
家族を亡くした後、悲しみに暮れる間もなく押し寄せるのが「死後の手続き」。特に最大の仕事となるのが「相続」だ。膨大な手間と気力がかかる相続の“最短ルート”を辿るための便利な制度や、手続きの効率を最大化させるテクニックを専門家に取材した。【前後編の後編。前編から読む】
遺産分割協議は対面でなくてもいい
財産と相続人を把握し、必要書類が揃ったら、いよいよ「遺産分割協議」だ。相続専門の行政書士・中田多惠子さんは、これこそが相続の要だと話す一方で、だからといって焦ってすぐに親族を集めて協議しようとしてはいけないとも忠告する。
「遺産分割協議をスムーズに進めるには、切り出すタイミングが大切で、専門家ももっとも気を使う部分です。少しでも早く始めようと葬儀のときに切り出せば、“供養も済んでいないのにお金の話?”と、不信感を抱かれることも。そもそも、葬儀の日は財産や相続人の把握も済んでいないことがほとんど。多くは四十九日法要以降、早くても亡くなって10日後(戸籍に死亡の記載が載る頃)くらいから相続の進め方について話し合いを始めています」
いざ話し合うときは、必ずしも対面である必要はない。行政書士で相続・終活コンサルタントの明石久美さんが話す。
「分け方が決まりさえすればいいので、話し合いの方法は電話やLINE、手紙などでかまいません。むしろ無用なトラブルを避けることにもつながります。分け方も法定相続分通りである必要はなく、全員が納得できれば、どんな分け方になっても問題ありません」

話し合いの際は、財産総額をチェックしたときとは逆の順番で進めよう。ベリーベスト法律事務所の弁護士・佐久間一樹さんが語る。
「まずは、もめがちな不動産から。次に税金関係をどう分担するか決め、最後に預貯金や株式の分け方を決めるとスムーズ。段取りよく進めれば、遺産分割協議は1〜2か月もあれば終わります」
無事に分け方が決まったら、それをもとに代表者が財産目録と遺産分割協議書をつくる。通常は1枚の協議書に相続人全員が署名・押印する必要がある。相続人の誰かが遠方にいる場合などはここでも手間が発生するが、その際は、専門家の助言のもと「遺産分割協議証明書」にすれば解決だ。
「相続人が分割協議に合意したことを証明する書類で、個別に郵送したものにそれぞれが署名・押印すればいいので、全員が集まる必要がなくなります。
その後、遺産分割協議証明書の内容をもとに、相続税があれば申告と納税、不動産の名義書き換えなどを済ませ、亡くなった人の銀行預金の解約などを済ませれば、相続は完了です」(中田さん・以下同)
このとき大切なのは、代表者を決めておくこと。その人の負担は増えるが、分散すると混乱し、期日に間に合わないケースもある。
「代表者がひとりで進めるのが難しいと感じたら、早めに専門家に依頼しましょう。相続は弁護士、司法書士、税理士、行政書士などが手続きを進めることができ、各専門家が提携してサポートできる体制を整えていることが多いので、“最初のひとり”に依頼できれば、後は専門家が連携してバックアップしてくれます」
相続は、大切な人を失ったばかりでこなさなければならない大仕事。これまで紹介したようなテクを知っておくだけで少しでも早く、ラクに終わらせることができる。使えるものはすべて味方につけよう。


※女性セブン2025年8月14日号