
体の中心にあるお尻は「全身の健康にとって重要な場所」と熱く語るのは、8万人以上の体を整えた経験を持つ治療師の磯崎文雄さん。「健康のためには、足腰を鍛えるよりも、お尻をほぐすべし!」という磯崎さんが編み出した、簡単だけど効果大の「ほぐし術」を「女性セブン」だけに初公開! お尻の筋肉が硬くなると、足や腰の動きが制限されて腰痛やひざ痛、全身の血流が悪化し、冷え症や不調の原因に…。
あなたのお尻、硬くなっていませんか? CHECKリスト
お尻が硬いかどうかは、実際に触るだけでなく、痛みの有無や、日々の行動からも確認できる。特に、太もも側に位置する中殿筋が硬くなっているといろいろ不具合が。すぐにほぐそう!
【CHECK】立っているより、座るか歩いている方がラク
じっと立っていられないのは、お尻が硬くなり、骨盤がゆがんでいる可能性がある。すぐ「休め」の姿勢をとりたくなるのは黄信号だ。
【CHECK】お腹がぽっこり出ている
骨盤が前傾した反り腰の状態。腰にもお尻にも負担がかかっている。
【CHECK】座っていると、とっさに立ち上がれない

長い時間ずっと座り姿勢を続けると中殿筋が緊張し、股関節がロックされた状態に。腰痛やぎっくり腰にもつながる。
【CHECK】仰向けで寝られない、寝ていても腰が痛い
「ぽっこりお腹」の反り腰タイプに多い症状。仰向けに寝たときの床と腰の間の隙間は、腰の緊張度を物語る。隙間がなくなれば痛みもやわらぐ。
【CHECK】歩幅が狭く、ちょこちょこ歩きになる
大殿筋と中殿筋が硬くなりすぎて、充分にひざを上げられず、歩幅が狭くなる。この状態で筋肉をつけようとスクワットをすると、けがをする危険性が高い。
【CHECK】立っていると壁に寄りかかりたくなる

背筋が硬くて骨盤が反り気味の場合に出やすい症状。中殿筋が硬いと、姿勢よく2本足で立ち続けることは難しく、肩こりや内臓への負担も大きくなってしまう。
【CHECK】歩行中に足がしびれることがある
中殿筋が硬くなり坐骨神経を圧迫しているサイン。放置すると歩行も困難な坐骨神経痛に発展する可能性があるので注意して。
【CHECK】歩いていると、つまずきやすい

中殿筋が硬くなると、太ももの外側を通っている腸脛靭帯が縮み、つま先を上げる動作にかかわる前脛骨筋などが動かなくなり、小さな段差などでつまずきやすくなる。
【CHECK】しゃがんだり、あぐらになるのがつらい
しゃがむ姿勢は中殿筋が硬くなっている人には困難な姿勢。あぐらの姿勢も中殿筋が硬いために、股関節周囲の筋肉が血行不良を起こし、つらくなることが多い。
【CHECK】足を組んでしまう
骨盤がゆがんで足の長さに左右差が生じるため、足を組んでいないと落ち着かない状態に。中殿筋をきちんとほぐせば足を組まなくても楽に座れるようになる。足を組む際、左足が上になる人は右側の、右足が上の人は左側のお尻がこっている。こったお尻を重点的にほぐすようにしよう。
【CHECK】猫背である
中殿筋をほぐすと背筋の緊張もとれ、姿勢の改善につながる。
【CHECK】長時間歩いたり、座っていられない
どちらも中殿筋の硬さが原因で、姿勢を維持しづらい可能性がある。
日本人はお尻を酷使している
上記のチェックリストは、筋膜マッサージの治療師・磯﨑文雄さんが、お尻が硬い人によくある日々の行動をピックアップしたものだ。

「お尻は体の真ん中にあり、座っているときは上半身の支点に、立ったり歩いたりするときは下半身の支点になる重要な場所。
お尻が硬くなると体がゆがんで痛みが出たり、“老け行動”が現れたりしますが、お尻をほぐせば元気な体を取り戻せます」(磯﨑さん・以下同)
健康の要といえるお尻は、9つの筋肉でできている。

