健康・医療

《関節痛の放置は寝たきりや認知症リスクも》名医が教えるひざ・腰・肩・股関節の“痛みが消える人”と“悪化する人”の違い「座り方の最適解」「やってはいけない仕事」

《運動》正しいフォームや角度を意識する

痛みを緩和し、なくすためには、なによりも運動習慣をつけた方がいいと中川さんは言う。

「スクワットなど筋トレをしている人、毎日ストレッチをしている人は痛みがとれやすい傾向にあります。

歩けるなら無理のないよう1日7000歩ほどのウオーキングもいいし、仲間とハイキングに出かけるのもいい。どんな運動も楽しみながらやるのがいちばんです」

高林さんは、たまに後ろ向きに歩くといいと話す。

「後ろ歩きに歩く練習をすると、普段使わない筋肉を使うので、脚が上がって歩幅が広がりやすい」

かといって、痛みがあるのに無理に歩けば余計に痛めることもある。ひざが痛い人に中川さんがすすめるのは「足上げ体操」だ。

「やり方は簡単で、あおむけになって片方のひざを伸ばし、もう片方のひざを曲げる。次に伸ばした方の足を床から10cmほど上げて5秒間キープして下ろすだけ。1セット20回を1日3セット行ってください。続けるとひざが安定して、歩行時の衝撃が緩和されます」

中川匠さん監修 痛くてもひざに負担がかからない「足上げ体操」
中川匠さん監修 痛くてもひざに負担がかからない「足上げ体操」(イラスト/黒木督之)
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高林さんは、本格的な筋トレを始める前にインナーマッスルを鍛えることが重要だと説く。

「筋トレというと腹直筋のようなアウターマッスル(表層筋)を鍛える人が多いですが、体をコルセットのように支える腹横筋などのインナーマッスルを回復・改善するのが先です。最近はインナーマッスルが衰えて、そばをすすれないほど吸い込む力が衰えている人が多い。湯船の中で、お腹に力を入れながら膨らませてへこませる動きをすると腹横筋が鍛えられます」

一方で痛みが悪化するのは、体にいいからといってやみくもに運動をやりすぎる人だ。

「適度な運動を継続することに重点を置いてほしい。初めて行う運動は、少しずつ強度を上げていきましょう。準備運動もおろそかにしないこと。有酸素運動なら少し息が上がるくらいにするなど、心拍数を保ってください。

テニスやゴルフは肩や腰を痛めやすいイメージがありますが、正しいフォームで行えば問題ありません。どんな運動も基本動作を取得していない人は痛めやすい」(中川さん)

筋トレやエクササイズにも同じことがいえる。

「間違った姿勢でやれば筋肉がつかないばかりか、体を痛める原因になる。動画を見てやると自己流になりやすいので気をつけてほしい。筋トレは回数や負荷にこだわらず、正しいフォームや角度を意識して体を動かしましょう」(高林さん)

《食事》カルシウムを摂りすぎて重症化

痛みに備えて、「関節にいい」といわれる食材をせっせと摂る人は多いだろう。神奈川県在住のパート主婦・Cさん(61才)もそのひとりだ。

「最近は時々ひざが痛むので、コンドロイチンとグルコサミンのサプリメントをのみ始めました。栄養は口からも摂った方がいいから、軟骨や甲殻類も積極的に食べるようにしています」

ただしコンドロイチンとグルコサミンに関しては、中川さんは否定的だ。

「変形性膝関節症に効果があるかどうかを調べた大規模な検証の結果、グルコサミンやコンドロイチンを摂っても痛みをやわらげる効果や軟骨を保護する作用がないことがわかっています。どちらもひざの軟骨に含まれる成分ですが、直接口から食べても効果は期待できないでしょう」

骨粗しょう症を予防する観点なら、カルシウムやビタミンDの摂取がいいと話すのは新田さんだ。

「最近は変形性膝関節症の原因に骨粗しょう症が関係しているといわれています。骨密度が下がれば脊椎の圧迫骨折なども起こしやすく、関節痛が出やすい。女性は更年期で骨密度が低下するので、カルシウムを意識して摂るといいでしょう。乳製品はカルシウムが豊富で、青魚にはカルシウムの吸収を促進するビタミンDが多く含まれます」

牛乳
乳製品はカルシウムが豊富(写真/PIXTA)
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青魚
青魚にはカルシウムの吸収を促進するビタミンDが多く含まれる(写真/PIXTA)
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しかし、過剰摂取はかえって危険だ。

「血中のカルシウム濃度が増えると高カルシウム血症になり、不整脈が生じやすくなります。骨粗しょう症の薬をのんでいる人は定期的な検査が必要です。健康な体を維持するには筋肉も大事なので、たんぱく質も摂りましょう」(新田さん)

高林さんはトマトをすすめる。

「トマトにはストレスを緩和させて睡眠の質を向上させるアミノ酸の一種『GABA』が豊富です。体を修復して疲労回復に導く『成長ホルモン』は睡眠時に多く分泌されるので、良質な睡眠をとれば骨や筋肉が修復され、痛みが出にくくなると考えられます」

牛乳、トマト、青魚を食べると痛みが消えやすいという
牛乳、トマト、青魚を食べると痛みが消えやすいという(写真/PIXTA)
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特定の食材ばかりを摂るのはよくない。多くの専門家は「バランスのとれた食事がいちばん」だと話す。

「食生活が乱れている人は太りやすく、関節に負担がかかりやすい。かといってやせすぎもよくありません。栄養が不足すると、心身の活力や筋力が低下する『フレイル』になり、痛みが出やすい体になります」(中川さん)

《治療》リハビリで痛みを卒業する

医師や病院とのつきあい方にも境界線がある。新田さんは「素直に医師の話を聞く方が、痛みはとれやすい」と言う。

「最近はインターネットにさまざまな情報があふれていますが、偏った考えに固執して医師の意見に耳を傾けない人は治りにくいと感じます」(新田さん)

痛みがあればできるだけ早く病院を受診するのが正解だ。出家さんは、理学療法士がいる病院を選んだ方がいいとアドバイスする。

「単に痛みをとる治療ではなく、関節の動きをよくして痛みを卒業するなら、理学療法士によるリハビリでないと難しい。理学療法士は医師が立てた方針をもとに、実際に患者さんを触ってリハビリを行います。自宅でのやり方を教えてもらえるし、自己流で間違ったことをしていれば指摘してもらえるでしょう」

何より大事なのは、違和感があればすぐ病院に行くこと。痛みがひどくなるのは、医療機関の受診が遅れる人だと新田さんは言う。

「年のせいにして民間療法だけに頼っていると、とれる痛みもとれなくなる。最近は90才でも人工関節置換術を受ける患者さんがいます。いくつになっても体のメンテナンスをして積極的に活動している人は、症状が悪化しづらいです」

人生100年時代。最後まで動ける体を維持するために、できることをしよう。

※女性セブン2025年9月11日号