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夫より稼ぐ“大黒柱妻”のリアル「すごく気を使う」「常に夫に対して申し訳ない」「気の毒だった夫を会社の代表者にした」…当事者が語る“稼げる妻”の苦悩 

ソファに座り込み、頭を抱えている女性
夫よりも稼ぐ妻の苦悩とは (写真/PIXTA)
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 男女雇用機会均等法の施行からまもなく40年。女性の就業率は年々上がり、専業主婦世帯と共働き世帯は完全に逆転した。女性の活躍が推進される社会では、日本初の女性総理大臣となった高市早苗総理のように「仕事に邁進」し、家計を担う「大黒柱妻」が増えている。だが、その実態はさまざまだ。

「稼ごうと思えばすぐに稼げる」

 美容師をするYさん(49才)の夫(56才)の職業は、ひとり親方の大工。収入はYさんの半分ほどだ。

収入は同じなのに家事や育児の負担が妻にばかり向けられるケースも多い(写真/PIXTA)
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「仕事がないときや、雨で現場がなくなったときなどは家でゴロゴロしています。雨が降っても洗濯物を入れないし、どんなに私が忙しそうにしていてもご飯も炊いてくれません。『家にいるなら家事を手伝ってよ』と頼んだことは何回もありますが『おれはお前に食わせてもらってるわけじゃない』と腰をあげようとしない。

 周りから『奥さんが稼いでるから悠々自適ですね』とか言われるのが屈辱みたいで『おれだって、仕事さえあればお前より全然稼げるんだ』と逆ギレするので面倒くさくなって頼まなくなりました。妻に家事をやらせることで夫のメンツを保てているのかな。

 ただでさえ、私の方が夫よりも長時間働いているので不公平じゃないですか。でもそれを言うとへそを曲げるので、私は食洗機やロボット掃除機、洗濯乾燥機などの便利家電を買い揃えたり、ウーバーイーツを利用して家事負担を減らしています。これらは当然私の経済力の賜物ですが、それにはもちろん触れず、“便利な世の中になったよねえ”とだけ言っています」(Yさん)

夫より稼ぐと気遣いが必要

 夫より稼いでいながらも、いや夫より稼いでいるからこそ「夫への気遣いが必要」だと話すのは、フリーランスのデザイナー、Mさん(35才)。

「4才年下の夫は公務員で、年齢的にも収入は高くありません。結婚前からそれが夫のコンプレックスになっていたようなので、『家を建てよう』ということになったとき、本当は私の貯金でキャッシュでまかなえたところを、あえて夫名義で住宅ローンを組みました。

 公務員ですから審査もスムーズだし、予想よりも融資限度額が高かったんです。“やっぱり公務員は強いわ”“フリーランスじゃ、ローンは組めなかったかも”などと持ち上げたら、夫は見たことがないくらい得意そうな顔をしていました。気をよくしたのか夫は限度額いっぱいまでローンを組み、お陰で立派な家が完成。夫も満足そうで自画自賛していますが、金利がもったいないので、自分の貯金と収入でこっそり繰り上げ返済するつもりです」

子供の送り迎えや買い物をするだけで、「イクメン」「やさしい旦那さんですね」と持ち上げられる風潮も(写真/PIXTA)
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 漫画家の瀧波ユカリさんも、「大黒柱妻」のひとり。想像もしなかったからこそ、重責を感じたと話す。

「結婚して数年間、子供が生まれて乳児のうちは共働きだったのですが、お互いフリーランスだったので時間の取り合いになってしまい、夫婦で相談して夫から『漫画を優先した方がいいんじゃないか』という提案を受けていまの形になりました。必ずしも私が仕事をして夫が家事をするというわけじゃなく、夫には経理や漫画データの管理など仕事もサポートしてもらっています。

 でも、漫画は自分で収入をコントロールできる仕事ではないので、うまくいかなくなったらどうしようというプレッシャーは常にあります」(瀧波さん・以下同)

男性より稼げない社会構造

 不安は常に夫に共有しながら解消していくという瀧波さんだが、「もし夫が大黒柱だったら」と思うと、それはそれで不安を覚えるという。

「友人や知人の話を聞いていると、やっぱり稼げない妻の方の発言権が低くなるというのはよくあるパターンのようですし、“おれより稼いでから言え!”というようなことを言われている女性っていっぱいいるんです。もし自分の夫がそういうタイプだったらすごくキツいですよね。

 そもそも女性は家事や育児、介護を担うものとされていて、男性よりも稼げない社会構造で不利益を被っている。それなのにパートナーから“稼いでから発言しろ”なんて言われたら耐えられません」