「最も大きな大殿筋には体を支える役割があります。ところが、日本人のお尻は西洋人に比べて骨格も筋肉も小さく、大殿筋が発達していないため、大殿筋だけで上体を支え続けるのは難しいんです。そのため、大殿筋のすぐ横や奥にある中殿筋がサブ的な役割を果たして上体を支えています。中殿筋は本来の役割以上の働きを強いられているため、硬くなりやすい。しかも、老化でさらに硬くなるため、健康な体をつくりたいなら、中殿筋をしっかりほぐす必要があります」
「鍛える」前に「ほぐす」が正解
磯﨑さんがお尻ほぐしにこだわるのは、健康を保つためには、体の中で「お尻」が最も重要と考えているからだ。
「体の真ん中にあるお尻が硬いと全身の動きが制限されるので、いいわけがありません。それなのに、自分のお尻が硬いことに気づいていない人が多すぎます」
腰痛を訴える人に磯﨑さんは、まずお尻を触るようにすすめるという。
「大半の人は、『若い頃のようなハリはないけど、やわらかい』とおっしゃいます。しかし、やわらかく感じるのは『お尻の皮膚がたるんでいるだけ』と伝えると、『鍛えなくては!』と考える人が多いのです。
でも、たるんだ皮膚の下にある筋肉はカチコチに固まっていることがほとんど。この状態のまま、むやみに鍛えると、どんどん硬くなってしまいます。
そこで、『お尻の筋肉をほぐしてやわらかくする』よう伝えています」
お尻をほぐすと不調も改善する
お尻をほぐす際のターゲットである中殿筋だが、そのほとんどが大殿筋の奥に隠れている。
「とはいえ腰あたりに位置する中殿筋の上部は、皮膚のすぐ下にあるため、マッサージなどでほぐすことができます。
硬くなった中殿筋をほぐすと一気に血液が流れてやわらかくなり、お尻に温かさが戻ってきます。そして下半身の筋肉が自由に動くようになるため、足がラクに上がって歩幅が広がり、つまずかずに歩けるようになります。歩幅が広がれば歩くことがとても快適になり、ウオーキングや筋トレの効果も上がります」
このほか、血流がよくなるので冷えやむくみが改善し、肩こり、首こりも解消されていく。さらに、お尻をほぐすと、脊椎を通る自律神経の圧迫を取り除くことにつながり、自律神経が整う。その結果、自律神経失調症などのストレスによる不調が緩和され、不眠も解消。腸内環境が整い便秘も改善する。上記のチェックリストでチェックした行動もしなくなるはずだ。
100才になってもお尻はやわらかく
中殿筋がほぐれたら、長く自分の足で歩くために、鍛えることは必要ないのだろうか。
「中殿筋は生活の中で普通に歩いたり、なだらかな坂道や、階段を上り下りするだけで充分に刺激を与えられる筋肉なので、歩くためならそれ以上、鍛える必要はありません。
今回紹介しているエクササイズやマッサージを行えば、お尻まわりの筋肉の癒着やゆがみから解放され、驚くほどスムーズに歩けるようになります。
たとえば、ちょこちょこ歩きをしている人でも歩き方が変わってきます。だまされたと思って、ぜひ試してみてください」
中殿筋の位置を確認してボールを当てたら、以下から記載するStep1、中殿筋をゆるめるチクタクエクササイズのStep2の1の動きから、さっそく始めよう!
【Step1】簡単だけど効果は抜群!中殿筋「ボール」マッサージ
硬いお尻は中殿筋をほぐすとゆるみ、やわらかくなる。まずは、中殿筋の位置を把握し、ボールでじんわり圧をかけよう。
中殿筋にボールを押し当てマッサージすることで、手指で押すよりも力を使わず、体の深い部分にある筋肉を含む膜まで圧をかけられる。
おすすめはテニスボール。持ちやすい大きさとほどよい硬さでしっかり刺激できる。
用意するもの
テニスボール2個。

慣れてきたら、軟式野球のボールやスーパーボールも◎

基本の立ち姿勢
肩幅より広めに両足を広げて立ち、つま先はまっすぐ前に向ける。テニスボールを両手に持ち、腰骨の斜め下あたりにある中殿筋に軽く当てる。

●横から見ると…
右手を腰骨の下あたりに置いて腰を左右に振ったときに凹んだり、膨らんだりする場所が中殿筋だ。

【Step2】振り子のように腰を左右に揺らす「チクタクエクササイズ」
ボールを中殿筋に当てたまま、腰を左右に揺らすのが基本。さらに上体を前に倒したり、腰を大きく回したりすることで、中殿筋をほぐしながら骨盤も整えられる。
【1】【Step1】の基本の立ち姿勢で腰にボールを当て、両ひざを伸ばしたまま左右にリズミカルに腰を30回振る。

【POINT】体はまっすぐ前に向け、股関節を真横に動かすように意識する。

【2】上体を前に倒したまま、左右にリズミカルに腰を30回振る。

●正面から見ると…

【3】次に、中殿筋にボールを当てたまま腰を回す。右回し、左回しを各5回ずつ行うとよい。

【Step3】足幅を狭めて中殿筋への刺激をアップ「ひざ曲げチクタク」
基本のチクタクエクササイズができたら、次は肩幅くらいまで足幅を狭めて立ち、ひざを軽く内側に曲げて行おう。ボールを押す強さは、痛気持ちいい程度がベストだ。
【1】両足を肩幅程度に開き、つま先をまっすぐ前に向けて立ち、テニスボールを両手に持って中殿筋に当てる。

【POINT】基本よりも足幅を狭め、つま先をまっすぐ前に向けること。足が外を向いていると、中殿筋をうまく刺激できないので注意して!
【2】左ひざを軽く内側に曲げながら、右に腰を動かし、体重を右側に乗せる。このとき右ひざは曲げないように意識する。

