健康・医療

普及する安価なジェネリック薬に潜む危険性 “原薬”は中国などの海外メーカーに依存、製造管理のずさんさや衛生意識の低さに大きな懸念 

安価なジェネリック薬には危険が潜む(写真/PIXTA)
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処方箋薬がジェネリック薬に置き換わりつつある。昨年10月、厚労省が先発薬を希望する患者の自己負担額を増額するなど、ジェネリック薬への切り替えを強力に推進したことで同年同月にジェネリック薬の使用割合は9割を超えた。

超高齢社会を迎え、増大が避けられない日本の医療費。そうした中で安価なジェネリック薬が普及することは、喜ばしいことかもしれない。だが、その一方でのむと命にかかわる「危ない薬」が私たちの口に入る危険性が増しているという。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが指摘する。

「近年、ジェネリック薬の品質不祥事が相次いでおり、異物混入による死亡事故も起きている。さらに薬の原料の海外依存が深まり、医薬品の質の低下が懸念されています」

ジェネリック薬メーカーで発覚したずさんな品質管理

ジェネリック薬とは先発薬の特許の有効期限が切れた後、先発薬を模倣して作られる後発医薬品のこと。

薬を一から作る場合、研究開発や治験に莫大な費用と長い時間がかかる。そのため、先発薬を作る製薬会社は開発費用を回収するために、高い価格を設定する。

「薬の価格を決めるのは厚労省で、先発薬の場合は創薬コストを考慮して高い薬価が設定されています。これに対し、ジェネリック薬は研究開発の費用や時間がかからない。そのため薬価が安く設定されているのです」(室井さん)

しかし、その一方で指摘されてきたのがジェネリック薬の品質である。

表向き、ジェネリック薬と先発薬は“同じ効果を持つ”ことになっている。だが、実際は効き目が異なることが多々あるようだ。都内のクリニックに勤務する内科医が打ち明ける。

「ジェネリック薬を服用する患者の中には“効果が弱い”とか“副作用が強い”などと言う人が多い。先発薬に戻すと症状が治ったという経験をした患者は多いと思います」

製造方法の変化が薬の効き目に影響を与えている(写真/PIXTA)
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なぜ効き目が異なるのか。

「ジェネリック薬は、有効成分は先発薬と同じでも薬を作る材料や添加物、製造工程が異なります。製造方法の変化が薬の効き目に影響を与えていると考えられます」(室井さん)

それに加え、多くのジェネリック薬メーカーでずさんな品質管理が立て続けに明らかになっている。

ジェネリック薬メーカー最大手だった日医工では2021年に、作用を調べる品質試験で不合格となった商品を廃棄せず、錠剤を砕いて再利用するなどの品質不正が明らかになった。

中堅の小林化工では水虫などの皮膚病用のみ薬に、睡眠導入剤が混入。服用した患者が意識喪失や記憶喪失となる健康被害が200件以上発生。車の運転中に意識障害となるケースも複数報告され、2名が死亡している。

こうした不祥事は氷山の一角で、ここ数年間だけで十数社のメーカーがジェネリック薬に関係する薬機法違反で行政処分を受けている。品質不祥事が相次ぐ理由について、内科医で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは「多くのメーカーが経営危機に陥っていることが原因の1つ」と指摘する。

「かつては、厚労省が設定するジェネリック薬の価格が高かったので多くのメーカーが乱立し、各社はそれなりに利益を得ていました。しかし、近年、厚労省が薬価引き下げに転じると、メーカー各社は過剰なコスト削減に追い込まれ、生き残るために品質不正をする会社が出たと考えられます」

コストの低い海外企業に依存する「原薬」

さらなる問題は、窮地に陥ったメーカーが「原薬」を中国などの海外企業に依存することだ。

原薬とは、薬の有効成分のこと。解熱鎮痛薬だと「アセトアミノフェン」や「ロキソプロフェンナトリウム水和物」が原薬にあたる。

すでに日本のジェネリック薬は海外に依存している。「ジェネリック医薬品・バイオシミラーに関する使用実態・取り組み状況等に関する調査報告書」(2025年3月)によると、輸入調達してそのまま使用される原薬の製造国は中国が多く、ジェネリック薬の製薬会社125社の仕入れ先企業1678社のうち約20%が中国だった。

「原薬の製造過程には原料となる化学物質を混ぜて合成させたり、結晶化させたものをさらに精製して乾燥させるなど高度な技術が必要となる。しかし、製造拠点が外国にある場合、製造管理のずさんさやルール未整備、衛生意識の低さなど実態を把握しきれません。

ジェネリック薬メーカーを取り巻く環境は悪化する一途です。今後もコスト削減だけの勝負は変わらないので、よりコストの低い中国などのメーカーの原薬で作られるジェネリック薬が増えると考えられます。そうなると、品質リスクのある薬が各メーカーを介して日本の医薬品市場に流通することにつながります。国内の製薬会社が販売している薬だから安心だと思っていたら、大間違いです」(室井さん・以下同)

中国の原薬メーカーを巡っては2012年に、下水道からくみ取った再生食用油を原料に抗生物質を製造していたことが報じられた。また、中国の農村で閉経女性の尿を集めて不妊治療薬が作られていたことも発覚。

原薬の製造国は中国が多い
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アメリカでは、中国製の原薬に依存することで医薬品が汚染されるリスクに警鐘を鳴らしている。米議会超党派で構成される米中経済・安全保障調査委員会は2020年11月、中国の医薬品の安全性に関するレポートを公表した。そこでは、中国政府が国内医薬品メーカーを監督する能力を有していないことなどが指摘された。

日本では最近、インドなどの新興国からも原薬を輸入している。だが、インドの製造現場も不透明だ。アメリカの報道によれば、インドの大手製薬メーカーの製造施設では、原薬の試験結果の改ざんがあっただけでなく、施設内に数えきれないほどのハエが発生していたという。

「2023年にはインドで製造され、アメリカで販売された点眼薬が『緑膿菌(りょくのうきん)』に汚染されていたことが発覚。3人が死亡、眼球摘出や視力喪失、重篤な感染症などの事例が60件以上ありました」

そうした品質不祥事や海外依存に晒されている薬はどういったものか。

「糖尿病治療薬や降圧剤、コレステロール治療薬など、特許が切れて時間が経っているジェネリック薬は競争が激しく、コスト削減が迫られているので外国産の原薬を使っている可能性があります。ただ、原薬の原産地は薬剤情報提供書にも記されていないので、確認しようがありません」

安物買いの銭失いとはいうが、薬に関しては「命」を失う可能性がある。医療費削減と同時に安全確保も大事なはずだ。

※女性セブン2025年9月18日号

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