 ここ数年、瀧波家にも介護の問題が生じた。

「夫の両親も高齢となりケアサービスが必要ですが、私がそのために夫の実家に行くことはないです。夫が自分でやるから、と。でももし夫が稼ぎ頭で私がずっと家にいるようなライフスタイルだったら、私が動かざるを得なかったかも」

妻のくせに生意気だ

 運送会社を営むSさん(44才)は20才年上の夫と年の差婚だった。

「すごいお給料もらってるんでしょ?」「頼りになる旦那さんがいていいわね」とママ友の間で“嫌み”を言われる大黒柱妻も(写真/PIXTA)
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「子供を産んだのも遅かったので夫の定年と子供の将来を見据えて、10年前に運送業を始めました。トラック1台からのスタートでしたが、取引先に恵まれたこともあって年商は1億円弱にもなりました。夫や子供たちも手伝ってくれて順風満帆といったところなのですが、夫の実家や親戚がよく思ってくれません。『妻のくせに夫を従業員扱いするなんて生意気だ!』というわけです。夫に対しても『女房に食わせてもらって恥ずかしくないのか?』と言ってきます。私は夫が気の毒で、最近会社の代表者を夫にしました。

 社長と呼ばれるようになって夫は貫禄がついて生き生きしてきましたし、夫の実家や親戚も満足そうです。実際に業務を取り仕切っているのは私だし、夫はほぼお飾り状態なので従業員や子供たちからは気の毒がられますが、身内の間で波風を立たせたくないので“ま、いいじゃん”という気持ちでいます」

常に夫に対して「申し訳ない」

 Sさんのように、夫婦間では問題なくとも、周囲の偏見に悩む人も少なくない。食品メーカーで管理職を務めるFさん(46才)が話す。

「就職して20年目に管理職になり、忙しいながらも充実した生活を送っているのですが、気になるのが同じ年の夫との格差です。実は夫は同じ会社の同期なんです。夫はおとなしい性格で“言われたことはちゃんとやるけど、言われたことしかできない”人。夫と潜在能力は変わらないけど、要領のよさだけで出世してしまった私は常に夫に対して申し訳なさのようなものを感じて居心地が悪くって。

 ご近所にも私の方が上司だと知られたくありません。私が仕事を頑張れるのは、私のことを理解し、支えてくれる夫のお陰なので、家庭のパワーバランスを崩さないためにも夫のことは立ててあげたいんです」

周囲の偏見に悩む人も少なくない(写真/PIXTA)
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 働く女性、稼ぐ女性が増えても、社会の潜在的なジェンダー意識が大黒柱妻を苦しめる。

「男性が大黒柱だったら家で妻が家事も子育ても100%やる、という家庭は当たり前にあって、世間もなんとも思ってない。でも男女が逆になると世間は色眼鏡で見ますし、主夫になることに抵抗のない男性はまだ少ないでしょう。妻が自分より稼ぐとプライドが傷つくので家事分担を放棄して妨害する夫の話もよく聞きますし、だから“旦那には自分の収入は言えない”という女性も結構います。

 妻が大黒柱になった経緯って本当に家庭によってさまざまだと思うんですけど、なぜか本人が好きでそうしていて、ガツガツ仕事したいから稼ぎ頭になります!って言って、寛容でやさしい旦那さんがそれを支えるというイメージがすごくある。でもそんなことばかりじゃなく、やむにやまれぬ人もいれば、お互いのバランスに苦慮しながらの人もいて、それぞれの形を模索しているはずです」(瀧波さん・以下同)

家庭にも社会にも「見えない敵」

 瀧波さんは、男性のアイデンティティーのゆらぎを感じていると続ける。

「稼ぐということでしか自分を保てない男性は多くて、稼げるようになった妻はすごく気を使わなきゃいけないのが大多数のリアルです。逆に、『専業主夫』として取材を受けたり、情報を発信する男性もいますが、社会からの称賛にあまりこだわるとつらくなるのでは。

 働くことも家事をすることも、同じ価値があるということにやっぱり男性はまだまだ意識が向かないのかなと感じています。私たち女性も、実力や能力で評価される世の中にはなりきっていません。高市内閣の閣僚も、“北欧がビックリするくらい女性を増やします”との言葉とは裏腹にたったの2人。しかも、実務能力で選ばれたのかは疑問符が付きます」

 家庭でも社会でも、見える敵、見えない敵と戦う大黒柱妻。瀧波さんは「大黒柱妻」が当たり前になる社会を希望する。

「私が大黒柱妻と呼ばれなくなること、そんなふうに呼ばなくてもそれが普通で当たり前になったらいいなと思います。そのためには女性が能力できちんと評価されて、妻として母として、ではなく自分として力を出せるような社会になったらいいですね」

 自己実現のできる社会のために、高市総理の手腕に期待したい。

女性セブン2025111320日号