【3】今度は右ひざを軽く内側に曲げながら、左に腰を動かし、体重を左側に乗せる。このとき左ひざは曲げない。

【4】【2】と【3】を繰り返し、左右にリズミカルに腰を30回動かす。その後、上体を前に倒して腰を左右に振ったり、腰を回したりしてみよう。
【Step4】足先を内側に向けて行う「中殿筋の強ほぐしチクタク」
つま先を内側に向けて立った姿勢でチクタクエクササイズを行うと、中殿筋への刺激が強まり、より腰を深く傾けられる。
【1】両足を肩幅程度に開き、つま先は15度程度、内側に向けて立つ。テニスボールを両手に持って中殿筋に当てる。

【POINT】つま先を15度ほど内側に向けると、大殿筋の下にある中殿筋が表に出てくるので、皮膚の上から触れやすくなる。
【2】左ひざを思い切り内側に曲げながら右に腰を動かし、体重を右足に乗せる。このとき右ひざは曲げないように意識する。

【POINT】ひざを曲げるのは片側だけ。もう一方の足は伸ばしたまま体重をかけること!
【3】今度は右ひざを思い切り内側に曲げながら左に腰を動かし、体重を左足に乗せる。このとき左ひざは曲げないように意識する。

【4】【2】と【3】を繰り返し、左右にリズミカルに腰を30回動かした後、上体を前に倒したり、腰を左右に回しながらリズミカルに動かす。
縮こまりがちな中殿筋をしっかり伸ばすストレッチ
日常生活ではなかなか伸ばすことのできない中殿筋を、壁を使って伸ばすストレッチ。家事の合間などにこまめに行うと、やわらかいお尻を保つことができる。
壁を使ったストレッチ
【1】右側に壁がある状態で、壁から30cmほど離れて立つ。右手を肩より少し上の位置で壁に置き、左手は腰に。左足を前に出して足を交差させる。

【2】左手で腰をグーッと壁の方に押し、右の中殿筋を伸ばす。自然に呼吸しながら30秒間キープし、ゆっくり戻す。

【3】【1】と【2】を3回繰り返したら、反対側も同様に行う。
休んでいる間に行えるごろ寝中殿筋ほぐし
布団の上や床などで寝転んで行う、テニスボールを使った中殿筋マッサージ。中殿筋を直接刺激するので痛みを感じたら圧を調整しながら行おう。
【1】体の右側を下にして寝て頭を枕に乗せ、両ひざを軽く曲げる。テニスボール2個を下のイラストのAの位置と、BかCの位置に並べて置き、体重をかける。



【2】腰を軽く前後に動かして3分間マッサージしたら体の向きを変え、反対側も同様に行う。
【POINT】痛みが強い場合は、ひざに少し体重を乗せるなどして負荷を分散させてみよう。慣れてきたら、Aの位置にボール1個だけを置いて行おう。

エクササイズ効果を高める3つのポイント
ポイント【1】「鍛える」ではなく、「ほどよい刺激」にとどめる
日本人は真面目な人が多いため、筋トレやエクササイズを始めると、ついやりすぎてしまう傾向にある。

「『健康のため』のエクササイズは、頑張りすぎない方が有効な場合が多いんです。今回紹介しているエクササイズは、『お尻をほぐすこと』を目的にしたもので、筋肉を鍛えて太く、大きくするものではありません。汗をかくくらい力を入れてしまうとかえってお尻は硬くなるので、ほぐすことを意識し、鼻歌でも歌いながら『ほどよい刺激』を中殿筋に与えましょう」(磯﨑さん・以下同)
ポイント【2】“こりが弱い”側から行い、“こりの強い”側は多めに
お尻がこり固まっていると、エクササイズ中に痛みを感じることがある。
「こり具合には左右差があるのが普通。椅子に座っていつものように足を組んでみて、どちらの足が上になるとしっくりくるか、確認してください。お尻の筋肉が硬くなっている方の足は短くなっているので、無意識に長くて余裕のある方の足を上にする傾向があり、下になった方のお尻のこりが強くなっています。

最初はこりが弱く感じる方をほぐすことを意識して、痛みに慣れてきたら、こりが強い方を長めにほぐしてください。左右が同じようにやわらかくなるのを目指しましょう!」
ポイント【3】お風呂の後に行うのが最適
Step2からのエクササイズはいつ、何回行ってもOKだが、入浴後に行うのが最適だ。

「夜の入浴後の体が温まり、血流がいいときに行えば、その日の活動によって、こり固まったお尻をほぐすことができ、スムーズに入眠できるようになります。また、朝風呂に入った後に行えば、お尻とともに全身が整い一日を活動的に過ごすことができます」
このほか、肩や首、腰、ひざなどに、こりや痛みを感じるときにも硬いお尻をほぐすと、症状改善が期待できる。
◆教えてくれたのは:I.P.F研究所主宰・磯﨑文雄さん
日本人の体に合った独自の「筋膜マッサージ(R)」を行う治療師。著書に『100歳まで歩ける「やわらかおしり」のつくり方』(青春出版社)などがある。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2025年10月30日号