」になる女性は少なくない。彼女たちの多くはこう語る。「夫が亡くなった後は、悲しむ暇もないほど忙しかった」と。人が最期を迎えた後にすべきことは、葬儀だけではない。特に夫を亡くした妻は、ありとあらゆる手続きを自分ひとりで行わなければならない“現実”に直面し、呆然とする人は多い。だが実は、制度やサービスをうまく使いこなせば、「最短ルート」で手続きを終えることも可能。手間を最小限に抑えた「夫を亡くした妻の手続き」について、専門家に聞いた。【全3回の第3回。第1回から読む】
死後の手続きに必要な書類についてプレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが解説する。
「すべての手続きで必要な死亡診断書(コピー可)、亡くなった人の戸籍謄本、住民票の除票、亡くなった人と請求者のマイナンバーカード、請求者の身分証明書と印鑑のほか、請求者の所得証明書、振込先の口座情報がわかるもの(通帳など)や夫の年金証書、夫と自分の年金番号がわかるもの(年金手帳など)が必要です」(三原さん・以下同)
「戸籍の広域交付制度」で手間が大きく省けるように
死後の手続きのもっとも大きなハードルはこれらの書類集め。中でも戸籍謄本は亡くなった人が生まれてから死ぬまでのすべてが必要になる。これは昨年3月に施行された「戸籍の広域交付制度」により、手間を大きく省くことができるようになった。これまでは、本籍地の自治体に都度請求しなければならなかったのが、居住地のある市役所に請求すれば、すべての戸籍謄本を5日ほどで揃えてもらえるようになったのだ。
「世帯の住民票の写しのほか、印鑑登録証明書も、マイナンバーカードがあればコンビニのマルチコピー機で取得することもできます。銀行などでは、複数の窓口で同じ書類の提出を求められることもあるので、それぞれの書類を複数通用意しておくと、さまざまな手続きを効率よく進められるでしょう。

もし不備や不足があれば、また書類を取り直して二度手間、三度手間になってしまうので、窓口に行く前に電話で必要書類を確認しておき、万全を期しておくことも大切です」
こうした制度を利用して事前準備を進め、必要に応じて生命保険金や入院給付金、iDeCoの死亡一時金、夫が療養・入院していた場合には高額療養費などの申請も忘れずに。FPラウンジ代表でファイナンシャルプランナーの豊田眞弓さんが言う。
「生命保険金などは死亡から3年、iDeCoの死亡一時金は5年、高額療養費は2年以内とされています。ただし高額療養費は病院での精算時にすでに適用されている場合もあり、その際は手続き不要です」
「口座振替」「カード払い」は請求書を手掛かりに
もらえるお金ばかりではなく、支払うお金の手続きも“最短”で終わらせよう。夫のクレジットカードの解約はカードが手元にあれば家族や親族が申請すれば電話一本で済む場合も多いが、年会費やスマホ料金、サブスク料金などをクレジットカード払いにしている場合、カードだけを解約しても各種契約は続いているので、支払い義務はなくならない。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。
「カードだけでなく、大元の会員契約を解除する必要があります。カードの解約だけでは“引き落としができなかったので、未払い分を払ってください”という請求書が届くので、支払うと同時に契約も解除していきましょう」
忘れてはいけないのは、公共料金や家賃、マンション管理費などの引き落とし口座の変更だ。
「夫の口座振替にしていると、死後、口座凍結と同時に引き落としが停止します。放っておくと、延滞金が発生する恐れも。口座が凍結される前に請求書を頼りに重要な引き落とし内容を洗い出しておき、あとは1つずつ名義変更していけば大丈夫です」(三原さん)
一度口座が凍結されたら、遺産分割協議が終わるまでの間は、預金額の3分の1の法定相続分(上限150万円)までしか引き出すことはできない。
「逆に言えば、150万円までは引き出せるので、“凍結されたらお金が使えなくなる”と焦って大金を引き出さないように。凍結前に150万円以上のお金を引き出すと、のちのち相続放棄などの手続きができなくなる可能性もあります」(豊田さん)
無事に遺産分割協議が終わったら、銀行口座は解約、もしくは名義変更をすればいい。



※女性セブン2025年7月31日・8月7日号