健康・医療

《沈黙の臓器「腎臓」と「肝臓」が引き起こす重篤な病気》腎機能の低下で高まる心筋梗塞や脳梗塞のリスク、脂肪肝は“すべての病気の出発点”

すべての病気の出発点は「脂肪肝」
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一方の肝臓には、大きく分けて4つの役割がある。栗原さんが解説する。

「1つは『代謝』。体に入ってきた栄養素を利用しやすい形に分解・合成して蓄えます。アルコールや薬を『解毒』し、脂質の分解を助ける『胆汁を生成』する働きもある。意外と知られていないのは『免疫機能』。肝臓に常在するクッパー細胞などの免疫細胞が異物を排除しているので、感染症などにかかりにくいのです」

肝臓の病気で多いのは、脂肪肝だ。東京都在住の女性Aさん(仮名)は昨年、パート勤務先で受けた血液検査で肝臓の数値に異常が見つかったという。

「肝機能を調べる値が少し高くて、脂肪肝の疑いがあると指摘されました。でもお酒はつきあい程度にしか飲まないし、やせてはいないけれど、特別太っているわけでもない。少し様子を見ようと思っています」

しかし、脂肪肝の原因はアルコールに限らないと話すのは、肝臓専門医の浅部伸一さんだ。

「食べすぎや運動不足が原因で脂肪肝になりますし、そのうち約2割がMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)といって、お酒を飲まなくても次第に肝機能が低下していきます。

健診のたびに数値が上がり続けている人はMASHの可能性があるので一度、肝臓の専門病院を受診した方がいいでしょう」

栗原さんは、「すべての病気の出発点は脂肪肝だ」と話す。

「肝臓に脂肪がつくと、血糖値や血圧を上げるサイトカインという物質を出すので、糖尿病や高血圧になりやすくなります。脂肪肝は進行して肝硬変になると肝臓がんになることがあるし、脂肪肝による動脈硬化から、心筋梗塞や狭心症を発症する人も多いことがわかっています。

ほかにも大腸がんや乳がん、胃がん、すい臓がんや、認知症のリスクも上がるので放置してはいけません」

全身の筋肉量が減少するサルコペニアや、虚弱状態のフレイルも招く。

「筋肉の材料になるたんぱく質はすべて肝臓で作られているので、肝臓の働きが悪くなるとたんぱく質を食べても筋肉ができません。たんぱく質は使われずに脂として肝臓にたまるので、脂肪肝がさらに悪化します」(栗原さん)

更年期以降は脂肪肝になりやすい

腎臓と肝臓の病気は、女性特有のリスクがあることも覚えておきたい。上月さんが言う。

「女性が腎臓を悪くする原因の1つは、生理痛や頭痛のときにのむ解熱鎮痛剤です。どうしてもつらいときに頓服としてのむならいいですが、漫然と常用していると知らないうちに腎臓が弱っていきます。高齢になると、ひざや腰痛で処方された湿布を、規定量に従わずに何枚も貼り重ね、さらに鎮痛剤を併用する人もいるので危険です。高齢者だと2週間で腎臓が悪くなり、心不全になるケースも珍しくありません」

更年期以降、女性は高血圧になりやすく、血圧が上がれば腎臓の機能は低下する。腎臓の働きが悪くなると余分な塩分と水分が排出できないため血液量が増加し、血圧がより上がるという悪循環に陥ることになる。

解熱鎮痛剤を常用していると、腎臓の機能は低下しやすくなる(写真/PIXTA)
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更年期以降は脂肪肝にもなりやすくなる。

「女性は閉経する50才前後から、女性ホルモンの分泌量が減少して代謝が低下し、内臓脂肪が増えるので脂肪肝になりやすくなります。そのくらいの年齢になると定期健診を受けていない女性が多く、悪化するまで気づかないことも多い。私が大学病院で診察していたときは、病院に来るのが遅れたために初期の肝硬変になってしまった女性がたくさんいました」(浅部さん)

“自分へのごほうび”として食べるスイーツも、肝臓の機能を悪化させる一因だという。

「甘いものや炭水化物をたくさん食べると、肝臓に脂がたまりやすくなります。また、肝臓はストレスに弱いといわれており、気象病も肝臓に影響を与えます。外と室内の温度差が激しいこの季節は肝臓にダメージが蓄積されている可能性があり、特に気象病は女性に多いといわれているので注意が必要です。

さらに女性には、免疫システムの異常で自分の肝臓に障害が起きる『自己免疫性肝炎』と、免疫異常で肝臓の中の細い胆管が壊れる『原発性胆汁性胆管炎(PBC)』が圧倒的に多い。どちらも発症原因はよくわかっていませんが、治療で対処しやすいので、早めに見つけることが肝要です」(栗原さん)

(後編に続く)

※女性セブン2025年8月14日号

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